第8話防具と装飾品を検証した日

「うーん。全然痛くない」


 僕はのんきな声をだしながら欠伸を漏らした。


 それと言うのも朝が早かった事と、午前中の戦闘検証で緊張していたので無駄に疲れていた事。


 おっさんが弁当で持たせてくれたサンドイッチが思っていたより美味しかったのでついつい食べすぎて満腹になってしまった事。


「ねえ。そろそろ諦めてくれない?」


 それらが原因なのは間違いないが。一番の原因は…………。


「それ以上殴っても絶対に倒せないからさ」


 先程から棍棒や短剣を必死に突き刺そうと攻撃してくるゴブリンの攻撃が全く痛く無かったからだ。


「まさか、吟遊詩人の服でこれとはね…………」


 僕は自分が身につけている服に目をやる。



名称:吟遊詩人の服

効果:自動修復。自動サイズ調整。MND+25

必要SP:1000



 武器だけでなく、防具に関しても僕は侮っていたようだ。

 一見すると肌触り良さそうな服は攻撃となると何故か刃物を通すことなく、ゴブリンの突きを受け止めている。


 そして。棍棒が振るわれてるわけだが、それもぶつかる直前で何かに跳ね返されているのか、逆にゴブリンの腕の方が疲れているようだ。


 最初、数匹で襲い掛かってきたゴブリンは今では数十匹に膨れ上がっており。まるでアイドルに群がるかのように僕を囲んで四方から攻撃を加えている。


「武器の検証中は探してもいなかったのに…………」


 現実とは皮肉な物。試し切りをしたい時にはゴブリンはおらず。武器の検証が終わった後で現れるなんて。


「はぁ。とりあえず離れるか…………」


 僕がギュゲースの指輪を起動すると身体が淡く発光するとその場から掻き消えた。



「ギュギェ?」


「ギョル?」


「ギャギャギャ!?」


 ギュゲースの指輪の効果は透明化と気配の遮断だ。

 一応、40000SPも使う装飾品だけあって効果は神がかっている。


 ゴブリン共は僕の気配を感じ取る事が出来ずにその場でキョロキョロし始めた。


「声も通らないみたいだな。もっとも動けばぶつかるから身動き取れないけど」


 何せすし詰め状態なのだ。僕の周りにはゴブリン達が円を描くように佇んでいる。


 だが、このままゴブリンに囲まれているのも不愉快だ。

 こいつらは風呂に入っていないのか、やたらと臭いのだ。


 戦闘時だから我慢してやっていたのだが、そろそろ限界に近い。


「これで離脱するか」



名称:空飛ぶマント

効果:自動修復。自動サイズ調整。MPを伝わらせると空を飛ぶ事が可能。DEX+15・MND+15

必要SP:25000


 僕は空に浮かび上がるとそのままゴブリンから100メートルほど離れた場所へと降り立った。


「うーん。あれだけ密集してると魔法とか打ち込みたいんだけどな」


 そんな物騒な事を考え始める。だが、生憎僕はまだ魔法を習得していない。


「とりあえずこの消耗品試しちゃおうかな」



名称:氷河の結晶

効果:水の上級魔法【ダイヤモンドダスト】を使う事が出来る。一度使うと無くなる。

必要SP:300


 これがあれば魔法を習う必要性を感じなかったりする。消耗品の癖にSP300とかどれだけの威力があるのやら。


「【ダイヤモンドダスト】」


 僕が結晶を使うと、大量の冷気が発生してゴブリンへと向かった。



「ヒョオオオオオオ」耳鳴りがする程の風を裂く音と冷気が周りを支配する。

 それは時間にして10秒ほどの現象だった。


 終わってみれば始まる前と同じ静寂。だが、始まる前と違う光景がそこに広がっていた。


「うん。全部凍ってるね…………森ごと」


 僕が放った結晶はゴブリンのみならず目の前の森を直撃していた。

 見渡す限りが冬景色なのか、草木は霜をおび、木々は凍りついている。


「ガシャ、ガララ」


 何かが崩れる音がした、見てみるとゴブリンが砕け散り、粉氷となり風に流されて消えていく。


「流石は上級魔法クラス。確かにSP300の価値はあったようだな」


 まだ水属性でよかった。同じようなアイテムの【火山の塊】や【タイタンの怒り】を使用していた場合。この辺りの地形は深刻なダメージを負っていたに違い無い。


 幸いな事に誰にも見られていない。多少森にダメージが行ってしまったが、それは仕方ない事として割り切ろう。


「それにしてもせめて威力をコントロールできるようにならないとな」


 結晶を使う際、僕は魔力を流し込んで発動させた。そうであるならば流し込む魔力次第で威力を調整できるはずなのだ。


「やっぱり。魔法も習わなきゃならないな」


 手持ちの装備には魔法関連の物も結構ある。

 制御を誤って甚大な被害を起こす前に覚えておいた方が良いだろう。


 僕がそんな事を考えながら帰宅を考え始めていると――。




 ☆



「なによこれっ!?」


「全部凍ってる…………?」


 目の前に二人の女の子が現れた。


「街で聞いてきた限り、この辺に大したモンスターは居ないはずなんだけど」


「ねっ。ねぇ。やっぱり街の雑用から始めようよ」


 僕はその二人の女の子に見覚えがあった。神界で最後まで残っていた二人組だ。


「それじゃあ、いつまで経ってもオンボロ宿じゃない」


「でっ、でも危険だよ」


 黒髪の女の子がいきり立つのを茶髪の女の子が説得している。


「折角。神界で装備を貰ったんだから平気よ。さっさとゴブリンを討伐して帰ればいいだけじゃない」


「うぅ。そうだけどさぁ」


 どうやらこの二人はギルドで討伐依頼を受けてここに来たようだ。

 というか、てっきり他の扉を潜ったものだと思っていたのだが、何の酔狂なのか僕と同じ所に来てしまったようだ。


 僕は指輪の効果で姿を隠しているので気付かれない。二人の会話を聞き続ける。


「それにしても。元の世界のお金が通じないなんて…………。お陰で昨日は宿にも苦労したし。本当に異世界って不便よね」


「うう…………お風呂入りたい」


 この二人もしかし無くてもなんだが、SPでお金を交換しなかったのか?

 僕は二人の姿をまじまじと見る。


 黒髪の方は腰にぶら下げている剣と胸当てに盾。戦士タイプの装備で身を固めている。

 茶髪の方はフードを被っているので解り辛いが、先日の格好を思い出すに踊り子の服のエロイ格好に違いない。


 食料は何とかなるにしても普通は多少のお金は換えておくべきだろうに…………。


 とはいえここで姿を現すわけにはいかない。

 他の神候補にくらべれば与し易いかもしれないが、情報の漏洩を禁じても漏らしてしまう事はありえる。


「あのときの男の子が見つかれば…………もう少しましになるのに…………」


「ほんとうに。無視して行っちゃうんだもんね」


 やはりあの時声を掛けてきたのか。だが、目的がわからない以上は姿を見せるつもりは無い。


「まあ。この辺に居るのは間違いないんだから。会った時にでも交渉しましょうよ。まずは今日の寝床の確保よ」


「うん。頑張ろうっ!」


 だから僕はせめて袋につめた金貨をその場に落とす事にした。

 せめてもの同郷のよしみだ。


 二人は暫くすると袋に気付いて嬉しそうにしていた。

 僕はそんな二人が森に向かうのを見届けると空に飛び上がり、街へと戻った。


 徒歩で1時間の距離も空を飛べば数分だった。

 なんだかあの二人に対して無性に申し訳ない気分になった。





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