ep5-8

「はぁ、参ったなぁ」

 ソニアはお城の王女専用の大浴場の湯に浸かって大きくため息を吐いた。

 ソニアの体は女だが心は男だという秘密をルキーニに打ち明けて、それを受け入れて貰えたのは良い。相手も王族で、結婚相手としては申しぶんない。しかし。

「ルキーニちゃん、中身は男なのかぁ……」

 ルキーニも心と体の不一致に悩んでいたと言っていた。と言うことはソニアの様に何らかの魔法によって誰かと魂を入れ替えられてしまったのだろう。そしてそれを受け入れて気丈に生きているようだ。

 同じ境遇であるルキーニが共にいてくれるなら、ソニアとしても心強い。

 それだけでなく、魂入れ替えの魔法についても何か分かることがあるかもしれないと希望を持てた。

 今再び、ソニアの心は揺れていた。

 女として生きるか、男に戻る事を望むか。

 どのみち自分一人では決められないことではあった。

 魂入れ替えの相方であるツガルの考えも聞きたい。だからまず、ツガルに会いたいと願った。

「こんなとき、アイツなら平気な顔して裸で乗り込んでくるんだろうなぁ。ふふっ」

 アイツはいつもそうだ、とソニアは思い出に浸る。

 ソニアが不安がって心配しているときはいつも、ツガルは何も考えていないような顔をしてスケベな事をしてくるのだ。そうしてソニアの気を紛らわしてくれる。ウジウジ悩むのもバカらしいと思えるぐらいの脳天気さでソニアの心を程良くかき乱してくれる。そのくせ、真剣に悩んでいるときはそっと側に寄り優しく付き添ってくれる。元が女だから、繊細な気遣いが上手いのかもしれない。

 ツガルはそういうヤツだったとソニアは思い出し笑いをする。

 そして、ツガルの事ばかり考えてしまう自分に気付いてソニアは湯船に顔を沈めた。誰にも見られてはいないのに、顔が赤いのは湯にのぼせたせいだと言い訳をする。

 照れ隠しのためにお湯の表面をバシャバシャと叩く。

 照れた勢いに任せて、ついでに広い湯船の中を泳いでみたりする。

「……んっ?」

 ソニアがお湯の上に大の字になって浮いて漂っていると、舞い上がる湯気の気流が乱れた事に気づいた。

 誰かが浴場の扉を開けたのかもしれない。

 王女専用の浴場に誰が……。

「…… (もしかして、ツガル!?)」

 自分の妄想が現実になったのかとソニアは動転する。もちろんそんな事はないとわかってはいても、期待してしまった。

 湯煙の中を歩き近づいてくる人影を見て、ソニアの心臓はバクバクと高鳴った。

 そして現れたのは……。

「やは! ボクもご一緒して良いかな?」

 長いタオルを前に抱えた、ルキーニだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る