帝国軍戦記~日ノ本軍かく戦えり~

さりえる

第零話『第三次世界大戦』

 一九四五年、大日本帝国は窮地に立たされていた。同盟国のイタリアは早々に降伏し、ナチス・ドイツももはや死に体だった。

 大東亜共栄圏構想の実現のために東南アジアに進出したのはよかったが、伸ばしすぎた戦線は各地で瓦解していた。中国戦線も泥沼化しており、打開の道もなかった。

 さらに、アメリカ軍による空襲が激化し、本土の各地焼け野原と化し、遂には東京に大規模な攻撃がしかけられた。

 沖縄の陥落も時間の問題であり、帝国は今後の進退を決さねばならなかった。

 一方その頃、帝国軍とナチスは、共同で"ある研究"を行っていた。上手くいけば戦況をひっくり返すかもしれないと期待されていたそれは、しかして研究が長引き、日の目を見ることはないだろうと思われていた。

 しかし、同年四月、総統命令により、ある部隊がベルリン防衛戦に投入された。そして同日、ヨーロッパを震撼させる大事件が起きた。

 "ベルリンに侵攻中のソ連軍が全滅した"。にわかには信じ難いその報告は、他ならぬソ連軍が発したものだった。

 どの国も、ソ連中央でさえ、その話を信じることだできなかった。質の悪い冗談だ、巫山戯るにも程があると、連合国陣営はソ連を非難した。

 だが、それが嘘でも冗談でもなかったことを、連合国陣営はすぐに思い知らされることとなった。

 五月中旬には、ドイツ軍はモスクワを陥落させた。それと時を同じくして、ドーバー海峡において、イギリス海軍がドイツ海軍によって大打撃を受けた。あのロイヤルネイビー"が"、ドイツ海軍"に"だ。

 そしてその戦果の全ては、日本にとって希望と焦りを与えるものであった。ソ連軍が壊滅した時点で、ナチスが例の研究を完成させたことは明白であった。

 しかし日本においては、未だ研究が進んでいなかった。というのも、その研究に携わることのできる人間がほとんどいなかったのだ。

 その研究というのは、『異能者部隊』の編成だった。通常の人間では持ち得ない、超能力や魔術などといわれる類の力を持った者を集めて、兵士として訓練し、実戦に投入する。そういったコンセプトの元で進められた計画であった。

 奇しくも日本では、その異能者の数が他国と比べて圧倒的に多かった。そのため部隊に所属する者を集めることは容易であったが、集められた異能者たちの教育は困難を極めていた。

 そもそも異能者というのは、多くの国では迫害の対象となる存在だった。自分たちの理解の及ばないものを恐れ、排斥するのは自然な反応だ。それは日本においてもそうで、集められた者たちのほとんどは軍に対して不信感を抱いていた、おまけに性格に難のある者ばかりだったので、軍部は彼らの扱いに手を焼いていて、訓練もまともにできていなかった。

 しかし、ドイツの大躍進を見た帝国軍は、こうしてはいられないとすぐさま研究に本腰を入れはじめた。

 まず最初に、彼らの訓練を担当する教官の選定が必要だった。ただの人間では異能者質はまともに相手をしてくれないため、何か能力を持った人間であること。次に、教官としてのひとしきりの資質を備えていること。次に異能者たちを束ねるリーダーシップとカリスマ性を持つこと。これらが選考基準だった。

 そしてその基準をもとに、一人の男に白羽の矢がたった。その男の名は、陸軍中将、西條春江さいじょうはるえという。彼はなんの異能も持たない人間であったが、積極的に異能者たちと交流していたので、彼らから一定の信用を得ていたというのが一番の選考理由だった。

 西條は教官の任を快く引き受けたが、その代わりに、他の教官は自分が選んだ者にしてほしいと要求した。軍はそれを認め、後日、彼の選んだ三人が、異能者部隊の教官兼指揮官として正式に任命された。

 一人目は海軍中佐、風魅能通かざみよしみち。彼は第一航空戦隊で中隊長をしている戦闘機のエースパイロットだった。選んだ理由は西條曰く、「奴は風使いだ。この国を救う神風を起こしてくれそうだろ?」とのこと。これを聞いた風魅は、「皮肉やなあ」と呟いたそうだ。

 二人目は海軍大尉、六一三むつかずさ。彼は第三四三海軍飛行隊、"新撰組"に所属する戦闘機のパイロットだった。「コイツは人間のふりをしているだけで、本当は怪異の類だ」という西條の言葉が真実かは今日をもっても不明である。

 三人目は海軍少将、華麗茂かれんしげみ。彼は連合艦隊の参謀だった。華麗家は陰陽師の流れを汲む家系であり、彼は妖術使いであった。そこに元々西條家と華麗家が懇意なことが加わって彼が選ばれた。

 こうして揃えられた四人の教官の元で、異能者部隊の本格的な訓練が開始された。

 最初こそ異能者達は反発してたが、色々なことが重なり一月後には完全に四人に従順になっていた。

 そして、この異能者部隊に正式名称が与えられた。特殊作戦異能部隊『天照アマテラス』。日本神話の神である、天照大御神が由来だ。

 しかし依然残された時間が少ないのに変わりはなかった。

 結局、天照が実戦に投入されたのは、同年八月五日だ。いや、本来はその日になっても、軍の上層部は作戦命令を出さなかった。つまり、彼らは勝手に作戦行動を起こしたのだ。

 この行動は華麗少将の独断の命令によるものだった。だがしかし、これこそが、日本を勝利へと導く鍵となった。

 上層部の停止命令を無視して天照が向かった先は、本州西部、広島。彼らは事前に、その地で行われる米軍のとある実験の情報を掴んでいた。そして、それが成功すれば、日本は敗北するということも知っていた。だからこその無断行動だった。

 翌日、八月六日の早朝、広島上空を、米軍機が飛行していた。目標は広島市。とある新兵器を運ぶためにそこにいた。

 その航空機は、何事もなく目標に到達し、そしてそれを投下した。時間も場所も手はず通り、上空で爆発すれば、それは瞬く間に辺りを焼き尽くす......はずだった。

 投下されたそれは、爆発しようとした瞬間

 、突如としてそこから"消えた"。文字通り、一瞬にして、その場からいなくなった。

 それを投下したパイロット達は、そんなことは知りもしなかった。いや、知れなかったの方が正しい。何故なら彼らの乗った機体は、新兵器の投下直後に撃墜されたからだ。

 さて、その消えた兵器は一体どこに行ったのか。その答えはその日のアメリカのニュースが伝えた。

 アメリカワシントン州、ホワイトハウス上空にて、謎の大爆発が起き、周辺住民十数万人が犠牲になったという。

 それはまたしても、世界に混乱の渦を巻き起こした。

 その日、アメリカ人は、大きなキノコの形をした雲を見たという。

 それからはあっという間だった。各地の戦場に散らばった異能者達によって、泥沼化していた戦況は劇的に変化した。

 こうして、日本は大東亜共栄圏を完成させた。

 さらに太平洋方面においても、異能者部隊が米軍の各種艦艇を次々に沈没させ、最終的に、米軍本部に彼らが乗り込んだ。

 それについで各地の米軍基地、工場を襲撃、破壊することにより、米軍の戦力を着実にそいでいった。

 極めつけは時の大統領の暗殺だった。それを遂行したのは、異能者部隊のリーダーであった皇京子すめらぎきょうこという少女だ。

 そして、一九四五年八月十五日、アメリカが降伏宣言を出し、ここにおいて、大日本帝国は、太平洋戦争に勝利した。

 こうして枢軸国は、第二次世界大戦を勝ち抜き、世界の覇権は、日本とドイツの二国が握ることとなった。

 しかし、それから十年後、新たな戦争が幕を開けた。

 きっかけは、戦後処理に失敗したドイツが財政破綻したことだ。戦後、植民地とアメリカを相手として貿易を行い、経済発展した日本とは対照的に、ドイツは植民地経営に失敗し、さらにヨーロッパの殆どが荒廃していて、まともに賠償金を得られなかったことが理由だった。

 そして一月ほどあと、混乱状態にあったベルリンを、数十名程度の武装集団が占拠した。『最後の大隊ミレニアム』と名乗ったその集団こそ、ナチスドイツが第二次世界大戦に投入した異能者部隊の残党だった。

 そして、ミレニアムは、人類に対して宣戦を布告し、またたくまにヨーロッパを侵略した。それに呼応するように、世界各地で異能者達による蜂起が起き、世界は混沌に包まれた。

 それから九十年の月日が経った二〇四五年。世界は未だ、争いを続けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る