第11話 「流体型人工生命体」
時間がどれ程経過したか。短くも、長くもないそんな時間が終わりを。緩やかな減速によって二人を包んでいた浮遊感がなくなり、変わりに僅かな重力を与えると完全に止まり、ドアが横に左右に開くとそこには。
近代的な灯りに照らされた天井や床、そして奥へと通路が伸びていた。
「まるで、SFだな」
「えすえふとは、なんだ?」
「ああ、気にするな。ちょっとした独り言だ」
「そうか?」
フェンはそう言うと、そもそもそれほど興味が無かったという事もあり聞いてくることはなかった。
「取り敢えず、行くとするか」
と颯天たちはエレベーターから降りると自動で扉は閉まってしまい、戻る道は断たれてしまった。
「いいのか?」
「ああ。元よりそれを頼りにはしてなかったからな」
「ふむ。 そうか」
継ぎ目もなく同化してしまい、もはや見つける事すら困難になってしまった元扉を一度も見ることなく颯天は進み始め。そんな颯天を見てフェンは面白そうに笑みを浮かべながら颯天の後ろを歩き始めた。
「それにしても、私たちが捕まっていた監獄の下にこのようなものがあるとはな」
フェンはいま歩いている床や天井などを見ながら思わずそう呟く。実際の歩き、見た感じでは木や石とは違い、レンガとも違い、最も近いものは金属。それでも金属にしては表面が滑らかで違うとフェンは感じていると。
「まあ、恐らくあいつらは地下にあるこの場所は知らなかっただろうな」
と颯天が答えたが、それがフェンは不思議に思った。
「何故、そう思うんだ?」
「簡単さ。それはここに入るには、今も俺たちを監視(みて)いる奴が呼んだ時だけだろうさ」
「流石。気づいていたか」
「そっちこそな」
互いに、監視(みら)れている事に気づいてという事を理解して笑みを交わし、その後は何事もなく進んでいくと、目の前に金属製の門というべき扉が見えた。
「どうやら、着いたみたいだぞ?」
「ここが、か?」
目の前にあるのは扉の身。そんな状況で着いたと入れたフェンは不思議そうに首を傾げていると。
『対象を確認』
「な、何だ!?」
突如として聞こえた無機質な機械的な音声に対し、フェンは即座に警戒態勢に入るなか。颯天はと言えばごく自然隊に扉の前に立っている間も言葉は続く。
『データ情報、検索、不明。侵入者と想定。排除を選択』
「な、なんだ…」
フェンは、先ほどまでは何もなかったはずの壁から、無数の見たこともない武器、銃や小型のミサイルと思しき武装が姿を現し、その数の多さに素直に驚いている中でも、颯天は余裕といった風貌で動かずに居るなかで、笑った。
「わざわざ、試すような事をここでする必要があるか?」
「シャドウ?」
突然、笑いながら誰に向けてでもない言葉を、聞こえるように言った颯天にフェンが思わず困惑していると、今まさに攻撃をしようとしていた銃などの駆動音が小さくなり、停止。
更に何事もなかったかのように銃やミサイルは壁へと収納されていき、その光景にフェンはあっけに取られていると。
『排除を撤回。‥‥施設管理統括AI、ファザーよりの通行承認を確認。 流体型人工生命体研究機関への
と、先ほどまでと同じように、しかし今度は先ほどとは全く違う意味の言葉を告げると同時に、音もなく扉が開いていく、その様子にフェンは驚くことしかできなかった。
「…シャドウ。君はアレがなんて言っていたのか、分かったのか?」
「ああ。まあ、ちょっとした恩恵みたいな物のお陰だよ。それより、行くぞ」
正直、この異世界に召喚された際に既に付与されていた『言語理解』の恩恵を改めて感じながら、颯天は開いた扉へと向かって歩き始め、フェンも颯天に着いて門の中へと入ると、真っ暗だった空間が照明に照らされたそこには、学校の体育館ほどの空間に無数の計器、配管やコードが張り巡らされ、それらが全て一つの円筒形の何かへと接続されていた。
「これは‥‥いったい何なんだ…?」
「‥‥‥」
フェンは目の前の状況に思考が追い付けていない様で、呆然とした様子だったが、一方の颯天は冷静に口を開いた。
「ここまで呼んだんだ。そろそろ姿を見せてもいいんじゃないか?」
≪ふむ。確かにそうだな≫
「っ! 誰だ!?」
先ほど聞いたのとは違う、少しノイズが混じった男の声が響き、フェンはいつでも動けるように警戒するなか。円筒形の前にホログラムによって一人の男が姿を現した。
≪ふむ、まずは初めまして。私はファザー、この地下研究所の施設管理統括AIだ。そして、私は君たちと敵対する意思はない。故にそう警戒しなくてもよい、神殺しの血を受け継ぎし狼の娘よ≫
「…貴様、何者だ? 何故それを知っている?」
姿を現した、ファザーと名乗った男の言葉にフェンの表情はまるで氷を思わせるほどに鋭くなっており、ファザーが名乗った事がどれだけの意味を持つのかが分からないながらも、重要な何かがあるというのは伝わってきた。
≪それは至って簡単だ。私はこの施設が作られた時より在るAI。己が肉体を持たず、更にこの施設が生きている限り死ぬことが無い存在だ。故に他の施設の情報を知ることが出来る。だからこそ知っている。遥か昔に、君たちが如何なる理由によって生みだされたのかを」
「‥‥‥‥‥‥」
「なるほど、つまりお前は今の前。超古代科学文明のいわば生き残り、というべき存在という訳だな?」
ファザーの言葉に対し、フェンは一息にして距離を詰めようとした。
そのタイミングで颯天は口を開き、タイミングを逃したフェンは颯天を不満げな表情を浮かべながら見るが、それに颯天は答えず。結果フェンは切り裂こうとしていた爪を収めた。
≪ああ。理解が早くて助かるよ。異なる世界より呼ばれ、『災厄』と呼ばれる存在を内に宿す人間よ≫
颯天は素直に驚いた。何せできうる限り隠しており、初見で颯天の中にいる存在に気が付いたのは両親を除けば初めてだった。
「へぇ、まさか気づくとはな?後学のためになぜ気付いたのか教えてもらえるか?」
≪何、お前の魔力に混じる、力。それは過去、この世界にも似たような存在が出現したことがあった。その記録から解析した結果だ≫
「なるほど。今後の参考にさせてもらおう」
自身の魔力。その中に潜む魔力への変化に工夫を加えようと頭の中に記憶しながら本題を切り出す。
「俺たちを心臓部まで呼んだのは、何故だ?」
≪単刀直入だな?≫
「まあ、こちらとしてはこれは予定外の事だからな」
そもそも、颯天の当初の予定では、既に
(大丈夫とは思うが)
正直、白夜が残ってくれているので自分の事を心配し、伏見とニアが来るという可能性は極めて低いが、それでも心配させる事に颯天は気が引けていた。
≪それは済まなかったな。だが、こちらとしてもあの時以外に機は無いと思ったのだ。時間をこれ以上時間を無駄にするのは双方の理にそぐわないと私は判断する。だがその前に、君はここがどのような施設か、理解しているか?≫
そんな颯天に気づいてかは不明だが、ファザーはそう釈明し本題へと踏み込む前に尋ねてきた。
「流体型人工生命体研究機関。即ち、特定の形を持たない流体型の
≪ああ、まさしくその通りだ。そして、それを理解している君に、託したいものがある≫
「悪いが、
≪そのようなものではない≫
「じゃあ、何を託すつもりだ?」
その様な研究施設。そしてそこを管理するAIが颯天に託したいものについて無かった先手を打ったが、ファザーは否定し。結果分からず颯天は尋ねる。
≪ああ。君に、ここで生まれたこの子を。流体型生命体。その完成体である『娘』を託したい≫
「‥‥‥は?」
ファザーからの、予想だにしていなかった内容に颯天は驚くほかなかった。
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