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普通同僚で飲みに来ると全部とは言わないまでも少しくらいは仕事の愚痴が出てしまうものなのに、この二人はビックリするくらいそれがない。本当にずっと楽しそうに話しているし笑顔が絶えない。面白かった本とか、買ってよかったアイテムとか、気になるファッションとか、美味しかったスイーツとか。
なんて言うか、本当に純粋な女学生みたいな感じ。
「本当、私はマリさんに出会えて良かったなって思っているんです」
マリさんが会社からの電話に出るために席を立ったと同時に、響子さんがそう言った。
「尊敬って言葉はこういう時に使うんだって初めて知りました。恥ずかしい話、それまでは言葉では知っていたとしても本当のところは知らなかったみたいで。マリさんの事、心の底から大好きですし憧れています。いつかマリさんの様になれたら、いえなりたいです」
そうやって向けられた顔は柔らかで清々しくてとても純粋だった。
「もうすでに響子さんも素敵ですけれどね」
「いえいえ、本当そんなことないんですよ。デザインだって採用にかすりもしないし、売上だって良い時もあれば悪い時もあって安定しないし、それに寝坊も多くてたまに変な恰好のまま出勤しちゃう時もあるし、全然ダメ」
「おや、そうなのですか?」
いつも来店されるときはオシャレな恰好だしショップ店員の人はみんなちゃんとした服装で仕事していると思ってた。
「そうですよ~仕事は大好きなんですけれど、やっぱりまだどこか甘えがあるみたいで。マリさんみたいにストイックになりたいんですけれどね」
「それはそれで遊びがあっていいのではないですか?」
「どうでしょう? それが遊びになっていたらいいんですけれどね。それなりに接客業をしているって言うのに突然のことには今だに慣れないし」
いやいや、どんな人だってアクシデントがあれば普通アタフタするもんじゃないの?
「私は顔に出やすいですから。この間だって」
とそこまで言いかけて気づいたように両手で口元を押さえる。ん? どうした?
「その、突然のことだったから驚いたことには驚いたんですけれど、無意識に変な顔をしてしまって。絶対に傷つけてしまったし・・・本当に合わす顔が無くて」
残念そうに、どこか寂し気に響子さんが言う。あれ、もしかして?
「謝ろうとは思うんですけれど一体どうやって切り出したらいいのか分からなくて。第一謝るのもなんか違うかなって思うと、あぁなんであの時上手く出来なかったのかなって。絶対マリさんなら上手く出来たと思うのに」
最後の方はほとんど独り言のように呟いた言葉。もしあの時のそれが思い違いだったら。
「まぁなんにせよこれからも努力し続けて成長しないとですね」
「えぇ、人生は勉強の連続ですから」
「マスターもまだ勉強するんですか?」
「もちろんですよ。色んな方に勉強させていただいています。そう、この瞬間もね」
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