第2話吟味する日

「とりあえず。ここからか」


 僕が最初に向かったのは【装飾の間】だった。

 何故かと言うと動き始めた人間の大半がまず武器を見に行ったからだ。


「へぇ。思ってるより広いんだな」


 部屋は全部で20畳はありそうな広さだった。壁には棚がおかれており、そこには様々な装飾品が指輪から首飾りまで多種多様に置かれている。

 そして中央の台座には一つのリングが飾られていた。


 僕はまず、中央の台座へと近寄った。


「綺麗な指輪だ」


 その宝石は虹色に光っており、宝石の中では粒子が飛び交っている。一秒として同じ色彩をしていないその美しさはずっと見ていても飽きない。


 僕は台座に書かれた説明を見た。


名称:ニーベルングの指輪

効果:戦乙女の加護により、あらゆる武器を扱う事が出来る。取得必要経験値-50%。取得経験値増加50%。

必要SP:77777


 なるほど。どうやら見せアイテムらしい。僕は指輪に右手で触れてみる。

 手にとって持つことは出来ない。盗難防止の為なのか? 何らかの抜け道でこの部屋から持ち出せるのかは解らないが、厳重な事だ。


 指輪に触れると説明と同じ効果が頭に浮かんでくる。どうやらこの神界は万能なようで、自分が知らない知識でもある程度補足してくれるようだ。


 ステータスの開き方やインベントリの開け方。スキルの使い方も何となく頭に浮かんできた。


「全武器を使えるって、反則過ぎるだろ」


 武器の修練は通常、一つの武器に打ち込んだとしても一生かけて習得するもの。それを指輪一つで手に入るというのだから恐ろしい物だ。


「とりあえず、他のアイテムも見てみるか」


 僕は時間が無いのを思い出すと次から次に棚にあるアイテムを手に持って説明を読んでいった。


「とりあえずこの部屋で欲しいのはこんなところか…………」



名称:ソロモンの指環

効果:精霊を使役する権利を得る事が出来る。動物・植物と意思を交わす事が出来、一定以上の親密度になるとテイミング可能。

必要SP:50000



名称:セイフティリング

効果:魔法によるダメージを7割軽減。物理によるダメージを3割軽減。VIT+100。

必要SP:40000


名称:ギュゲースの指輪

効果:身につけると身体が透明になり、気配を完全に遮断する。

必要SP:30000


名称:星屑の首飾り

効果:消費するMP半減。『星屑のイヤリング』とセットで装備した場合、消費するMPを9割カットしてくれる。MP回復速度50%増加。

必要SP:20000


名称:星屑のイヤリング

効果:魔法の詠唱時間50%半減。『月光の杖』とセットで装備した場合、固有スキル『無詠唱』を使用可能。他人にMPを譲渡する『チェンジ』が使用できる。

必要SP:15000



 他にも、各属性のダメージを半減できる属性の指輪やら、消費MPが10%低減できるアクセサリまで多々あった。

 そちらの必要SPは100~2000となっているので、恐らくは大抵の人間はその辺のアイテムの中から選ぶのだろう。


「とりあえず、次の部屋に行くか」


 配られた必要SPは2500。たとえ有用なアイテムだったとしても、眺めているだけでは意味が無い。

 僕は後ろ髪引かれる思いだったが、次の部屋へと向かった。



 ・ ・ ・ ・


 ・ ・ ・


 ・ ・


 ・


 あれから半日が過ぎた。

 僕は最初に召喚された中央の広間に腰掛けて周りの様子を伺っている。


 男の一人は腰に剣をぶら下げ、見事な装飾を施した胸当てに赤いマント。赤い宝石が額についたサークレットを身に付けていた。

 そしてその周りには5人の男女が座り。彼の言葉に耳を傾けている。


「これからいく世界はモンスターが居る世界だ。僕たちは互いに協力し合って生き延びなければならない。そのためには誰が神になるかという問題についてはひとまず置いておこう。それぞれが協力できるアイテムを交換して共有していくべきなんだ」


 なるほど。イケメンが言うと説得力があるんだが、自分は既に装備一式を身につけているんだよね。

 そんな冷めた目で見ていたのだが、そこに居る男女達はさもその通りとばかりにイケメンに同調していった。


 僕はそんな彼らから視線を外して他を見る。


 こちらは男女二人ずつの4人組だ。この4人はそれぞれ向き合うと話し合いをしている。


「まずは役割分担からだ。俺は剣を取得して剣士を目指そうと思う」


 筋肉が発達した大学生ぐらいの男がそういう。


「なら私は魔法使いね。杖を取得してくるわ」


 答えるのは胸が大きな女。こちらは魔法使いを目指すようだ。


「じゃあ、僕は鍛冶師になるかな。2階の鍛冶師関連の部屋から見繕ってくるよ」


 細めの優男が鍛冶師を提案する。


「じゃ、じゃあ私は僧侶です。回復魔法で皆さんをサポートするので装飾品を見てきます」


 先程の6人と違って、それぞれの役割をハッキリさせて装備を整えるようだ。中々、理にかなっているといえる。


 次に視線を向けたのは二人組みの少女だった。

 長髪の女の子と茶髪のソバージュの女の子。どちらも美人さんなのだが、その表情は優れない。




 僕はそんな二人に興味を無くすと先程まで見てきた武器や防具を思い出す。


 各部屋には目玉というべき武器防具が存在しており、台座に置かれていた。



・聖剣エクスカリバー

・神槍グングニル

・魔杖ケリュケイオン

・神弓パルシオン

・聖槌ミョルニル

・戦斧ヘカトンケイル

・光の鎧

・覇者のマント

・ニーベルングの指輪

・スレイプニルブーツ

・天空の兜

・聖竜の盾

・神の瞳

・賢者の石

・ルナティックストーン


 これらは各部屋の中央の台座に備え付けられており、いずれも必要SPが77777だった。

 一応外せないか触ってみたのだが、動かすことは出来なかった。


 他にも一通りの武器や防具を見て回ったが、あんな凄いものを見た後だと見劣りして仕方ない。


 武器類は必中だったり、防御無視だったり、加護付与だったりするし。防具は光の速度で動けたり、空を飛べたり、自動ヒーリングがついていたりと戦闘が有利になりすぎる。


 そして、その他になるがルナティックストーンはMPを無限に回復できるし神の瞳はどのようなアイテムでも鑑定し、他人のステータスを覗き見ることが出来る。

 賢者の石はいかなる属性にも変化をさせることが出来るので、武器や防具に組み込めばそれだけで性能が大幅にアップする魔力ブーストだ。


 結局僕は、ポーションなどの回復アイテムやあちらの世界のお金。各属性の魔法を覚えるスクロールと交換してSPを消費しきった。


 他の人間が動き回る様子を観察している。残りの人間もぼちぼち準備が整ってきたのか、ここに来たころに比べると衣装が変わっている。

 女の子は法衣やら魔法使いのドレスやら。


 男は、剣士やらハンターの格好やら。


 ふと女の二人組みを見てみると、黒髪の子は剣士に。茶髪の子は踊り子なのか? 際どい衣装に着替えていた。


『はーい。皆注目ー』


 半日ぶりに聞こえるその声。


『皆。装備は行き渡ったかな? まだの人には悪いけどそろそろ時間になりました。君達にはこれから異世界へと赴いて貰います』


 一方的な宣言がなされる。


『その前に一つだけ説明しておきます。君達が神へと至る方法についてです』


 その言葉に緊張が走る。


『今回。君達は様々な装備を目にした事だと思うんだ。中には必要SPが高すぎて断念した装備もあると思う。だけど安心して。これから降り立つ世界では様々な行為によってSPを得る事が出来るんだ。それはモンスターの討伐だったり、国を救ったり。戦争を止めたり』


「…………」


『君達の行動によって得られたSPは交換に使う事が出来るんだ』


 その言葉に質問が変える。


「あの…………それってどうやってですか? 交換したいと思ったらここに来られるって事でしょうか?」


『うん。良い質問だね。交換には来られるよ。ただし、1年に一度だけ。あっちの世界の1年は365日だからね。それまでにSPを溜めに溜めて、目玉のアイテムゲットを目指すと良いよ』


 そう言って声は付け加えた。


『ただし。目玉のアイテムは一点物なんだ。だから誰かが取得してしまったら台座から消えてしまうことになる』


 その言葉に全員が息を呑んだ。


『だから、何を取得するのかはきっちり考えておいてね。パーティで活動するなら何を狙うのか話し合って』


 その言葉に場の空気がひりつく。


『そうそう。神へと至る条件についての話がそれていたね。その条件とはつまり――』


 声は一瞬溜めを作ると。


『100万SP溜めること。そうすれば神へと至る事が出来るアイテムへの道筋が出来ます』


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