ソフィスティケイティッド・デカダンス

山田 Ⓒ

モダニズム(街)

まるで龍のはらわたやうな雲が雨を降らして、

一面を真白まっしろにするよ、

ざ、ざ、ざあざ、ざあ。

丸々とした可愛かあいらしひをんなの倅が、

全く可愛かあいらしひ小さな男子おのこが、

母様かあさま、母様、あれは何」と、

虫食ひの年表を指すよ、

ざ、ざ、ざあざ、ざあ。

高層ビルの隙間の路地の、

ネオンの立看板たてかんばんに雨は降る。

ああ、そのぬらぬらと光るのに合わせて、

ネオンサインも閃くよ、

ああ、まるで男は羽虫の様に、

ネオンの閃きに引かれるよ、

ざ、ざ、ざあざ、ざあ。

電話が鳴つてゐるよ、

知らせの鐘を雨が消すよ、

ざ、ざ、ざあざ、ざあ………


さて、一面の真白の中に、

ある生物いきものの影が見ゆる。

其生物はゆらゆらとして居て、

の無ひ、

酷く滑らかな生き物だつた。

ああ、あの街を行く不思議な生き物は、

雨飛沫に映るまぼろしの数々に、

心音を与へているやうだつた。

さうしてまた其生物も、

雨のまぼろしの一つであつた。


ざあ、あ、ざあ、ざああ……

雨が上がるよ、

ざ、ざ、ざ、ざ……

さうして雨音が消へるのと一しょに、

雨が降る街の景色も消へるよ、

ざあ、ざ……

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