ep5-11
「ソニアちゃんの……背中、綺麗な紋章が描いてあるよ! んん、よく見えないな。よいしょっと」
ルキーニはソニアの背中に何かを見つけたらしい。より一層、体をソニアに近づけた。
異性の体としてルキーニを意識してしまう。
結婚、子作り。ソニアの頭の中に男女の交際にまつわる様々な事がよぎる。自分はそれを受け入れることができるのか。
ソニアはのぼせた頭で自制心が緩み、取り留めもない妄想が洪水のように溢れた。
あと5センチ、3センチ……。
ソニアの手がルキーニの体に触れそうになった、まさにその時。
「……?」
湯船からもうもうと立ち昇り二人を包む湯気が何かに照らされるように明るく輝いた様に感じられた。
そして。
ジャババババッ!
大きな水しぶきが上がった。
ソニアは思わず目を覆う。
水音が収まりソニアが再び目を開けると、先程までソニアに密着していたルキーニがソニアに鋭い視線を向けて距離を取っていた。先程の水音はルキーニがソニアから離れる時の音だったようだ。
ソニアは自分の邪念を悟られて逃げられたのかとも思ったが、どうも様子がおかしい。ルキーニは今までになく真剣な表情で、さらにいつの間に出したのかトランプを空中に展開して最大防御の構えを取っている。
「……ルキーニちゃん?」
「ソニアちゃん! どうしてそれを発動させたの!?」
「え……?」
「油断させておいて、ボクの狙いはお見通しだったってわけ?」
「ルキーニちゃん、落ち着いて。何が何だか……」
ソニアが狼狽しながらも懸命にルキーニをなだめようとする。それを見るうちにルキーニも防御の構えを解いていく。
「あれれー? もしかして、ソニアちゃん今自分が何をしたかわかってない?」
「えっと……ルキーニちゃんに触ろうとしたのは謝るわ。だから一体どうしたのか教えて頂戴」
ソニアの言葉にルキーニは呆れたのか、すっかり脱力した。トランプもすべて湯面に落ちる。
「……なるほど、心が入れ替わって記憶も受け継いでいないから、術式の発動原理さえもわからないみたいだね」
ソニアに聞こえるか聞こえないかという独り言をしながら考えを纏めているようだ。
「……それじゃあ2人の心を元に戻す手伝いをボクもした方が良さそうだね。うん、うん。分かったよモツァレラ、縁談は計画通り……」
コクコクと頷き、ルキーニは自問自答のように独り言を続けた。
やがて顔を上げると、ルキーニはそそくさと湯船から出ていき再び湯煙の遠くへ消えていった。
「入浴中に邪魔してゴメンね、ソニアちゃん。楽しかったよ。また今度一緒に入ろうね」
取り繕うような台詞を残してルキーニは足早に浴室から出て行ってしまった。
「……何ですの、急にもう」
気を取り直して再び湯に浸かるソニア。
小さな欲求不満がわだかまりとなって胸中に降り積もるのをソニアは感じた。
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