第96話神候補観察

「亜理紗いる?」


 僕は声を落とすと亜理紗に呼び掛ける。そうすると……。


「ここにいます」


 後ろを振り返ると誰もいない。僕は手を伸ばしてみると……。


「ひゃっ! ど、どこ触ってるんですかっ!」


 柔らかい感触の暖かいものに触れると亜理紗が妙な声を出した。


「見えないからわからないけど、たぶんほっぺだよね?」


 まるで赤ん坊のほっぺたのような柔らかさなので間違いない。


「……スケベ」


「痛っ!」


 何故か手をつねられてしまった。


「それよりどこから探りに行きますか?」


 亜理紗の声に僕は逡巡する。

 先程、黄金の扉に光が灯っているのを発見した僕は、眠りについていた亜理紗の部屋に入ると起きてもらった。


 そして、事情を説明すると【ギュゲースの指輪】と【神の瞳】を渡したのだ。


「そろそろ誰かが起きてるかもしれないから扉の前に行ってみよう」


「良いですけど、直哉君私の位置を見失うんじゃ?」


 装備の効果で現在亜理紗は姿を消している。なので僕は……。


「なら僕と手をつなぐか? それなら居場所もわかるし」


 その至極まっとうな提案を亜理紗は否定した。


「また変なところ触りそうだからお断りです」


 伸ばした手をパシリとはたかれた。


「こうしてマントを掴んでますから、何か話がある時は口元に手をやってください。そしたら耳を近づけるので」


 亜理紗の提案を聞くと僕らは広間へと移動した。



「あっ。藤堂君おはよう」


「あら、早いのね」


 その場にいるのは平松と三島だ。神肯定派の二人が何故か黄金の扉の前に立っていた。


「おはようございます。二人はこんなところで何を?」


 欠伸をかみ殺す演技をしつつ近寄っていく。その際に口元に手を当て亜理紗に「まずはこの二人から」と指示をだす。


 亜理紗は小声で「了解」というと黙り込んだ。

 僕が事前に出しておいた指示は「透明になって他の神候補のステータスを神の瞳で見て結果を教えて欲しい」だった。


 神器が失われている以上、他のメンバーがとったのは間違いない。

 そして、神器を取ったからにはSPの消費という痕跡が残るのだ。

 彼らは隠蔽の魔法を使ったとは思えないし、ロックレベルの魔法を使えるわけもない。


 まずは誰が何を持っているのかを早々に把握すべきだと僕は思ったのだ。


「別に、各国の情勢について少し情報交換をね」


「そうね。平松はモカ王国で私はギルキス王国だったの。その話し合いよ」


「なるほど、熱心ですね」


 そんな話をしていると背中を二回引っ張られた。この合図はSPに変化なしという結果だ。

 流石に神を目指している人間なので神器を取るのに自分のSPは使わないか……。

 僕がそんな事を考えていると……。


「それよりも神界が動き出したようだよ」


 平松が話を振ってきた。


「というと?」


 僕が不思議そうな表情を作り聞き返すと……。


「この扉。昨日は1つしか光って無かったのに、今朝みたら6つになってるのよ」


 三島の手の動きに合わせて僕は扉を見る。


「本当ですね……。一体どういう事なんだろう?」


 若干白々しい演技になっているかもしれない。だが、もしこの二人が神器の取得を他の神候補に指示しているのならとっくに扉の意味に気付いているはずなのだ。


 ここで僕が動揺するのかを観察している可能性も捨てきれない以上、演技をしておくべきだ。

 だが、二人の表情に変化が無い。二人はこれが神器取得による現象の変化だと知らない演技をしているのか?


「とりあえず、他のメンバーが揃ったら考えることにするか」


「ええ、そうね」


 何とも軽い言葉に僕は警戒心が高まるのを感じるのだった。

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