第71話見え始める真実②
「あっはっはっはっは――」
胃がよじれるのが解る。酸素が足りない。
僕はいまだかつてない程に笑いをこらえられずにいた。
転生者との邂逅、僕を遥かに上回る圧倒的存在。そこに関しては覚悟を決めていた。
こう見えても、緊張もしていたのだ。街中でなら戦闘はしないと思っていたが、いざそうなった時にどう対処すればよいのか。
転生者は魔王だった。レベルも想像以上の高さで唸るしかなかったのだが……。
まさかのこの名前である。
人は意表を突かれると感情を制御する事が出来ない。
魔王だとか高レベルという情報は意表にならない。何故なら僕も想定していたから。
だが、魔王の。圧倒的強者の名前がこれとか誰が想像できる。
「おい。そろそろ笑うの止めろ。殺すぞ?」
魔王抜作は僕に対して怒りを露わにする。
「すっ、すいません。………………………………先生」
「…………お前。やっぱり死ぬか?」
咄嗟にでた先生と言う言葉に抜作の頬がぴくぴくと震えた。
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「俺の事はこれからロックと呼べ。良いな? ナオヤ」
「解りました」
僕は素直に頷いておく。
ロックは圧倒的強者の余裕で僕を見ると。
「さて。呼び出されてこっちの事を教えてやったんだ。今度は俺が聞く番だな」
そういうとロックは酒を飲むと。
「ナオヤ。お前がこの世界に来た経緯を説明しろ」
それは断る事が出来ない明確な意志を持った命令だった。僕としても転生者について色々聞きたいことがあるので素直に話をする。
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「…………なるほどな。神になる為の試練に神候補に使徒か……」
「ええ。それでロックさん。そちらは魔神になる為に転生したんですよね?」
ステラから聞いている話が正しければロックは彼女と同じ転生者。話の裏付けが取れる。
「物知りじゃねえかナオヤ。お前、誰か転生者を知ってるな?」
その鋭い眼光。レベル差もさることながら魔王と呼ばれるほどの存在が目の前で威圧してくるので空気がピリピリと震える。
「答えなくても解るでしょ」
「ほう。なんでそう思った?」
僕の言葉に興味をもったようでロックは威圧するのを止める。
「多分だけど。ロックさんは全ての転生者の存在を既に知っているんじゃないですか?」
「…………続けろ」
「ニーナとニース。あの二人も転生者でしたよね」
僕は自分の推理をロックに語る。
「最初は疑問だったんですよ。何故ロックさんの元に他の転生者が居たのか。産まれた場所や時期はバラバラだったんですよね? それなのにしっかりと合流してるばかりかあの戦闘力。恐らくはロックさんの手によって鍛えられた筈です」
ニーナもニースも実年齢に対してあり得ない程の動きを見せていた。
「恐らくはロックさんの全魔法習得のチートの効果だと思うんですよ。その魔法の中に転生者の位置を知る魔法とかあるんじゃないでしょうか?」
神話級の攻撃魔法に神話級の召喚魔法。恐らくだが、神話級の補助魔法もあるに違いない。
「仮にその魔法が在ったとしたら矛盾が生じねえか?」
「何処にですか?」
「俺は魔王だぞ。もしそんな魔法があって転生者の位置が判るなら、順番にぶっ殺して今頃魔神になってる筈だ。違うか?」
ロックのその問いに僕は首を横に振る。
「それは無いですね。もしあなたが魔神を目指しているのならニーナとニースを生かしている意味が判らなくなりますよ」
「他の転生者にぶつけてすり減らす為に利用してるんだよ。あいつらを鍛えたのはその為だ」
僕の推測にロックは反論して見せたのだが……。
「そんな事する必要が無い。何故ならあなたは現時点でこの世界で最強の存在だ」
そんな小細工するまでも無く全員殺してくればいい。
僕の言葉にロックは特に反応を見せない。ならば…………。
「そうだ。僕も丁度転生者を一人知ってるんですよ。お望みならすり潰すためにぶつけさせましょうか?」
僕の言葉にロックは――。
「お前。マジぶっ殺すぞ?」
殺気をぶつけてきた。
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「失礼しました」
僕が謝ると殺意が収まる。
「ナオヤ。試したな?」
「ええ。僕としてもここでロックさんがどういうつもりなのか教えて貰わないと困りますからね」
転生者で世界最強。小説なんかあれば彼は間違いなく主人公なのだろう。
そんな相手を前にして早急にスタンスを決めなければいけないのだ。多少の無茶は必要だった。
もっとも。僕は臆病者だからね。ある程度行けるだろうと思ったうえで話を振っていた。
「仕方ねえな教えてやる。確かに俺の持つ魔法に『指定した対象を探索する魔法』が存在している。俺はそれを使って9人の転生者の位置を常に把握できている」
ニーナとニースの位置は判らないのか…………。まあそれが判ってたらダンジョンであんな風に遭遇してないか。恐らく彼のプロテクト魔法によるものなのだろう。
僕が考え込んでいると彼は話を続ける。
「俺とあの二人が出会ったのは8歳の頃だ。俺は5歳の頃から本格的に修業を始めてレベルを上げていった。そしてある程度の魔法が使えるようになったタイミングで他の転生者がどうしてるかが気になったんだ」
「それで。様子を見に行ったんですか?」
ロックは頷く。
「最初は三大王国から回った。宿屋の娘に生まれた奴。帝国貴族の息子に生まれた奴。大富豪の家に生まれたやつ。他にも何人か見てきたが、どいつもこいつも不自由ない生活を送っていた」
ロックはまるで羨ましがるように遠くを見ていた。
「俺は他の転生者達が人生をやり直して楽しんでるのを見てこれで良いんだなと思ったんだよ」
「これでいい? それはどういう意味ですか?」
「あんな不慮の事故で命を落としたとはいえ、こうして幸せに生まれ変わったのなら人生をそのまま笑って過ごせばいいとな」
どうやら転生者達は同じ場所で命を落としたらしい。その辺を聞いてみたいが、ステラの様子も考えるとロックが語ってくれるとは思えない。
「ところがだ。キリマンに差し掛かった所で俺は見てしまったんだ」
「何をですか?」
その時のロックは怒りを抑えていた。
「虐待されるニーナとニースだ。あいつらは転生の時に願いを言わなかった。いや、幼かったからな。何が起きてるのか解っていなかったんだろうよ」
ステラと同じなのか?
「俺は転生者の人生はそれぞれの物だと思ってる。だから手を出すつもりは無かった。だが、執拗な虐待と縮こまって耐える二人を見ると我慢できなくてな」
ロックの目が冷めていく。そして――。
「気が付けばそいつを殺して二人を保護していた」
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「てなわけで。それ以来あの二人は俺が育ててきたんだ。今では父親の気分で見守ってるつもりなんだが……」
そこでロックは気まずそうになる。
「どちらかと言うと兄みたいに慕われてる。と言うかどう見ても恋愛対象として見られてますよね」
内面の年齢は関係ない。大事なのはこの世界の年齢なのだろう。
「一番つらい時期を助けた事で刷り込みをしちまったみたいなんだよ」
確かにそうなるかもしれない。この世界に来たばかりの時。僕は一人だった。
前の世界のトラウマで人と関わる事に臆病だった僕を彼女は優しく包んでくれたのだ。だからこそニーナとニースの気持ちがよくわかる。
「そんなんで良く魔王なんてやってますね」
何せ悪の軍団のイメージが色濃い魔王軍だ。余程腹黒でなければ勤まらないと思うんだが……。
「ああ。魔王として姿を現すときは魔法で変身してるから。俺やあの二人の姿で出て行ったら舐められるだろ?」
なんでも先代魔王がしつこく付け狙ってきたのでぶっ殺したら即位する羽目になったらしい。
本人はやりたくなかったらしいのだが、舵取りをしないと勝手に動き出して迷惑だからやっているらしい。
「ナオヤ。お前もそのうち人の上に立つなら覚えて置け。無能な部下のせいで仕事が増えるから部下の行動には細心の注意を払え」
そんな忠告貰ってもな……。
「僕には必要ないですよ。人の上に立つような器じゃないですから」
そういうのは他の神候補達に任せればいい。僕はお気楽な人生を楽しみたいのだ。
これから先も自前のチートで楽をしつつ人生を謳歌する。そんな事を考えているとロックがとんでもない事を言い出した。
「何言ってるんだ。これから神になる癖に」
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