第20話 なんだか聞き覚えのある罵倒

 その後の話し合いで、俺のポジションはアメイラの盾役ということになった。


 一見完璧に見える【銀狼】(アイクたちのパーティー名)だが、奥まで突き詰めてみると、意外にもいくつかの弱点があったのだ。


 一つは、攻撃力の低さ。


 【銀狼】にはアイクしか純粋な攻撃役がいないため、要所での決定打に欠けるのだ。アイク単体での戦闘能力は十分だが、複数を相手取ると、何時も押し切られるという。


 そこで、ホムンクルスが前衛を務めることに。あいつはステータスが高く、何故かは知らないが戦闘上手だ。カードが二枚に増えたことで、今後は攻めのバリエーションが増えることだろう。


 二つ目の弱点は、防御力の低さ。


 前者と理由が似ているが、【銀狼】の盾役はカイしかいない。それに対して守るべき後衛が二人もいるため、アイクを抜いて来る魔物の対処が大変だとか。


 ロイドはスキルを得るより前に、武術を嗜んでいたらしい。だから護身の術を持っているが、アメイラは完全な素人だ。

 常にアメイラが危なっかしいのだとか···。


 故に、俺はアメイラの護衛をすることになったのだ。


 俺自身の戦闘能力はかなり低いが、今攻略しているのは初層だ。今後の経験次第で幾らでも戦うすべを学べるし、何より俺には【危機察知:B】がある。致命傷の回避が可能であるから、アイクたちの助力が来るまでの時間を稼ぐことも容易だろう。


 さらに言えば、致命傷さえ負わなければ、大抵の怪我はアメイラが癒やしてくれる。俺とアメイラは、何気スキルの相性が抜群だった。


 と言う訳でポジションが決まったのだが、まだダンジョンの攻略は始めない。


 アイクとホムンクルスは攻撃の連携の練習をしなければいけないし、俺たちも立ち回りを覚えないといけないからだ。そして何より、盾役のカイが入院している。そんな状態でダンジョンに挑めば、死者だって出るだろう。


 あと二週間弱、俺たちは基礎がために費やすことにした。


············

······

···


「シオン君!よろしくお願いしますね」


 そして現在、俺たち【銀狼】は、目的別に分かれて行動している。


 アイクとホムンクルスは連携を極めるためにダンジョンの一層に。

 俺とアメイラは立ち回りを覚えるために、外で魔物の討伐を。

 ロイドは必要に応じて、二つのグループに交互に顔を出している。


 ホムンクルスと離れることには不安を覚えたが、まぁ大丈夫だろう。アイクと一緒にいるし、何より有事の際には逃げろと伝えてある。


「あの、話聞いてますか?」


 考え事に耽っていると、アメイラが杖で頬をつついてきた。先が鋭利な構造をしているため、地味に痛い。


「聞いてるから。痛いそれ」


「ゴブリンの討伐ですよ。何をするかは覚えてますか?」


「守りの立ち回りを覚えるために、ゴブリンを殺さずにいなし続けるんだろ?分かってるよ」


 俺の回答を聞いて満足げに頷いたアメイラは、早速ゴブリンを見つけたようだ。


「見つけたは良いんですけど、どうやって戦い始めます?」


「普通に近づけば良くね?」


「それじゃあ芸がないじゃないですか」


 なんだそれ。戦いに芸もクソもないだろ。ま、やりたい事があるんならやればいい。


「で、どうするんだよ?」


「うーーん、そうですね。挑発、とか?」


「じゃあ、やってみればいいだろ。俺はそんなことしたくないぞ?」


 うんうんと考えて、挑発文句を考えたらしい。アメイラは幼さの残る愛らしい顔を上げると、ゆっくりと口を開いた。杖の柄を強く握り、内股になってまで力んで、腹の底から声を張った。


「何時までハロウィン気分でいるんだよ醜悪な緑の肉だるま!!もう十月は終わってんだよ!!その頭に引っ付けたかぼちゃ外しやがれ!!!」


「ブッフォ!!」


 思わず吹き出してしまった。何だよその煽り方、聞いたことねーし。笑わせんな。


 ゴブリンは人語を理解しないが、それでも煽られていることには気づいたらしい。数十メートル先からでも聞こえるほどの雄叫びを上げて突っ込んできた。怒りに我を忘れている。


 てか、めっちゃ速くね?もうすぐそこじゃね?!


 慌てて剣を構えて、アメイラを庇う位置に立つ。そうした直後、脳内に声が響いた。


『一歩下がってゴブリンの攻撃を回避する』


 ?!


 アメイラ、やりすぎ!!怒らせすぎ!!馬鹿野郎ぅぅーー!!何で致命傷なの?!


「イギャャャャァァァァァア!!!!!!」


 明らかにゴブリンの域を超越した咆哮に萎縮し、一歩後退する。直後、矮小な爪を剛爪と捉えてしまうほどの攻撃が、宙を凪いだ。その風を頬に感じながらも、俺はゴブリンに剣を振りかぶる。


 横凪のそれを回避したゴブリンは、更に間合いを詰めてくる。


「シオン君!?」


「大丈夫だ!!」


 脳内で警鐘を鳴らすスキル通りに動き、隙をついて攻撃を繰り返す。


 数度それを繰り返した時、脳内でスキルが反応しなくなった。どうやら、ゴブリンのオーバーロードタイムは終わったらしい。


「おらぁあ!!」


 攻撃後の胴に目掛けて剣の腹を打ち付ける。鈍い音が響き、ゴブリンがたたらを踏んだ。


「アメイラ。ゴブリンじゃ練習にならな―――」


「前を見てください!!!」


 え?


 ゴブリンが憎しみに表情を歪め、がむしゃらに腕を振りかぶっていた。


 致命傷ではないのだろう。だからスキルは反応しなかったし、だからこそ俺の反応が遅れた。


「―――っ!!」


 剣を体の前に構えて、衝撃を殺さんと後ろに飛ぶ。直後ゴブリンの腕が体を襲った。


「がっ?!」


 短い爪が軽装な装備を貫いて肌を裂き、振りかぶった威力をダイレクトに届ける。激痛に呻き、地に膝を付けてしまった。


 そこを好機とばかりに、ゴブリンが突撃してくる。避けようと体を動かすが、痛みのせいか思うように動かない。まずい。


「ヒール!」


 ゴブリンが攻撃を繰り出すより早く、アメイラの回復魔術が発動した。それは淡い光となって俺の体を包み込み、怪我を癒やす。


「あひゃあ?!」


 何だか良く分からない悲鳴を上げながらゴブリンの攻撃を回避し、たまらず剣を振るった。


 でたらめな一撃はまぐれで首を切断し、ゴブリンを物言わぬ死骸にさせる。


「はぁ、はぁ、はぁ」


「シオン君。油断しすぎです」


「······」


こうしてはじめての練習が終わったが、何だか課題まみれだ。

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