第26話 バトン

「リツくん、お疲れ様」

「藤木さん…」

「ごめんね、こんなとこまで押し掛けて」

「いえ、こちらこそ、なかなか時間とれなくてすみません」

ロビーに人気はなかった。



「リツくんに聞きたいことがあるんだ」



リツくんは目を伏せた。



「さくらとは、ほんとに何もなかったの?」



しばらく沈黙した後、リツくんは真っ直ぐ僕を見て言った。



「殴ってもらっていいです。俺はさくらさんを愛しています。でも…さくらさんは藤木さんとの幸せを望んでいます。側にいることだけ……許してください」



リツくんは床に膝をつき、頭を下げた。



「リツくん…」




僕は床に膝をついた。



「さくらと、子供達のことをキミにお願いしたい。このとおりだ」



手をつき、深く頭を下げた。

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