第10話 女の一生

その老婆は教会のゴミ捨て場に捨てられている。かつては美しかった、宝石もドレスも、垢じみ、破れている。


老婆に向かって、罵声と投げられる石の中、老婆は、自分を捨てた、夫との美しい思い出を抱き、ゴミための中、死を待っている。


手が現れる。


老婆は、また男が殴りに来たのかと身構える。絶対に売らなかった結婚指輪を抱きしめながら。


「大丈夫ですよ。」


その声の主──男は老婆の手に自身の手を伸ばす。


日の光が、手のひらのように、差し込んでいく。


その男は老婆に毛布をかけ、ゴミ捨て場から連れ出す。


「大丈夫だよ。もう。」


男は老婆を家まで連れて行き、風呂場で身体を拭く。


老婆は少女の姿に変わり、男の手を取る。


──さようなら、さようなら──


少女の姿で、老婆は死んだ。


男は悲しそうな目で「彼女」のなきがらを見ている。


──ずっと見ていたのに──


『そう、なぜなのかしら。』

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