第26話神界のダンジョン~三島パーティー~

「余計な真似して足引っ張らないでね」


 臨時パーティー二日目。

 僕は開始早々に三島に釘を刺された。


「茜。そんなに険悪になるなよ」


 草薙が間を受け持つが。


「でもこの子。昨日はほとんど何もしなかったらしいのよ?」


 昨晩。女子会でもやっていたのか僕の素行はきっちりと伝わってしまっていた。


「ソロで誰かが教えたわけじゃねえんだ。逆に下手な事やられてピンチにさせられなかっただけ分をわきまえてるだろ」


「む…………。伊織がそういうならいいけどさ…………」


 なんだかんだで納得していないようだが、今日のパーティー編成をお知らせしておこうと思う。



 リーダー……三島茜みしまあかね


 メンバー……草薙伊織くさなぎいおり

 メンバー……美月亜理紗みづきありさ

 メンバー……村井健太むらいけんた

 メンバー……犬塚洋介いぬづかようすけ

 メンバー……藤堂直哉とうどうなおや



 三島と草薙と犬塚は元々同じパーティーで、そこに平松パーティーから村井が加わり、昨日組んだ女子ペアの片割れの美月と僕が入った混成パーティーだ。



「今日は平松パーティーは火山ダンジョンに行くらしいから。私達は滝ダンジョンに入ろうと思うの」


 リーダーである三島が全員を見渡して言い放つ。

 このことに関しては僕以外の全員が知らされていたのか、心なしか全員が軽装だった。


 よくよく考えると僕だけマントを身につけているので水を吸って重たい。嫌がらせなのだろうかね?


 僕がマントをしまうと三島は草薙に目線で合図を送る。


「それじゃあ。俺と洋介が前衛を受け持つ。村井と藤堂は後衛で、女の子二人は中衛に入ってくれ」


 そうして二日目のダンジョン探索が始まった。



 ・ ・ ・ ・


 ・ ・ ・


 ・ ・


 ・


「身体がでかい分鈍い奴だからな。側面に回りこんで脚の健を切ってやるんだ」


 目の前では草薙がモンスターの倒し方をレクチャーしながら素早く敵の側面に回りこむとバトルアックスを振るい脚を切り飛ばす。


『ゲロロロロッ!』


 ジャイアントトードは体制を崩して倒れて水しぶきを上げた。


「よくまあ。この足場であれだけ動けるもんですね」


 足元は10センチほどの高さまで水が流れている。滝の中に入り口があるダンジョンで中からは延々と水が流れているのだ。

 地面は砂利で出来ており、お世辞にも身動きが取りやすいとは言い難い。


「これなら俺達は加わらなくても良いだろう」


 隣の村井が同じく様子を見ている。彼は戦士ではなくトラップ専門のハンターなので活躍の場はここではないらしい。


「伊織。離れてっ!――紫電よ疾れ――【ライトニング】」


 三島が構えたワンドの宝玉が光を帯び、そこから一条の電撃が放たれる。


 「バチバチ」という音が聞こえた後にはぶすぶすと焦げたジャイアントトードが伏していた。

 水棲モンスターに対しての的確な魔法判断でどうやら倒したようだ。


「こっちも誰か援護頼むっ!」


 犬塚の言葉が周囲に聞こえると。


「歌います! 【戦の歌】」


 美月が前に躍り出て歌いだした。彼女のユニークスキルは【Diva】。発音ではディーバ。つまりは歌姫である。

 彼女は歌に様々な力を載せる事が出来るらしく、その効果でもって高位の魔法と同等以上のバフを掛けてくれる。


「おおっ! 力が湧いてくるぜ」


 犬塚が剣を持ち直すと一気にジャイアントトードに肉薄すると――。


 一閃。武器自体も業物なのだろうが、あの巨体が完全に真っ二つに分かれる。


「すげえなこりゃ…………」


 その威力に、バトルアックスで脚を切り飛ばした草薙ですら感嘆の声を漏らしていた。


 それからもこのパーティーの躍進は続いた。


 前衛の草薙と犬塚コンビの連携は完璧で、長年のパートナーのようにお互いの動きを熟知しているようで無駄が無い。

 美月は前衛が切り込む際に【戦の歌】で力を上げ、三島が魔法を唱えようとすれば【マナの歌】でその威力を引き上げる。


 そして多少傷がつけば【癒しの歌】で治癒力を高めて治してしまう。

 今までペアでやってこれただけあって強力なユニークスキルだ。


 ただし。


「美月ちゃんのユニークスキルって便利だけど。その格好じゃないと駄目なのが欠点ね」


 三島が指摘する。

 美月の格好は露出が激しい衣装だからだ。


 その格好はライブで際どい格好をするアイドルのようで、この装備でなければ美月はこのスキルを発動させられないらしい。


「何言ってんだよ。亜理紗ちゃんはこの格好だから良いんだろうが」


 犬塚がそれに反対する。


 僕もそれに同意しないわけではない。見た目からして男受けする容姿に整ったプロポーション。それが惜しげもなく肌を晒してくれているのだ。

 このスキルに制限を設けた人間がいるなら相当にセンスが良いに違いない。


 だが、肝心の美月はと言うと――。


「あっ。あんまりじろじろ見ないでください」


 歌が終わるとパーカーを着てしまう。スキルを使うときだけ脱げば良いのだから、戦闘以外ではパーカーを身につけているのだ。

 もっとも、下はすぐに脱げ無いみたいで艶かしい太ももとパーカーのしたから見える布地が逆にエロさを強調しているのだが…………。


「ちょっと男子。あんまりじろじろ見るんじゃないわよ」


 全員が彼女に魅了されていたところを三島が不機嫌に怒鳴りつける。

 これは彼女を護るというよりも、自分以外の異性に視線が向くのが我慢ならないのだろう。


 事実、三島は忌々しそうに美月の身体を見ていた。




 結局。この日も僕はほとんど狩りに手を出さなかった。

 村井は時折前衛を止めるとトラップを潰しては戻ってくるので役割を果たしている。


「良く遠目から罠がわかりますね」


 そう思って聞いてみると。


「それは企業秘密って奴よ」


 含みを持たせた言葉。恐らくは彼のユニークスキルに関係しているのだろう。




 そんな訳で、今日は何もしなくても終わるんじゃないかと思っていた矢先の出来事。



「ほお。これは見たこと無いモンスターだな」


 1層目も奥へと入り込んだ辺りで僕らはぷよぷよと浮かぶ大きなイクラと遭遇した。



固体名:マリンスフィア


レベル: 135


HP 20000/20000

MP 100/100

STR 100

DEX 100

VIT 500000

INT 30000

MND 30000


解説:大気のマナをその身に宿し、中空を漂う。基本的に無害だが、一度攻撃をすると一定時間内に倒しきらなければ自爆して周囲を巻き込む。




 正直。この時僕は嫌な予感がしてしまった。


「ふーん。はじめて見るのモンスターね。丁度いいわこれを狩ったら戻りましょうよ」


「えっ。でも……………………」


 美月が顔を険しくする。


「安心しなよ。亜理紗ちゃんは俺が守るからさ」


 馴れ馴れしく肩に手を置く犬塚。


「ま。どう見ても雑魚だしさっくり片付けるか」




 ☆



「――連鎖する紫電――【チェインライトニング】」


 三島の上級魔法がマリンスフィアを直撃する。美月の【マナの歌】のバフを受けた本日最高の魔法だった。だが…………。




固体名:マリンスフィア


レベル: 135


HP 19900/20000

MP 100/100

STR 100

DEX 100

VIT 500000

INT 30000

MND 30000 


 どうやらほとんど効いていないようだ。

 それもそうだろう。水場のダンジョンにいるのだから水棲と思われそうだがこのモンスター。無属性なのだ。


 ようはレイスやゴーストと一緒で実体がというものが希薄なので。


「くらいやがれっ!」


「三連撃っ!!」


 草薙の攻撃も犬塚の攻撃も効果的ではない。


 そしてマリンスフィアは攻撃でスイッチが入ったのかこちらに向かってふよふよと移動を開始する。

 攻撃が通じなかったせいなのか、得体の知れない動きをしたからなのか、草薙と犬塚はその場から下がる。


 脈動する球体から只ならぬマナが漏れ始める。恐らく放っておけば幾ばくもしない内に爆発するのだろう。


 そんなマリンスフィアの目の前には――。


「えっ?」


 美月が一人佇んでいる。

 これが美月のユニークスキルのデメリットの一つ。


 歌い終わった直後は硬直が発生して移動が阻害されるのだ。


 目の前には爆発寸前のマリンスフィア。そして明らかに巻き込まれる位置に居る美月。

 僕は今日の無労働を諦めて前に出た。


「ミズキ!」


 即座に水の精霊を召喚する。


『ハイナノ』


『水の膜を張って爆発が漏れないように守れ』


『ラジャーナノ』


 ミズキが膜を張る瞬間。僕は手に持っていた【火山の塊】を投げ込む。



名称:火山の塊

効果:火の上級魔法【エクスプロージョン】を使う事が出来る。威力はMNDに依存。一度使うと無くなる。

必要SP:300



 ドンッ!


 果たして僕のMNDの方が高かったせいなのか、爆発を完全に押さえ込むことが出来ずにミズキの防護を伝って熱気が伝わってくる。


「危ないっ!」


 僕は咄嗟に美月を抱き寄せると魔法で防護フィールドを張り、熱を遮断してやる。


 爆発が終わった後にはそこには魔石が一つ落ちているだけだった。



 ・ ・ ・ ・


 ・ ・ ・


 ・ ・


 ・


「あーあ。最後のモンスター結局なんだったのかしらね」


 三島がぼやく。


「まあ。勝手に自爆してくれて魔石まで落としたんだからぼろいんじゃねえの?」


「だよな。あれだったら引くまでも無かったぜ」


 草薙と犬塚も過ぎたこととばかりに発言する。


「それにしても最後に少しは役に立ったじゃないか。身を挺して美月の前に立つなんて中々の男ぷりだったよな」


 犬塚が僕に水を向ける。


 よく言う。もしあのレベルのモンスターが爆発していれば全員無事で済まなかっただろうに。

 僕は後でさり気なくモンスター辞典を書き記してこいつらに配る決意をしつつも。


「思ったより全然小さい爆発でしたからね。咄嗟にいい格好をしたくて前に出たけど逆に慌てて恥をかいちゃいましたよ」


 今は不審に思われない程度に道化を演じてみせるのだった。


 ただ、一つ言えるのは、身近で僕の動きを全て見ていた美月の視線が完全に僕から離れていない事について。僕は溜息をつきたいと思った。


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