第88話三度目の神界
「それじゃあ行ってくるから」
僕らの前には空間が歪むとゲートが発生していた。
「トード君。絶対毎日連絡してよねっ!」
「約束。です」
エレーヌとシンシアのお願いに僕は手を振ると答える。
そして亜理紗へと視線を向けると――。
「それじゃあ亜理紗。手はず通りに行くからね」
「はい」
やや緊張した面持ちの中にも妙に浮かれている亜理紗。恐らくだが、相川さんや光男に会えるのが楽しみなのだろう。
「留守は頼んだよ。何か入用な時はこれで宝物庫に入ってくれればいいから」
僕はステラにテレポリングを二つ渡す。
一つはこの屋敷の地下に封印された宝物庫に座標をセットしてある。
もう一つは僕の寝室に設定してある。
ドアは封印してあるので、これが無ければ何人たりとも立ち入る事が出来ない。
なので脱出用に別なリングも必要なのだ。
「ず、ずるい。ステラちゃんにばかり。その指輪私が持つよ」
「公平に所有する。です」
抗議をする二人に僕は冷たい視線を向ける。
「君らだと脱出用の指輪を忘れて餓死するか、魔法で無理やりぶっ壊しそうなんでね」
この二人は何処か抜けているので留守を任せると安心できない。
「ふふふ。御主人様ったらいくら私が好きだからって指輪を二つも。肌身離さずに身に着けておきますね」
ステラは余程嬉しいのか両手の薬指にそれぞれのテレポリングを嵌めたかと思えばエレーヌとシンシアを挑発するように見せびらかす。
「直哉君。そろそろ行きましょう」
三人が火花を散らせているのだが、そろそろ時間となった。
「うん。わかった…………三人共」
僕の呼びかけに三人が喧嘩を止めて一斉にこちらをむく。
「戻るまで良い子にしてるんだぞ」
そう言うと僕と亜理紗は再び神界への扉を潜るのだった。
★
空間を通り抜けると視界に光がとびこんでくる。
眩いばかりの光を手で遮り暫くすると例の白い空間が現れる。
以前来た時と変わらない場所だ。
広間から見渡せる周囲には去年も見かけた宝物の飾られた部屋への扉が見える。だが……。
「何これ?」
目の前には黄金に輝く扉があり、その扉には周囲に13個の。そして中央には1個の宝玉が飾られている。
そしてその内の一つの宝玉が輝きを放っている。
「去年はこんなの無かったですよね」
僕が扉を観察していると亜理紗が横に立つと話しかけてきた。僕の予想ではこれは恐らく――。
「直哉。久しぶりっす」
「亜理紗会いたかったわ」
唐突に背後から話し掛けられたせいで思考が途切れる。
僕達が同時に背後を向くとそこには光男と相川さんがいた。
「なんだ光男。まだ生きてたんだね」
僕は冷静に普段通りを心掛けると光男へと声を掛けた。
「そ、そりゃないっすよ直哉。1週間前にも通話したっしょ!」
「抱き着いてこないでくれっ!」
暑苦しく涙を浮かべてくる光男の顔を全力で押し返す。確かに君にコールリングを渡したから時々話してるけどさ。
男同士で抱き合う趣味は僕には無い。
「くすくす。光男君ってば藤堂君と会えるの本当に楽しみにしてたのよ」
僕らが押しあっている様子を微笑ましい視線で見ている相川さんは口元に手をあてて笑って見せる。
そんな相川さんに亜理紗が話し掛けた。
「凛ちゃん綺麗になったね」
「亜理紗こそ」
笑顔で抱き合う二人。男同士とは違ってこれならいつまでも見ていたいと思える。
相川さんは亜理紗の笑顔を真正面から受け止めると――
「本当に魅力的な笑顔。藤堂君には良くしてもらってる?」
その瞬間、僕はドキリとしてしまい光男を押し返す力が弱まる。そのせいで光男が僕に抱き着くのを許してしまうのだが意識は完全に向こうへと向いていた。
「うん。直哉君優しいよ。時々凄くエッチだけど」
そう言って顔を染める。
「ふーーーん。そうなんだ?」
そう言うと相川さんはニヤリと笑うと僕を見る。いや……だってね……両想いの相手と一緒なんだから少しぐらいはしょうがないよね?
僕は気まずくなり相川さんから顔を逸らすと、
『やあやあ。今年も全員集合してくれたんだね』
何処からともなく例の声が響き渡るのだった。
『さて。もう三回目だから特に説明は要らないよね? 今回も滞在期間は1週間あるから好きなように過ごしてくれるかな』
こちらの事などお構いなしとばかりにその声は宣言する。
「ちょっと待ってくれよ!」
そんな声に草薙が異議を申し立てた。
「その扉について説明が無いのかよ?」
そういって指差したのは誰もが気になっていた黄金の扉だ。
このタイミングで出現したのだから相当重要なものだと誰もが思う筈。
『うーん。どうしよっかなぁ~』
だが、声はからかうような様子を見せると、
『そろそろ君達も下界で成長してきたと思うからね。あまり教えすぎても面白くないし今回は説明するの止めとくよ』
それっきり声は沈黙するのだった。
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