フレンドアップデートはもうおすみですか?

ちびまるフォイ

友達じゃいられないのは、友達になれないから

「でさーー。それが超ウケてよーー」


依然、話を続けている友達だったが全然話が入ってこない。

昨日見た夢の話が心底つまらないという問題ではなく、

友達の頭上にアップデートのマークが表示されていた。


「なぁ、なんか頭に出てるよ?」


「え? 見えないけど」


「ほら、ここだよ」


『アップデート』と書かれたアイコンをタッチした瞬間、

友達の頭の先からつまさきまで光に包まれた。


魔法少女の変身シーンのような光がやむと、

光の中から現れたのは茶髪で鼻ピアスの……誰だこいつ。


「ウィッス~~wwww」


「え? 誰!? 変身した!?」


「オレだよ、オレ。山田だよ。マブダチのズッ友じゃ~~んwww」


「俺の知ってる山田はそんな単語言わねぇよ!!」


「まぁ、なんつーか? 昔のオレとはちがうかもしんねーけど

 それはほら、時代の流れってやつじゃん?」


原因はすぐにわかった。さっきのアップデートだろう。

俺がボタンを押したせいで友達が更新されてしまった。


「それじゃ、これからどうする? ナンパしにいく?

 それともクラブでナンパする? それともダーツ行く? ナンパしに」


「お前誰だよ!!」


瓶底のような分厚い眼鏡をかけて、語ることといえばアメコミヒーローの話。

そんな等身大の友達はどこへ行ってしまったのか。


すぐにネットでアップデートの取り消し方法を探してみるも、

検索結果の一番上に真っ先に表示された。



【 フレンドアップデートしてからは戻すことができません 】


という死刑宣告だった。



それからというもの、アップデートにより価値観というか趣向があわなくなった友達とは

だんだんと連絡を取らならなくなって、学生時代の交際のように自然消滅した。

ズッ友の定義を考えさせられる。


「今度はアップデートしないように注意しないとな」


あれから俺もフレンドアップデートのことを詳しく調べた。

他の友達の頭上にもアップデートアイコンが出るようになったが、

ちゃんとアップデートされた後の結果を確認するようになった。


「ここを長押しっと」


友達のアップデートアイコンを長押し。

すると、アップデートにより更新される項目が表示される。

前は気づかずに即アップデートしてしまった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『 アップデート内容 』


・体重を更新されました

・身長が更新されました

・性格が社交的になりました

・脇汗が出やすくなりました

・社会にたいしてやや反抗的になりました

・そのほか、細かな修正をしました  ▼詳細

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


見た感じ大丈夫そうだ。

これなら更新しても問題ないだろう。

前のようにいきなり新キャラデビューぶちこんでくることもなさそうだ。


「一応、詳細も見ておくか」


▼詳細 のボタンを押すと、項目が追加で表示された。



・彼女ができました



「うおおおおい!!」


あわててアップデートをキャンセルした。

全然細かな修正じゃなかった、むしろ前半よりもインパクトが大きい。


アップデートで彼女ができたバージョンの友達になったらどうなるか。

会話の端々に出てくる嫌みのない女の影に、こっちは劣等感で死にたくなってしまう。


「アップデートはしないままにしよう。どうせ実害なんてないさ」


俺はもう誰もアップデートしないことを心に決めた。


今の友達だから、友達でいられる。

変化してしまうと友達でいられなくなるかもしれない。

嫌いになってしまうかもしれない。



アップデートしないようになってから、

友達の頭にはアップデートが表示されるのが当たり前になっていた。


最初こそ気にはなったが慣れてしまえば視界に入っても気にならない。

けれど、今日だけはちがった。


「な、なんだこれ……?」


普段は『アップデート』とだけ書かれている表示に「~7/25」と締め切りがついている。


アップデートを長押しして詳細画面を開くと、

目立つような赤色の文字で警告されていた。


------------------------------------

鈴木太郎 ver2.0.1 は 7/25でサポート終了します。


アップデートしない場合、友達を失ってしまいます。

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「うそぉ?! 古いバージョンのままじゃダメなのかよ!?」


ずっと友達のままでいられると思っていた。

この関係がいつまでも続くものと信じていた。


なのに、アップデートというつらい現実が二人の仲を引き裂く。


アップデートすべきかどうか。


アップデートすればもう昔の関係でいられなくなるかもしれない。

けれど、アップデートしなければ確実に終わりを迎える。


「……くっ、やるしかないのかっ……!」


アップデート内容を確認する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『 アップデート内容 』


・髪色が変わりました

・服のセンスが変わりました

・音楽に興味を持ちました

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……え、これだけ?」


見た瞬間に悩むほどの更新内容じゃなかったので拍子抜けした。

これくらいだったら大丈夫だろう。アップデートボタンを押す。


まばゆい光が友達を包み込んで、次に現れた時は――


「ウィッス~~www」


「ま た お ま え か!!」


どこかで見たような受け答えに既視感を覚えた。


「なんでだよ! どうしてげーうが好きでアニメが好きで

 休日は美少女フィギュアを眺めるだけで24時間を費やすお前が

 そんなことになるんだよ!?」


「てか、オレバンド始めたじゃん?」

「知らん」


「で、バンドのメンバー↑と自然と話すじゃん?

 したら、今までの自分ってマジありえなくねって思ったわけ。

 まぁオレも? そんな仲間に近づきたいって思うじゃん」


「環境かーー! 環境が人をここまで変えるのかーー!!」


今の友達なんて、とても受け入れられない。

話をしてもバンドとなんだか知らない洋楽の話しかしてこない。


「認めない!! 俺は今のお前を認めないからな!!

 必ず、元に戻す方法を見つけ出して、助けてみせる!」


「マジそういうのいいから。昔のオレじゃなく、今のオレを見てほしい。

 これってなんつーか、マジ温故知新?」


「意味わかってねぇだろ! こんな頭の悪そうな会話するやつじゃなかった!

 昔は……昔は……っ!!」


「あ、なんか出てる」


鈴木は叫び続ける俺を無視して、俺の頭上に手を伸ばした。


鈴木の指がなにかに触れた瞬間、俺の体が光につつまれた。

光の中から出てきたときには――


「ウィッス~~www」


もうさっきまで何を怒っていたのか忘れてしまった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『 アップデート内容 』


・新しい友達に順応できるようになりました。

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