ep8-11
「魔王ガルフストリーム? 確か、魔力を医療転用する事に特化したとかいう異端魔族だな。医療技術を魔族以外にも開放していて、我が国との関係も良好。他国の戦争には中立の立場を取っているとか」
「そのガルフストリーム王家の分家の男が、ソニアに相当惚れ込んでいてな。既に根回しを頼んでいる」
ツガルの話を聞いて、一体誰の事だろうかとソニアは首を傾げる。そう言えば先日の逃走劇の時やメイルシュトローム城を抜ける時にツガルは誰かと話していたような、と。
考えても思い出せないので、ソニアはとりあえずその事を放念する。
「用意が良いな、ツガルよ。そう言うことならばキミに休暇を出そう。ソニアと2人で旅行にでも……いや、私の療養の護衛と言うことで付いて来させた方が良いだろうな」
「そ、そうですか……」
「すまないね、ソニア。2人の蜜月を邪魔するつもりはないのだが、ツガルがまた荒れたときにキミひとりで押さえきれるかい?」
「……そ、それは」
「難しいだろう? 君のことは新しく雇ったメイドという事にして身分を隠しておこう。ガルフストリームは敵国ではないにしても、魔族の領土だ。メイルシュトロームの王女だと知れたら君が狙われるかも知れない。そういった事を見越して、今回ばかりは2人旅をさせるわけにはいかんのだ。他の王宮騎士も何名か連れて行こう。何かの時に手は多い方が良い」
「色々と取り計らい、ありがとうございます。マミヤ」
ソニアは深々と礼をする。
マミヤは公務を妹たちに任せる算段をして、旅の手はずを整える。
ソニアはマミヤの侍女オーマに連れられて、メイド服の採寸に行った。
マミヤの書斎に取り残されたツガルは暇を持て余して、広い書斎の中をぐるりと見回した。
書斎の床には先日メイルシュトローム城に乗り込む時に使い、帰ってきたときに床ごと裂けてしまった転送装置の魔力回路がある。
「……さすがに大所帯となっては、転送装置で行くわけにもいかねぇな」
マミヤの手描きの魔力回路は、半円を2つ並べるような形になっている。
「改めて見ると、随分複雑な回路だな……。肉体を生きたまま細分化する回路と、精神を送り込む回路を真ん中で無理繰り繋げてるのか」
そう分析して、はたと気付く。
「もし精神だけを送り込んで、その送り先に魂のない肉体が置いてあったら、その体に精神は宿るのか?」
ツガルは床の回路をなぞりながら、何か新しい考えに至ろうとする。
だが、ちょうどそこへ扉の開く音が聞こえてツガルは反射的に立ち上がり、振り向く。
「ああ、ここにいましたのねツガル。見てください、この城の侍女たちが着るメイド服をお借りしましたの!」
「おおー! こりゃすげぇ。めちゃくちゃ可愛いぜ、ソニア!」
鼻の下を伸ばしながらツガルはソニアに駆け寄る。侍女オーマが鬼のような形相でツガルを睨みつけ、ソニアをかばう。
そうしているうちにツガルは、先程まで考えていたことを忘れてしまった。
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