ep6-9
こうして、ツガルは義理の妹である王女マミヤの護衛となった。
護衛といっても城から出ないマミヤを襲う危険などもありはしないので、ツガルの任務は主にマミヤの遊び相手であった。
日がな一日マミヤの剣術の訓練に付き合わされたり、どのドレスがマミヤに似合うかという室内ファッションショーに付き合わされたりといった事をして過ごしていた。
時には添い寝という名の夜伽を命じられた事もあったが、ツガルが断るまでもなくオーマによって制止されていた。
「さて、今日は一体何をさせられるのやら……」
ある日ツガルがマミヤの執務室に行くと、そこには誰もいなかった。マミヤは寝坊をするようなタイプでもない。普段ならば午前中は執務室で公務を執り行っているはずだった。
いつもは国政の書類が山のように積まれているマミヤの机がきれいな平地となっていた。珍しく天板が見えている机に近づくと、ただ一枚のメモが残されていた。
『お兄様へ。今日は公務は休むことにした。離れの研究室に行っている。実験を手伝ってほしい。マミヤ』
普段の男勝りな言動からは想像できないほど流麗な文字で置き手紙が記されていた。こういうところは確かに王女様なのだなとツガルは妙に納得した。
ツガルはメモを取り、そこから見える窓の外に視線を向けた。城壁の中の雑木林に隠れるようにひっそりと佇む離れの小屋。今までツガルが招かれた事のないそこは、マミヤのプライベートな場所だと聞かされていた。
「研究室……? あんな所で何を」
雑木林はツガルが今いる王宮からは芝生の広場を挟んだ遠くにある。あんな場所の小屋では何が起きても叫び声すら王宮には届かないだろう。
「まさか、また兄妹の垣根を超えようとする良からぬ事を……!?」
護衛になってからこれまで、ほんの数日の内にもツガルはマミヤから様々なモーションをかけられていた。
マミヤはいつも邪念を感じさせないような明朗快活な態度を保っていたが、ツガルにはその下心がそれとなく伝わっていたのだ。いわゆる、女の勘というものが働いたのかもしれない。
それにしてもとツガルは思う。
つい先日までソニアと共に旅をしてきて、元は自分の物であったソニアの女体に非常に興味を引かれてあれやこれやと悪戯をしてきたのに、ソニアの体よりも女らしいマミヤの女体には何故か食指が動かないのだなと。
だからつまり、自分は男の体になったから女の体を求めていたのではなく。ソニアの体に入った彼の心に興味をそそられていたのだ、と。
彼の心を揺り動かす為に、勝手知ったる元我が体を好き放題にいじり倒したかったのだ、と。
男らしい心を持つ女体であれば誰でもいいのではない。
彼でなければダメなのだとツガルは明確に自覚するのだった。
「はぁ……。まったく、しょうがないですわね」
ツガルは自嘲気味に肩をすくめると、マミヤの待つ離れ小屋へと向かった。
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