アメイジング・グレイス~既に終わった英雄譚~

安芸空希

プロローグ

第1話 救われた世界、残された謎

 先の戦いは繰り返されし物語、五柱の神々によるモノだった。

 創世の時代から続く、破壊神、死神と創造神、豊穣神、狩猟神による争い。

 それはいつしか選ばれし人間――成聖者せいせいしゃに委ねられ、今となっては彼らに導かれた人々による〝戦〟へと変貌していた。

 

 結果、人間でありながらも神と同じように崇められる存在が生まれた。

 

 そう、神々ではなく人々に選ばれた戦士たち――英雄の誕生である。

 中でも、死後に至るまで祈りを捧げられた者は、本物の奇跡をもたらす人神となった。

 

 そして、先の戦いにおいて世界を救った英雄は九人いた。

 

 平和の象徴さながら、吟遊詩人たちはこぞって彼らの英雄譚を語る。

 しかし、その物語は穴だらけであるだけでなく、一つの謎が残されていた。

 

 ――何故、正義神の成聖者は死んだのか? 

 

 正義神の聖奠せいてんは、正義を執行する際にその真価を発揮する。

 

 すなわち、大義名分があればあるほどに強くなれる。

 だからこそ、誰もが疑問を抱いた。

 

 ――世界を救う。

 

 これほどの大義名分、正義が存在するだろうか?

 答えは、否。

 だとすれば、かの成聖者はどうして命を落としてしまったのか?

 

 共に戦った成聖者たちは、欠けることがなかったと云われている。

 

 英雄の存在は知られていても、それが誰かまでは語られていなかった。

 わかっているのは二人だけ。

 狩猟神と戦神の成聖者――揃って、大国の王族であったからだ。

 

 二人は世界を救った名声を存分に振るっていた。

 

 その所為かどうかは定かではないが、両国の間ではまたしても戦乱の火蓋が切られようとしていた。

 これは世界の命運を握った戦いから、僅か数か月後のことである。

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