第9話 白い魔城(1)

ep9-1 第9話 白い魔城(1)

 ツガルとソニアは、マミヤの療養旅行の護衛という名目でガルフストリーム国にやってきた。

「久しいな、ツガルよ!」

 初めに訪ねたのはグスタフの邸宅だった。

 彼の家は王家の分家ということもあり、王都の城壁内にあった。

「よう、グスタフ! 無事に帰ってこれたみてぇだな!」

 ツガルは牢屋で同じ飯を食ったよしみで気さくに語りかける。

「……貴公、少し見ないうちに随分と変わったようだな?」

「へへっ、そうか?  まぁ、色々あってな」

「ウム……以前よりだいぶ開放的に見えるぞ。女口調だった頃の貴公は、なんだか思い詰めたような顔をしていたからな」

「……そうかい」

 招かれた玄関ホールで、まずは再会を祝して握手を交わす。

 グスタフはツガルに顔を寄せて、周りに聞こえぬようにそっと耳打ちした。

 ツガルの背後には青い甲冑に身を包んで顔も見えないマミヤと、メイド服を着た女が2人と、王宮騎士団長アカシ・ゴルト以下5名の騎士が控えていた。

「それで、ツガルよ。ソニア姫はどうした? 名目上はアイゼン国の姫君の療養の為にこの国を訪れたのであろう? 見たところメイド以外に女がいないではないか。もしやまだ馬車に控えておいでか?」

「ああ、ウチの姫様ならあの青い鎧の方がそうだ」

「なんと……あのような重厚な鎧を着てマトモに動けるとは。オークの戦士でも中に入っているのかと思ったぞ……いや、失礼。随分とたくましい御方なのだな、アイゼン国の姫君は……」

 グスタフは冷や汗をかいて青い鎧の姫君を物珍しそうにうかがい見る。あの鎧の中にゴリラめいた女が入っていることを想像しているようだった。

「それと、ソニアならあのメイドの金髪の方だ」

「なんと……!! おお、あれはまさしく我が姫! あの様な下々の服を着ても後光が差すように光り輝いておられるではないか!」

 グスタフはまさかソニアがメイドのような身分の低い者の服を着ているとは思わなかったようで、改めてソニアを眺めてうっとりとため息を吐いた。

 一方ソニアはグスタフが腰に提げた宝剣を見て、ツガルと一線を越えた夜を思い出したのか頬を赤らめていた。

「ソニアはメイルシュトロームのお姫様だからな、ああして身分を隠してもらっている」

「なるほど、ソニア姫を執拗に付け狙って追い回す不届き者が現れないとも限らんからな。貴公にしては良い判断だ」

 グスタフもその不届き者のうちのひとりに数えられなければいいな、とは言わずにツガルは振り返って皆に合図をし、揃ってグスタフの邸宅の中に招き入れられた。

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