あの日見た記憶は僕の前に現れた。
渡 常一
第1話 少年の始まり
「これでミーティングを終わりにします」
顧問の先生の話が終わり部長が挨拶をする。
「起立!!気をつけ!礼!」
「「「ありがとうございました!」」」
僕が所属している部活は吹奏楽部。吹奏楽部といえば女子が大半なのだがここの土月東中学校は、男子もそこそこいる。部員は1、2年生合わせて56人と、とても多い。僕、中学2年生の土谷透はそこそこ部活を頑張っているほうだが、他の連中達とは差が大きい。
「おーい透~一緒に帰ろうぜ~」
こいつは、矢口すばる。俺と同じ昔からずっといる親友の同級生だ。
「おう、いいぜ~!」
そう返事し、残留生徒でガヤガヤしている音楽室を、後にした。
「土谷君、、、」
駐輪場で荷紐を巻いてると一足準備が終わったすばるが話しかけてきた。
「なぁ透~お前遥のこと好きだろ?」
なんだこいつ。いきなり。僕は、この14年間恋愛感情を抱いたことがない。そのこと知ってるすばるがなぜ?そんなこと聞いてくるの何年ぶりだったろ。
「なんで?そんなことないよ」
「俺さ~遥のことが好きなんだよ。最近透って結構遥と喋ってるじゃん?だから、好きなのかな~って」
と笑いながら言っている。なんだ、ただそれだけか。
「ハっハっハハハハ!」
つい笑ってしまった。僕は、遥が部長だから色々聞いたりしているだけなのに、すばるがなんか可愛く思えるようになってきたよ。
「な、なんだよ急に笑って」
「いや悪い悪い、いきなりすばるが変なこと聞いてきたからなにかなって思ったら単純なことでさ~」
そう、僕は好きな人なんていない。恋愛感情なんてない。そもそも興味がない。そんな僕にも春が来るのだろうかそう思ってすばると和気あいあいと喋っていたら、、、
「そろそろ帰りなさい!家の人が心配になるでしょ!」
と顧問の先生に怒鳴られてしまった。時計を見たら6時を指す針が7の方向に向かっていた。
「やべ!急がないと!透!急ぐぞ!」
「あ、うん!先生、さようなら!」
「はい、さようなら。気をつけて帰るんだよ~」
先生は怒ると怖いが、普段は優しいし美人だしとてもいい先生だ。おっぱい大きいし。
帰りの途中、それは起こった。カラスが上空で暴れている。その真下の畑には羽を怪我をして飛べないカラスがいる。上空にいるカラスは、その怪我をしているカラスを突然“襲いだした“。それを見てすばるが慌てた様子で
「おい、あれは少し可愛そうじゃねぇか?ここらへんは食料がないからって」
「確かにあれはないな」
僕はチャリを止めていた。そして、“襲っている“カラス目掛け石ころを投げていた。襲っているカラスは一旦そこらへんの電柱に逃げ、カァ!カァ!と強く鳴き少し時間が立てばまた怪我をしているカラスを襲いだした。そして、僕はまた襲っているカラス目掛け石ころを投げた。それの繰り返しだった。襲われているカラスは泣いていた、、、それを見ていたすばるは
「おい、もうきりがないよ仕方がないことだ」
「で、でも可愛そうじゃねぇか、、、」
僕は心が切り裂けそうだった。仲間だったものが急に襲いかかる。それを見ていると泣きそうにもなった。でも僕たちは帰らないといけなかった
「仕方ない、帰ろう」
「あぁ、、、」
再びチャリに乗り、その場をあとにする。風の音。カラスの強い鳴き声。一匹のカラスの泣き声。車のエンジンの音。色々な音が聞こえる中、1つ脳に響いた声があった。
「助けようとしてくれたきみのやさしさ、心強さ、その恩は忘れません、、、またきみの前に現れるまで待ってていてください」
僕、土谷透は恋をしたことがない。恋愛感情がない。
そんな僕にも春が訪れる。中学3年生になった始業式の春から。
「えー今日から3年B組に加わる転校生です。では、自己紹介を」
「新しくこの土月東中学校に転校しました笠川カスミです!土谷透君のことが大好きです!」
「「「ザワザワ」」」
なんだと。こんな可愛い転校生が僕にいきなり告白だと。
あの日見た記憶は僕の前に現れた。 (おわり)
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