見えても見えぬモノ、見えなくても見えるモノ

七戸寧子 / 栗饅頭

プロローグ

「忍法、隠れ身の術・・・」


小さくそう呟けば、拙者の体は足から順に景色に溶ける。

段々同化した箇所とまだしていない部分の境目が頭の方まで上がってきて、やがて全てが背景に呑み込まれるのだ。


自分の手を見る。大丈夫だ、ちゃんと成功している。


音を立てぬように気を配りながら、前方の小さな女の子に近づく。

三、四歳くらいだろうか、まだ随分と幼い。


その子の後ろに立ち、身長が合うようしゃがんでから肩をとんとんと叩く。


「? だあれ?」


その子が振り向く。しかし、拙者には気が付かずに不思議そうな顔をしている。それはそうだ、姿が見えないのだから。

そして、そうやって不思議がっている今がチャンス。


「いないいなぁい〜・・・」


女の子が急な声にビクッと肩を震わす。

そのタイミングで、隠れ身の術を解いて急に姿を現す!


「ばぁ!でござる!」


ぱちくり、と女の子瞬きをして固まってしまう。そして、少ししてクスッと表情をほころばせる。


「あははははっ!おもしろーい!」


「ふふ、良かったでござる」


とても愉快そうに笑う彼女の頭を優しく撫でてあげる。また嬉しそうにして、にぱっと笑う。


「ありがとーおねーちゃん!」


「どういたしまして、でござる」


そう言い残して女の子はトコトコと遠ざかる。向かう先で女の人と男の人が手招きしており、それに呼ばれたようだ。親御さんだろう。


女の子がその二人の元にたどり着いたのを見届けてから回れ右をして、拙者も歩き始める。しかし、数歩もしない内に後ろから聞き覚えのある幼い声で呼び止められ、振り向く。


「ばいばいおねーちゃん!」


先程の女の子がひらひらと手を振ってくれていた。それに応じて手を振り返し、後ろでニコニコとしている両親と思わしき人にもお辞儀をして、また歩き始める。


拙者はパンサーカメレオン。


こうやって来園している小さな子を驚かせて日々を過ごしている。元々子供は好きで、こうやって笑ってくれるのが何よりも嬉しい。時々驚きすぎて泣かせてしまうこともあるが、大半は笑ってくれる。


そうするのが拙者、パンサーカメレオンの生きがい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る