第30話 託されたもの

土方さんが心配して

医師を手配してくれた。

週に一度、往診してくれて

薬をもらって、少し落ち着いてきたようだ。

さくら、僕はいつも傍にいるよ。

もう悲しまないで。






さっき、目が覚めて


コーヒーを淹れよう


と思った。


コーヒーを淹れよう。

それだけでいい。

まずはコーヒーを淹れよう。

今日はそれだけでいい。

明日、調子が良ければ

パンも焼いてみよう。


久しぶりにリビングへ降りて

キッチンへ向かう。


ソファーでリツさんが眠っていた。


疲れているんだ…

仕事だけでも大変なのに

家へ毎晩通ってくれている。

本当にありがたい。

リツさんに、コーヒーを淹れよう。

せめてものお礼に。







「さくらさん…」

リツが目を覚ました。

「リツさん、いつもありがとう。頼りなくて、ごめんなさいね」

さくらはコーヒーを淹れようと、マグカップを取り出す。

「いいよ、俺やるから座って」

リツに抱き締められる。

確かにリツに抱き締められているのに

藤木に抱き締められているような気がする。

「悪いのは私なのに…ごめんなさい…」

座り込んで泣くさくらを

優しく包み込むように抱き締める温もりは

どうしても藤木のものに思える。

「預かってるものがあるんだ」


リツは、藤木からの手紙を差し出した。

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