第24話【夢の花2】

 目が覚めた時、僕は病室らしき場所にいた。


『まさか、僕、入院するのか?冗談じゃない!そんな事になったら明後日のクリスマスはどうなる?』


僕は、慌てて起き上がろうとした。しかし動けない。


『まただっ!』


自由に動けない苛立ちが僕を襲った。

病室には誰もいない。個室のようだった。個室と言っても舞花の部屋のように広くはない。ベッドがあり、その横に椅子とちょっとした棚があるだけの部屋だった。ここにお見舞いの人が来たとしたら、せいぜい3人くらいが限度だろう・・・と言うくらいの広さだった。その狭さが更に僕を苛立たせた。人間は狭い所に押し込まれると気持ちにも余裕がなくなるらしい。

 僕は、あまりの苛立ちに大声で叫んだ。


「出せぇーーーーーーーー!」


その声を聞きつけたナースが部屋に入って来た。そして、


「意識、戻りましたね。」


と冷静に言った。その言い方も気に入らなかった僕は、ナースを睨んだ。ナースは、そんな態度はすでに慣れている・・・と言わんばかりに特に反応も示さず部屋を出て行った。しばらくしてからあの医師が来た。


「タケルくん・・・気が付いて良かった。今、ご両親には説明したんだが、タケルくん交通事故に遭ってね、腰の・・・脊椎を損傷したんだ。リハビリ次第ではちゃんと回復もする可能性はあるけど、しばらくは足が動かないんだよ。」


医師は淡々と説明した。僕は、何の事を言われてるのか、まったく分からなかった。僕が呆然としていると、


「舞花ちゃんに聞いたよ。クリスマスは3人で何処かに行く計画があったんだって?残念だけど、タケルくんは無理だよ。」


更に僕を落ち込ませる言葉を言って来た。僕は何も言葉が浮かんで来なかった。しばらく黙っていると、両親が入って来た。

 もっともらしく心配した様子だったが、僕には心から心配しているようには思えなかった。むしろこれからの面倒になると言われているようで嫌だった。僕は、


「悪いけど、出て行ってくれ。少し疲れたから寝たい。」


と言った。両親は素直に従った。要は帰るきっかけが欲しかったのだ。そう言う両親だった。

あっと言う間に両親は帰って行った。

医師も病室から出て行った。


 僕は一人になり、さっきの医師の言葉を思い出していた。


”残念だけど、タケルくんは無理だよ。”


『あんなに前から計画して、準備して来たクリスマス企画。明後日だと言うのに、僕は参加出来ない?

舞花にとって最後のクリスマスになるかもしれないって言うのに、僕は一緒にいられないのか?冗談じゃないっ!なんで、こんな事になっちまったんだ?足が動かないだけであとは元気だっ!なのに何で行けないんだよっ!』


僕は、また苛立ちで大声をあげた。身体が動かない分、苛立ちを何処にぶつけたらいいのか、自分でも分からなかったのだ。


 日付はすでに翌日に変わっていてクリスマスを明日に控える・・・いわゆるクリスマスイブになっていた。

史上最高のクリスマスにするつもりが、史上最低のクリスマスイブになってしまったと思うだけで、僕は涙が止まらなくなった。


 僕がやりきれない気持ちでいると、病室のドアがゆっくりと開いた。僕はナースの見回りだと思い、ドアとは反対の方に首だけ向けた。


「見回りでぇ~す♪」


小さな声だったが、透明感のある心に響く声・・・

僕は慌ててドアの方を向いた。

そこには舞花が立っていた。僕が驚いた顔をしていると、ドアを閉めながら舞花が言った。


「何やってんだか。」


『もっと他に言い方、ないもんか?』


僕は思ったが、そんなことお構いなしに舞花はベッドの横の椅子に腰かけた。


「少しは落ち着いた?私、先生に聞いてビックリしちゃったよ。だから病棟抜け出して来ちゃった♪多分、落ち込んでるんじゃないかなぁって思ってさ♪やっぱり落ち込んでたね。・・・ん?泣いてた?」


舞花は僕の顔を覗き込んだ。僕の頬には涙の跡がクッキリと残っていたらしい。舞花は優しく自分の手で涙を拭いてくれた。そして、


「早く治るおまじないっ♪」


と言って僕にキスをしてくれた。

僕は、やりきれない気持ちを抑えきれず、そのまま舞花を抱き締めた。身動きがとれない僕に前かがみで抱きしめられた舞花は、ゆっくりと椅子に座り、僕にずっと抱きしめられたままだった。僕は、このままずっと舞花を抱き締めていたいと思った。


が、舞花はしばらくして


「腰、痛いよ・・・」


とムードぶち壊しの事を言った。舞花なりに、空気を変えようとしたのだろう。僕はゆっくりと舞花を放した。


「病院でもね、クリスマスパーティーってやるのよ。今年はそれに参加すればいいよ。」


舞花がニッコリ笑って言った。


『病院じゃ意味がないんだっ!あの喫茶店じゃないとっ!』


僕は心の中で叫んでいたが、舞花には当日まで内緒にする約束を誠也としていたから、必死に作り笑顔で誤魔化した。


 悪夢なら覚めてくれっ!


僕はそう願わずにはいられなかった。

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