ep7-11
先王は両手を縛られたままだというのに、勇敢に魔王と対峙する。先王は確かに勇気ある者であると言えた。
「そんな! しかし貴方をここで戦わせる訳には……!」
ツガルが食い下がるが、先王は一歩も引かない。揺るがない。
ツガルはそんな彼の姿を見て、それならばと剣を抜いた。
「わかりました。動かないで下さい……剣閃っ!」
マミヤとの稽古の中で剣技の威力を抑えるすべを知ったツガルは、軽く剣を振って先王の腕に巻かれた鉄鎖だけを綺麗に切り取った。
そして先王に剣を手渡す。
「おお、若者よ。今の剣技は……そうか、おぬしが……。立派になったのう」
先王は何事かを呟いたが、ツガルには先王が血縁関係に気付いたのだと悟った。
「何もしてやれなんだ、不甲斐ない父を許せ」
「……」
ツガルは応える事ができなかった。体は確かに先王の子かも知れないが心は宿敵である魔王の娘なのだ。
一方、事情を聞かされていないソニアは突然の魔王と先王の対峙に戸惑うばかりであった。
「ここはあの方に任せて行きましょう、ソニア」
「ええい、行かせるものか!」
魔王の背中の黒い粒子が空中に魔力回路を形成していく。ソニアの力と同じ物のようだが生成速度も流れる魔力も段違いに高い。
「何をしている、早く行くのだ!」
先王は生成された魔力回路に自らの体をぶつけて回路をショートさせる。
「ぐわああ!」
回路に蓄積された魔力が先王の体に一気に流れ込んで蝕んだ。
「どうかご無事で、お義父さま……」
先王が魔王を食い止めるうちに、ツガルはソニアを次元の扉に送り込み、自分も扉の中へ飛び込んで行った。
森の中に取り残された先王と魔王は睨み合い、しかしどちらも口元は笑っていた。
「弱くなったな、勇者よ。やはり我らは子を成すべきではなかったな」
「おぬしも甘くなったな、魔王。昔の貴様ならあの娘もろともこの一帯を焼き払っていただろう?」
「フン、まさか! お前も見たであろう、あの娘。あれはわしの宝だ。あれをこんなくだらない宿命には巻き込みたくはなかったが」
「同感だな。わしも今まで何処にいるかも知れぬ我が子の為に戦ってきたが、最期に一目見れて安心したわい。あれなら、どんな宿命も乗り越えてゆけるじゃろうて」
「何、あの若者が貴様の息子か!? よくも我が娘を傷物にしてくれたな!」
「おいおい、相変わらず嫉妬すると背中の黒いのが激しくなるな……マリアの時もそうじゃったのう」
「……くだらん思い出話はもう終いじゃ。ゆくぞ勇者キタン、互いに死力を尽くそうぞ!」
「来い、魔王メイルシュトローム!」
激しい火花が暗い森の中でぶつかり、ひときわ輝いて、散った。
***
「あ~あ、いっちゃったね2人とも。あはっ」
メイルシュトローム城の遥か空高く、空中に止まるトランプの足場に座って水色のエプロンドレスの少女が場違いな笑い声をあげる。
「見逃して良かったのか?」
少女の隣に座る小犬が牙を剥き出しにして下界を睨んでいる。
「んー、まあね。良いもの見せてもらったし、ボクもちょっと体勢を立て直すかなー。ふわぁ~」
うーん、と伸びをして少女は月を背にだらしないあくびを吐き出す。
「分かっているだろうが、ルキーニ。お前に王位を譲ったのは……」
「はいはい、わんちゃん。そんな体じゃ南海の魔王ヴォルティーチェなんて名乗っても威厳無いもんね。大丈夫さ。ボクも早く魔王級の力を手に入れて、その名を継いであげるよっ」
少女の笑い声が穴だらけの曇り空に広がり、誰に聞かれることもなく霧散していった。
「あははっ、あははは! 待っててね、ソニアちゃん! 必ずキミの力を手に入れてみせるよ!」
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