最高のバッド・エンド

北原 さとわ

プロローグ

 バッドエンドが、嫌いだった。


 小説とか映画とか、そういうものをよく見ていると、たまに変な終わり方をする作品がある。大体それは最後にヒロインの涙とかで終わっていて、こっちとしてはどうも釈然としない気持ちになる。

昔とある恋愛ドラマの映画が公開されて、当時中学生だった僕も友人に連れられて見に行ったことがある。あまりに釈然としないラストにくびをひねっていた僕は、友人の「いやー、良いラストだったな」っていう感想をきいて驚いた。と同時に、それはどこか幼さの残った、「知ったかぶり」みたいなもののように聞こえた。

 このころの僕は小説の世界で描かれていることは所詮幻想に過ぎないことを子どもながらに知っていた。だからこそ、「小説の中くらいハッピーエンドでいさせてくれや」みたいな、どこか子どもくさいぺシニズムに駆られていたのかもしれない。



 緊張して、胸が紐で締め付けられているようにきりきりと痛む。

 両手は汗で湿り、冷えてきた。

 人気の少ないところを選んだはずなのに、近くを通る人がいるのだろうか、ちょっとした音が耳をかすめる。それらすべてが、こっちを凝視しているような気がする。しきりに顔のあたりをさすってみるが、あまり意味はない。


 「ごめんね、待たせて」


 僕は「バッドエンド」が嫌いだった。


 「いや、こっちこそごめん、忙しいのにありがとう」


 そう、あの時までは。


 「それで、話って?」


 ハッピーエンドだけを、望んでいた。

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