第89話失われた瞳

「ちっ! 言うだけいっていなくなりやがって」


 草薙は苛立ちを隠さずに舌打ちをした。


「ねえ。どうするのかな?」


 相川さんが不安そうに僕らに話しかけてきた。


「そりゃ、声がそう言うなら従うしかないっしょ」


 これまで何かを企んでいるようではあったが、丁寧に説明をしてきた声が拒否した事で少なからず不安が広がっている。

 平松達もいい知れぬ表情を浮かべて周りを見ている。


「直哉君。どうするの?」


 気が付けば亜理紗が肩に触れて耳打ちをしてきた。


「どうもこうも、これは計画にないからね。流れに任せるしかないさ」


 用意していた策は全て受動的に考えられたもの。最初の読みがずれた時点でほとんど無意味だ。


「もうっ! 適当なんだから」


 だけど亜理紗は僕よりも心配症なのか、きっちりしなければならない性格が災いしているのか臨機応変は苦手らしい。


 そんな亜理紗をスルーしていると、


「とにかくどうするか決めた方がいい。今後の予定を決めてしまおうか?」


 全員の動揺を鎮めるために平松が立ち上がった。






「やっぱりあの扉が重要だとおもうんだよ」


「でも声の主は答えなかったわよ」


「だからっ! 取り敢えず解らない問題は置いておいてだな――」


 目の前では平松と三島を中心に議論が繰り広げられている。

 テーマは先程、声の主が説明を拒否した黄金の扉。


 このタイミングで現れたのだからどう考えても不自然としか言いようがない。


 そんな訳で、まずはその秘密を解き明かす為にこうして意見をぶつけているのだが……。


「ふぁ……眠い」


「直哉君。不真面目だよ?」


 亜理紗に窘められた。そりゃ作戦の為には多少は協力するところを見せておくべきだけどさ、ヒントすらない状況で当てろって方が無理なんだから。

 僕はこの会議に意味を見出せない。


「光男と相川さんもちょっと付き合ってくれよ」


 僕は二人に声を掛けると。


「どうしたんすか。直哉?」


「私達に?」


 丁度議論を聞いている最中だった二人は振り返る。


「皆疲れてるだろうからちょっと軽い物でも作ろうかと思ってね。二人にはその手伝いをお願いしたいなと」


「そういう事なら手伝うっす。もう結構な時間が過ぎてるっすからね」


「わたしも。そろそろ休憩したかったから」


 そんな訳で僕らは平松達に抜ける事を言うとキッチンへと向かった。






「それにしても、亜理紗っちは呼ばなくて良かったっすか?」


 軽食を作っていると光男が食器の準備をしながら聞いてくる。


「ああ。亜理紗は朝倉さん達と積もる話もあるだろうからね」


「そういえば、あっちの世界であったんだったっけ? スパリゾート気持ちよかったって言ってたなぁ」


 亜理紗と通話した時に話したのか、相川さんは包丁を止めるとそんな事を呟いた。


「何でも利用料金高かったらしいよ」


「そっか……。私達結構ぎりぎりでやってるもんね……。そんな余裕はないかも」


 自分達の財布事情を思い出したのか相川さんはがっかりした表情を浮かべるのだが。


「おい光男。ここは男の甲斐性の見せどころだろ?」


 僕がアドバイスをしてやると光男ははっとすると。


「安心しろ凛。お前が綺麗になる為ならそのぐらい何とかしてみせるっすよ」


「光男君。ありがとう」


 突如始まるラブコメ劇場を無視して僕は次から次へと食事を用意していく。


 それから十分な時間が経ったかと思うと僕らは元の場所へと戻っていった。




「あれ? 結論はでたんですか?」


 僕らが戻ると、その場にいる人数が減っている。

 三島と朝倉と亜理紗が雑談をしており、草薙が武器の手入れをしている。


「取り敢えず私達も休憩してたところよ」


「他のメンバーは?」


 そう聞いていると――


「た、大変だっ!」


 平松が息を切らせて戻ってきた。


「どうしたんですか。平松さん?」


 僕はトレイを置くと平松さんに近づく。

 彼は慌てた様子で僕の肩を掴むと言った。


「神の瞳がなくなってる!!」

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