嘘がつけない男

レイノール斉藤

第1話

「今何時?」

「7月20日」


 起き抜けの僕の問いに、ベッドの隣で寝ながら雑誌を読んでいる彼女が、目の前にあるデジタル表示の置き時計を一瞬見て答えた。


「いや、時刻を聞いてるんだけど…」

「ここに時計あるんだから自分で見れば良いじゃん」

「起きたばかりで目がショボショボしてるんだよ………」


 仕方なく自分で見れば朝の七時半、二人とも休みなので部屋に居るのは良い。ただ、最後に朝食を作ってくれたのは何時だったかと考えてしまった。


「なんかあったっけ?」

「あ、いやそういうんじゃなくて…」

「じゃあ何?いつにも増して変な顔して」


 それが彼氏に対して言う言葉だろうか。だが訊かれてしまったからには言わなきゃいけない。


「悪い夢を見たから気分が悪いんだ」

「え?何々?どんな夢?」


 不味いな…食い付いてきた。


「いや、聞いたら君まで気分が悪くなるよ」

「翔ちゃん…私に嘘や隠し事は止めてって言ってるでしょ!」

「……」


 やれやれ、彼女はいつもこうだ。好奇心旺盛で、そのくせ自己中。他人の都合なんてお構いなし。これが可愛いと思えた時期もあったのだが…。仕方ない、正直に話そう。


「僕の視点で動いてるのも僕なんだけど、僕が君をこの部屋で殺す夢、ナイフで胸を何度も刺して、部屋中に血が飛び散ってた」

「え?なにそれ…でも夢でしょ?」


 さすがの彼女も怯えているようだ。顔が強張っている。これはおもしろい、もう少し脅してやるか。


「ところがね、ただの夢じゃないんだ」

「え、どういうこと?」

「今まで黙ってたけど…実は俺、予知夢が見れるんだ。自分視点で見た光景を後でそっくりそのまま見るんだ。まあ、代償として他人からの質問に対して、絶対に正直に答えなきゃいけないんだけどね」

「はあ?つくならもう少しマシな嘘をつきなよ」


 これには喰い付かなかったようだ。だがここで引くわけにもいかない、さらに興奮してまくし立ててみた。


「嘘じゃないって!本当に見えたんだ、そのデジタル時計も!7月19日の表示まで…って、あれ…?」


 2人で時計の方を見たまましばらく黙り込む。


「…今日って7月20日だけど?まさか、364日後の未来が見えたとか?」

「いや…さすがにそれは…ないよ。現実に見るのは必ず24時間以内だから…」


 彼女は大袈裟なため息をしてから、


「…翔ちゃん、元から嘘がつけない性格なんだから、そういうの言うだけ無駄だよ?」

「…」


 彼女は呆れと軽蔑の表情をこちらに見せつける。そう言われてはもう黙るしかなかった。言いたい事を言い終わると、彼女はベットから起き出し、下の階に降りていった。そこでようやく僕はほっと胸を撫で下ろす。

 やれやれ…どうやらバレずに済んだか。そう胸中で呟きながら、僕はデジタル時計の日付表示を7月19日に戻した。

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嘘がつけない男 レイノール斉藤 @raynord_saitou

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