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 正直自信はあった。ヒトミさんが楽しそうな顔で首を横に振るまでは。

 違ったか。

「でも惜しいです、とっても」

「惜しい、ですか・・・それじゃぁ彼氏さんとずっと一緒にいられますように、ですか?」

 うーん、これも違うみたい。自衛官の彼とはなかなか会えないって言っていたからてっきりそうだと思ったのに。

 ヒトミさんはクスクス笑ってから簡単に答えを教えてくれた。

「早く、が正解です」

「早く、ですか」

 それってもうほとんど正解だったんじゃ? いや、これも乙女からしたら全然違うものか。

「最近、本当に全然会えていなくて。連絡だってほとんど取れていないし。特別な連絡がないくらいだからきっと元気にしているんでしょうけれど。ほら、便りがないのは、って言うじゃないですか」

 確かにそれは言うけれど。ヒトミさん、不安になったりしないのかな。

「そりゃ、まぁ元気でやっているのかとか、怪我はしていないかなとかは心配になりますけれど・・・不器用な人ですから」

 不器用だから浮気の心配はないって? うん、そうだね。多分きっとそう。

不器用かどうかまでは分からないけれど、前にデートで来てくれた時、彼氏さんがヒトミさんを見る視線がとても優しくて愛おしかったから。それはきっと大丈夫だね。

「それに、今日にこんなことを言っていてはいけませんね」

「どうしてですか?」

「七夕だからです。彦星さまと織姫様は年に一度しか会えないのに、それに比べたら私たちは沢山会っていますし、連絡手段だって。離れていても近くに感じられる瞬間は目に見えて沢山ありますし」

「ふふ、そうですね」

「はいっ。あ、写真良いですか? 今日は七夕のカクテルを彼に送ろうと思って」

「もちろんですよ、どうぞ」

 そう声を掛けるとヒトミさんは嬉しそうに笑ってスマホの電源を入れた。

 七夕限定のカクテル。商店街の企画の一環だから作ったって訳ではないけれど、毎年この日だけは真っ青なカクテル、スターダスト・レビューに色とりどりの寒天を沈ませて提供している。もちろん、オーダーした人だけの提供で広く宣伝はしていない。

「彼に、いいでしょって送っておきますね」

 連絡の返事もなかなか来なくて既読にすらならないってさっき言っていたのに、それでもなおヒトミさんは笑顔でメッセージを送る。その姿が健気で、どうか早く彼氏さんが読んでくれますようにと願うことしか出来ない。

「あ、えっ、え、あ」

 スマホを持ったまま突然変な声を出したヒトミさんは慌てた様子で“電話”の下手くそなジェスチャーを見せてくる。それは良かった。

「どうぞ」

 にっこりと答えると嬉しそうにヒトミさんは席を立った。発信者は聞かなくても分かる。

 お星様、早速願いを叶えてくれてありがとう。

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