本が好きな図書館の管理人

レイノール斉藤

第1話

 旅の途中、雨と霧で覆われた森道で、偶然見つけた洋館の扉を叩いてみると、一人の女性が出迎えてくれた。

 名をサリーと名乗った。雨宿りを頼むと、案内されたのは大きな図書室だった。


「ここって、どんな本があるんですか?」

「さあ…」

「さあって…」

「読んだことが無いので…」

「いや、あなたの本ですよね?」

「私、本が大好きなんです。でも世の中には沢山の本があって、その中には私が読んでも不快に感じる内容の本もありますよね?」

「それは…まあそうでしょうね」

「本を手にとっても、もしかしたらこれを読んでも後悔するんじゃないか、そう思うと…どうしても読めないんです」

「…そう…ですか」

 それは、本が好きな内に入るのか?

「そうだ!ここにある本の中で、何かお客様のお勧めなんて御座いますか?」

「え?うーん、そうですね…」

 言われて本のタイトルをじっくり見ていると、見覚えのあるタイトルが目に飛び込んできた。

「あ、これ、黒髪のアン!懐かしいなあ、昔よく読んでましたよ。アンという女の子が…」

「やめて!!」

 そこでサリーは突然叫んだ。

 目を硬く閉じ、両耳を手で塞いで、うずくまって震えている。

 あまりにも驚いて僕のほうもビクッと体を硬直させてしまった。

 一体何が起きたんだ!?僕が何かしたのか!?


「……ごめんなさい、取り乱してしまって」

 震える声でサリーはこちらを見て言った。

「あ、いえ、僕が何か気に障るようなことでも?」

「というか、その…本の内容を聞きたくなくて」

「……はい?」

 言ってる意味が分からず、思わず聞き返してしまった。

「人から本の内容を聞いてしまったら、自分で読んだ時の感動が薄れてしまいそうで…」

「…………」

「あ、雨上がりましたね」

「え?ああ、そうですね、では僕はこれで…」

「そうですか。また、いつでもいらして下さいね」

 そう言ってサリーは笑顔で僕を見送ってくれた。


「……またいらして下さい、か…」

 もし万が一また此処に来るなんて事があったら、その時は…………


 本を何冊か御土産に持っていこう。


 そんな事を考えながら、僕はその洋館を後にした。


終わり

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

本が好きな図書館の管理人 レイノール斉藤 @raynord_saitou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説