山本悠里は反抗期
一ノ瀬りの
1,理不尽な誘導尋問
私はピアノを習っている。
ただし、先生は、母親。
一人で練習してても、何かあるとすぐに飛んで来て。
あれこれ注意してきて。
よく怒鳴られて。
あげくのはてに叩かれて蹴られて。
コンクール前とか、1日5、6時間以上は普通に練習する。鬼畜かよ。
先生が赤の他人ならいいのに。
母親だから、容赦なくしてくるし、私もたまに(しょっちゅう)愚痴をポロッと言ってしまったり。
で喧嘩になったり。
今日も親がつきっきりで練習だ。
「ほらそこ、指変えてって言ったでしょ!? 何回も言わせないでよ」
別に何回もは言ってないよね?
「もっとうたって弾きなさいよ!」(うたってというのは、口でではなくピアノで)
これでもやるように意識はしたのに。
する気がないみたいな言い方しないでほしい。
「口ごたえしないで!」
あなたの間違いを訂正しているだけですが?
「もっと音繋げて弾いてよ!」
うるさいなあ。分かってるよ。
「そんなにやる気ないならコンクール出るのやめれば?」
え、ほんとですか?
ありがとうございますやめたいです。
「あーあ、時間の無駄だったね。あんたが出たい出たいって言うから出してあげてるのに、何様?」
えと、ちょっと何言ってるか分かんないです。
あんたがそういうことをわざとらしく皮肉こめて言ってるのが一番の時間の無駄。そんなことしても何も変わらないし進まないし。
それにもともと私はコンクールに出たくてたまらなくて出たいなんて言った覚えはない。あれは完全に誘導尋問です。
母「今度のショパンコンクール、出てみる?」
「えー」
母「何、やりたくないの?」
「だって夏休みも秋休みも忙しいじゃん」
母「あんたがぐだぐだしてる時間をなくせばいくらでも練習できるわよ」
いや、できねーよ。
「部活あるし」
母「ちょっとも休めないなんてわけないでしょ?」
去年はあんたが言ってたちょっとはちょっとじゃなかったけどな。
「でも…」
母「ほら、出ておけば大学入試の時に、中高の時にした活動の欄に◯◯コンクール出ましたって書けるでしょ?」
そんな先の細かいことのために出るのかよ。
まあ毎年色々出てるし、表彰楯とかトロフィーもらえたら嬉しいけどさ。
出たら練習がどんなに大変なことになるか目に見えてるから、やる気が起きなくて当たり前だと思う。だてに6年以上コンクール出続けてきた訳じゃないんだ。
母「そんなに出たくないならいいわよ?別に」
やったぁ。
母「でもあんた、部活と勉強との両立も出来ないようじゃ、この先塾行きながら部活もピアノもやってなんて無理ですからね?」
は?
母「そうなったら部活やめてよね」
いや、そうなったらピアノの方をやめたいですけど、普通に。
母「部活とピアノどっちが大事なの?」
断然、部活ですね、はい。
母「いいからとりあえず出ておけばいいじゃない」
あんたが私を出したいだけだよね。
「いや、でも」
母「つべこべ言わずに頑張ればいいでしょ!?」
いきなりそこでキレるなよ。
「つべこべ言わずにってさ」
理不尽にキレてくる母「なんでいつもそうやる気ないのよ! 積極性ってものがないの?」
そうですね、あいにく最近は持ち合わせがないです。
でもここで、ない、って言ったらぶちギレ確定なので、
「別にないわけじゃないし」
と言っておく。
母「じゃあやっておきなさいよ」
やだなぁ。
「ていうかもう家でないと学校間に合わないんだけど」
「間に合わないんだけどじゃないわよ」
あー、はいはい…あれね…
「送って下さいお願いします」
母「はい」
そういうとこをちゃんと言わないと、「それが人にものを頼む態度ですか!?」とキレられるので。ほんと、いちいちめんどくさいんだよ。
━━母に車で送ってもらい駅に着く━━
母「で、どうするの? コンクール出ないの?」
いや、だから…
母「それくらい出来なくてどうすんのよ」
「ああ、もう! 分かったよ出るよ! 出りゃいいんでしょ!?」
母「何その言い方」
あああああー、電車来ちゃうじゃん!
「コンクール出ます、出ますからお願いします!」
母「ちゃんと練習する?」
「するよ、もうっ!」
する気ないけど!
「じゃ、行ってきますっ!」
(その日はギリギリ駆け込み乗車で間に合った。)
え、あれ?
あれのこと?最後の方の?
コンクール出ますって言ったやつ?
何をどう解釈したらあれが、
"私、コンクールに出たくてたまらないんです!お願いします!出させて下さい母上様"
的な感じになるの?え?
恐ろしい人だよね、ほんと。
誰か助けて下さいよ( ;∀;)
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