ep7-10

 ツガルがソニアを横抱きにかかえて城を抜け出た時、ツガルの腕の中でソニアがクスクスと笑って揺れた。

「どうしましたか、ソニア?」

「ふふっ、ツガルったら。『ソニアを譲ることはできません』ですって? 貴方っていつからそんな独占欲が強くなったのかしら。それも、男の体に入った所為なの?」

「お嫌でしたか? ソニアこそすっかり女らしくなってしまいましたわね」

「あなたのお母様に仕込まれたのよ。もう大変だったのですから。あとで話しますわね」

「わたくしも後でお話があります。あなたの妹さんのことで……っと、見えてきましたわね」

 ツガルが城の裏手の森の中にたどり着くと、次元の扉の前にふたつの影が見えた。

 マミヤと先王のようだ。先王は両手を太い鎖で縛られ拘束されている。その表情は何事かを悟ったと言うよりは、腑抜けて呆けた老人そのものだった。隻眼は虚空をただ見つめている。

「マミヤ、無事にその方をお連れできたのですね」

「ツガル! キミの方こそ。……そちらのお嬢さんが、私のお兄様かい?」

「ええ、今はソニアと呼んで差し上げてください」

 マミヤは先王の手に掛けた鎖を握りしめたまま、ツガルの腕の中のソニアを覗き込んだ。

「やあ、ツガルから話は聞いたよ。久しいな、お兄様。いや、ソニアと呼ぶべきか。何だかもどかしいな」

「あら、マミヤ様。ご無沙汰しております」

「……!? ほ、本当にキミがお兄様なのかい? 何だか中身まですっかりお姫様になってしまったようだね……」

 マミヤは自分の兄の変貌ぶりに動揺を隠せない様だ。

 訝しみながらもマミヤは次元の扉の前に立つ。

「ゲートはひとりずつしか通れない。私が先に行くから次に先王を送ってくれ」

 そう言い残してマミヤがゲートに吸い込まれる。

 続いて先王を送ろうと、ツガルはソニアを腕から下ろした。

 と、そこへ空気が歪むほどの殺気を放つ者が現れた。

「そこで何をしている、貴様ら」

 残された3人が振り返ると、背中から黒い粒子を翼のように放出しながら歩み寄ってくるひとりの老いた男が現れた。

「お、お父様……」

 いち早く気づいたのはツガルだった。しかしお父様と呼ばれた男は更に顔を歪めて怒りをあらわにする。

「フン、貴様なぞにお義父様などと呼ばれる筋合いは無いわ。いや、思い出したぞ貴様は……我が娘ソニアを連れまわし下品な下着をつけさせた愚か者ではないか」

 現れた者、魔王メイルシュトロームは更に背中の黒い翼を広げてゆく。

 だが、魔王からソニアとツガルを守るように先王がツガルを押しのけて一歩前に出た。

「お前たち、ここはわしが食い止める。早く元の国に帰るのだ」

 先ほどまで呆けていた先王は、宿敵の登場によって意思を取り戻した様だった。

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