ep12-5

 魔王の力を継いだ姫君ソニアと勇者の力を継いだ騎士ツガルは嵐のように猛威をふるった。

 ツガルの手を握りながら決して離さないソニアは背中から湧き出る魔力粒子で無尽蔵に魔力回路を発動。

 ソニアの手を握りながら決して離さないツガルは片手で剣を振り、次々に迫り来る魔導軍兵士を切り倒していく。

 今日結ばれたふたりを祝福する黒いローブの参列者たち。

 襲い来る怒声はウェディングマーチ。

 ふたりの歩いた跡は真っ赤なヴァージンロード。

「ねぇ、ツガル。しっかりと見ていてね。最後のわたくしの姿を」

 火炎放射の魔力回路で魔導軍兵士を焼き払いながらソニアがささやく。

「当然だ、ソニア。お前も覚えておけよ、最後の俺の姿を」

 重厚な鎧の兵士を鎧ごと切り捨ててツガルが応える。

「この戦いが終わったら」

「もう一度入れ替わって、どこか遠い国で」

「わたくしたちの事を誰も知らない人たちの中で」

「俺はソニアとして生きる」

「わたくしはツガルとして生きる……覚えていてくれたのね、この約束」

「だから最後にしっかり目に焼き付けておこうぜ。ソニアがどんな奴で、ツガルがどんな奴だったのか」

「たっぷり見せつけてあげるわ。だからあなたも、わたくしに全てを見せて頂戴」

「もちろん!」

 かつて人々を恐怖に陥れた大魔王の末裔ソニア。

 その大魔王の軍勢を力でねじ伏せた勇者の末裔ツガル。

 最強の魔法使いと最強の剣士の戦いは常に血に塗れてきた。

 その二人が手を取りあえば、この世に敵う者など無かった。

 ふたりは城の庭園を抜け、城門に辿り着く。

 はるか遠くに見える魔導軍本部、そこへ続くメインストリートは殺気立つ魔導軍兵士で埋め尽くされている。

「どう、ツガル。ちょっと休憩しましょうか?」

「おいおい、みくびるなよソニア。この体が体力自慢だって事はよくわかっているだろう?」

「そうね、他の誰よりも分かっているつもりよ」

「なら、先を急ごう。さっさと片付けないと、ガルフストリームの体が魔皇帝の奴に乗っ取られちまう」

「でも……この敵の量は……」

 肉体強化の魔力回路が組み込まれたローブや鎧を纏った魔導軍兵士が見渡す限りにひしめいている。

 1人1人は障害にもならないとしても、さすがのソニアも敵の物量におののいていた。

 ヴォン……

 ふたりが身構える目の前へ、次元の扉の出口となる時空の歪みが現れた。

「増援!?」

「これ以上来るのかよ、やってやろうじゃねえか」

 ふたりが身構え警戒する時空の歪みの中から、二頭立ての純白の馬車が飛び出した。

 馬車は魔導軍兵士たちの波をかき分け跳ね飛ばし、ふたりの前に道を作った。

 見れば御者席にはあのグスタフの姿がある。

「待たせたな、ツガル! ソニア姫!」

「やは! ふたりとも早く乗った乗った!」

 馬車の荷台からルキーニも顔を出す。どうやらグスタフの館の方は決着がついたらしい。

 慌ててふたりが馬車にかけ乗ると、さらに次元の扉の中からアイゼン国の王宮騎士団たちが軍馬を駆って飛び出してきた。

「みんな……!」

「話は後だぜ、ツガル。総員、突撃ぃぃ!!」

「オオーーーーッ!!」

 王宮騎士団長アカシを先頭に、王宮騎士団たちが純白の馬車を守りながら魔導軍兵士たちの垣根を切り崩していく。

 血の道を作りながら一行は魔導軍本部へと進んでいった。

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