トランスソウル

雪下淡花

プロローグ

ep0-1 プロローグ

 山道を行く二人連れ。

 片方は粗野な風貌の青年、もう片方は純白のドレスに身を包まれて豪奢なティアラを戴いた少女。

「なぁ、そろそろ休憩にしようぜ? 動きづらくて仕方ねぇしよ」

「なりません。日が暮れる前にこの森を抜けなければ、魔物や野盗に襲われてしまいます」

「だぁーいじょうぶだって! イザとなったらオレがとっちめてやるからよぉ」

 と、腕まくりして勝ち気な表情を浮かべるお姫様。

 金髪碧眼。肌の色は白く顔立ちはまだ幼さを残しているが、眉毛は意志の強さを表すかのような凛々しい。

 グラスハープの様に儚く可憐な声色で、しかし豪気な事を言う。

「そのか細い腕に、何が出来ると言うのです」

 対するは、腰に響くような重低音の声。傷だらけの粗野な風貌の割には落ち着いた口調だ。

 簡素な鎧の上に所々破けた紋章入りのボロマントを羽織っている所から察するに、いずこか辺境の地の騎士だろう。

 この騎士が奔放な姫君の付き人だろうか?

 だが、何やら様子がおかしい。

「ああっ、そうだ…今は『そう』なんだ…」

 ぐおお、と頭を抱える姫君。

 見守る騎士は呆れた顔だ。

「全くよお、お姫様。ちっとはこの体、鍛えといてくれりゃ良かったのによ」

「女の身ひとつで野盗を払えるくらいであれば、はじめから騎士殿を頼らなかったでしょうね」

 ふてくされる姫君をなだめる騎士。

 お互い、自分の事を他人事の様に非難する。

 それもそのはず。なぜならば、二人は…

「まさか、このオレがお姫様の身体になっちまうとはな」

「右に同じく、ですわ。このわたくしが騎士殿の身体になってしまうとは」

 二人は、心と身体が互いに入れ替わってしまっているのだった。

 どうしてこんなことになってしまったのか。二人はあの日の出来事に思いを巡らせる。

 事の始まりはそう、姫君ソニアと騎士ツガルが入れ替わったあの日……。

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