生産職ですが最強です
シウ
第一章 アスカロ王国編
第1話 「日常・非日常」
「ああ~、やっと仕事が終わった。まあ結局午後の授業には間に合わなか…帰るか」
第三者が見れば学校の授業から解放された、家への帰路についている生徒に見える
颯天が住んでいるのは田舎と都会のちょうど中間に位置する町で颯天はその公立高校に通っている高校二年生だ。なぜ颯天が学校を抜け出してそのまま戻らずに家に戻ろうとしているのかそれは家の生業に近いある事が関係していた。
颯天は現代の社会に存在する数少ない本当の忍術を受け継ぎ、そしてその力で現代社会に存在する社会の闇、人身売買、未成年売春など様々な闇を影で狩る存在で、それが現代に生きる忍のそして颯天の仕事だった。
そして颯天はつい先ほど昼休みの学校から抜け出して、人身売買の闇オークションを潰した帰りだった。
開催される闇オークションでは、負債などを抱えた親が借金を少しでも減らすためにと売られた子供が多い。特に第二次成長期を迎えた中学性や高校生の女子が多く売り出される。出品される人間以外に人型の妖の女や子供なども売り出されている。もちろんペットとして飼うのから奴隷として欲しいと人気が高いからだ。
そして壊滅させての今現在の時間は午後3時を回っており、戻るのが面倒だ、と颯天は戻らずに家に帰宅する事を選んだ。
帰る事を颯天が選択した本当の理由は早く家に帰宅してゲームしたり、ラノベ本を読みたかったのだ。
そして楽しみが待っていると人間必然的に帰宅の足も早くなる。だか颯天は家に帰るまでに偶々、町全体の気配に神経を研ぎ澄ませた時、不審な三つの気配と何かから逃げる一つの気配が引っかかった。
今いる場所から少し離れた裏路地を逃げる女の気配と追いかけているのか三人の男の気配をだった。
大雑把に三人の男という不審な気配と逃げる女の気配を感じ取った颯天は周囲に人影がない事を確認すると、音もなく地面を蹴り、近くにある建物の中で一番高い建物に上った。
眼を閉じて、ゆっくりと息を吐き、町全体の気配に意識を集中し、己の全ての五感を研ぎ澄ませていく。
感覚を研ぎ澄ましていく颯天の頭にある事が過った。
それは最近町の、ある大手有名企業が倒産寸前だという話を(どうやら他の大手企業が合併を進めてきたのを社長が断った後から業績が急速に悪化した)父親から教えられていた颯天はほぼ確信を持ちながらも念のためにと感覚を研ぎ澄ます。
そしてその気配を掴み、風が流れると同時に颯天は建物から家屋の屋根へと降りると、掴んだ気配がいる場所目掛けて屋根伝いに走りだした。
もし、屋根の上を走る颯天を見た人がいたら、それは黒い何かとしか見えなかっただろう。だが颯天としてはどうでもよかった。
屋根伝いに走るショートカットをした颯天は三十秒ほどで目的の路地裏へと到着した。そして建物の上から下を見るとそこには颯天と同い年の少女が壁を背にし、厳つい刺青のある三人のヤ〇ザが少女を囲うようにしていた。
「なんなんですがあなた達はっ!私がなにをしたって言うんですか!?」
颯天は走る前に感知した気配と改めて確認した。もちろん一致した。そしてそれはヤ〇ザの三人も同じだった。
しかし三人のヤ〇ザの内の一番上等な服を着ている男は息を切らしていた。
「はあ、はあ、ち、こんな所まで逃げやがって、今のお前は親に売られて、人としての価値を持っていないんだ。お前のその体を売れば、お前も親が助かるんだ、別に悪くない条件だろ?」
ヤ〇ザの話を聞く限り、父親から聞いていた情報の通り、げ逃げていた少女はどうやら業績が悪化した会社の社長の娘のようだ。だが颯天はまだ介入せずに様子を見る事にした。その間に少女はヤ〇ザに言葉で反撃をする。
「嫌に決まってるじゃないですか!?それに家の業績がおかしいのはあなた達何かしたからじゃないんですか?それとも合併を認めさせるために私を誘拐するつもりなんじゃないんですか?」
「ちっ、気の強えガキだな。せっかく穏便に事を済まそうって思っていたのによ、おい」
上から文字通り、高みの見物を敷いている人が居る事に気づく事無く、ヤ〇ザのリーダーと思しき男が首を振ると部下の二人が徐々に女子への包囲網を詰めていく。それによって少女の表情が歪み恐怖が浮かぶ。
「いや……来ないでっ!」
颯天は二人が少女へと距離を詰めていくのを見て、再度少女を見た時、颯天はある事に気が付いた。それは少女が来ている制服だった。それは颯天も通っている公立高校の制服だった。
そしてもう一つ制服のタイを見て分かった事があった。それは少女が自分と同じ二年生だという事だった。そしてそれが分かればその顔を颯天は何度か見た事があったのだった。
しかしそれよりも有名企業の娘が同じ学年だった事に颯天は驚いたのだった。
そうこうしていると二人は少女との距離を詰めていく。少女は壁を背にしているので逃げることは出来ないので距離は必然と無くなって行く。
「やれやれ‥‥‥‥早く帰ってアニメを見たかったのにな…」
小さな声で愚痴を口にすると颯天は屋根から地面へと飛び降りる。かなりの高さがあったが颯天は足をバネの様に曲げる事で衝撃を足で吸収し、足音を一切立てず陰に注意し、一番後ろのリーダーの後ろに降り立つ。
男たちの意識は完全に少女に向いており、自分たちの後ろに一切気を配っていなかった。いやたとえ配っていたとしても気づくのは困難だっただろう。
そしてこれは颯天にとっての幸運は颯天が見えるはずの少女は涙と恐怖で視野狭窄に陥って颯天が見えていないようだった。
「さて、始めますか」
颯天は持ってきていた学校の鞄から手早く仕事の時に身に着ける仕事装束を取り出し身に纏う。それは時間にして僅か一瞬。一瞬颯天の姿がブレたと思った次の瞬間そこには全身黒の服を纏った颯天が居た。
颯天の仕事装束の色は全身が黒で統一されていた。
服装的には昔の忍者のような感じだが、いくつか違うところがある。まず頭を覆う頭巾ものはなく、代わりに黒のバンダナを目深く付け、相手から見て目が分からないようにしており、鼻と口も黒い布で覆われ隠されている。
体はフィットする様に作られたものでさらに体の排熱、保温のどちらも容易にできるように改造が施されてある。見た目は完全にあるゲームの主人公ものと似ている。
颯天が身に着ける装束のすべてに炭素繊維が織り込まれており防刃、防弾に加えて、さらに術によって様々な強化が施された装備だった。
そして両の手首から肘にかけては刃物や弾丸を防ぐために特別に作られた小型の特殊プロテクターを装着していた。このプロテクターは外内部から一定の強い衝撃を受けると固くなるが、普段は柔らかいので腕の動きは阻害されない作りになっている。
使い方としてはプロテクターで弾丸などを受けるとその部分から急速に硬化して弾を弾く仕組みだ。
そしてこれは格闘戦でも非常に役に立つ。
内部からの衝撃によっても硬化するので相手を殴るまでのコンマ数秒の間に内部から衝撃を与え、硬化させたプロテクターで相手に殴り、昏倒させることが出来るのだ。まさに攻撃と防御に使える攻防一体の矛であり盾だった。
そして最後に足だが、まず脚部にぴったりとフィットし、風の抵抗を最小限にできるように設計されている。また最も負担がかかる足の補助の為に、ズボン全体に施されているテーピングの効果で足の筋肉にかかる負担を分散、軽減できる考えらえ作られた逸品だ。
これはあるゲームの有名キャラの装備を颯天が見て、これはいい!と思い、顔見知りのの工房に頼み込み、どうにか作ってもらえたものだ。もちろん金はかなりの額を要求されたが……
それら身に纏った颯天は全身真っ黒のいかにも忍者、またはある傭兵に似たというべき者だった。
「へへへ、まあ、あそこに行くまでの間は俺たちがせいぜい可愛いがってやるよ、ぎゃははは!」
「おい、商品に傷を付けたらボスに殺されるぞ。さっさとこいつを運ぶ…」
颯天は少女に迫っていた二人の内、チャラ気な仲間に注意しようとしている堅気そうな男に颯天は一瞬で接近し首トンをし、堅気の様な男は昏倒した。
堅気気な男が昏倒するのを見てようやく背後の存在に気づいたチャラい男と、目の前に突然現れた存在に、リーダーの男は気がつき驚いた。だがその驚く時間は颯天にとっては攻撃を加えてくださいと言っているようなものだった。
「シッ!」
矢継ぎ早に残っていたもう一人のチャラい男の腹に颯天は拳を撃ち込む。
無防備の状態で腹に拳を受けたチャラい男は白目を向いてゆっくりと前かがみに倒れる。少女に近づいていた男二人を倒すのに要した時間は僅か二秒。それはのリーダーの男から見れば一瞬だっただろう。
瞬く間に二人もやられた残った男は、すぐに胸のポケットから取り出した拳銃を構え颯天に向けて発砲してきた。確かにいい判断と言えるだろう。
だがこの場で逃走に移らなかったのは失敗だった。相手に銃を撃つのは良い判断だ。だが……気が付かない内に眼と鼻の距離にまで接近されていたという事を男は理解できなかった。そして男が驚愕する事がもう一つあった。
颯天に銃弾が当たらなかったのだ。いや確かに弾は当たってはいた。が、当たった弾丸はそのまま颯天の体をただすり抜けていくだけだった。弾が抜けていった場所からは血は一滴も流れていない。
そして、通り抜けた弾は後ろに居る少女へと跳んだが少女の前の見えない何かに当たったかの様に全て弾かれていく。
「なっ!なんで当たらねえんだっ!?」
男は体を弾がただすり抜けて行く事に驚いているが、種を明かせばその答えは簡単で単純だ。何せ、弾がすり抜けるのは颯天が素早く弾の当たる場所だけを回避して、早すぎるが故に残された残像だ。そして実体がないモノはすり抜けるというのは常識だろう。
そしてこの残像の残し方はいたって簡単で、弾が当たる瞬間、人の眼が追いつかない程の速さで回避するだけだ。
速すぎる動きは人の眼は脳に当たったと誤情報を送り、その結果弾がすり抜けた様に錯覚を起こしたのだった。
もちろんこれを実現するには弾を眼で捉え、回避できる肉体が重要になる。そもそも近距離で弾丸を人の眼で捉えるというのはほぼ不可能だ。だが颯天は目で弾丸を認識して、余裕を持ってわざと直前に回避して残像を残した結果、男はそこにいるが弾が通り抜けたと錯覚を起こしたのだった。
それだけでも衝撃的なことだったが、それ以上の衝撃を男を襲った。
颯天の手が何度か間が抜けた映像のように腕の場所が変わる事が何度かあった。そして颯天が手を開くと落ちてきたのは銃の弾だった。
弾を認識、視ることが出来ると言うことは弾を掴む芸当も出来ると言うものだ。ただし、銃弾の貫通量を殺す術がなければ手を撃ち抜かれてしまうが。
「な、な、た、弾を手で掴み取…たのか?…」
颯天の手から弾がこぼれ落ちるのを見た、男は恐慌状態になり、先程銃を取り出した反対から更にもう一丁の銃を取り出し、両の銃で撃ちまくる。そして辺りには銃声と排莢され地面に到達した薬莢の音が辺りに響き渡る。
カートリッジに装填されていた弾を全て吐き出した銃が沈黙すると、男は手早く弾倉を入れ替え再びを銃声と薬莢が地面を叩く音だけがその場に鳴り響く。男は更に弾を弾倉を入れ替え引き金を引き続ける。
side
「え…?どうして‥‥弾が当たらないの?」
愛梨は二人の男がいつまでたっても襲ってこない事と、自分の前で硬い何かが弾かれる音がする事を不思議に思い閉じていた眼を開けると
自分に近づいて来ていた二人は地面に倒れ込んでいて、残っていた一人は今、全身黒づくめの忍者?暗殺者?のような恰好をした男に銃を撃ち撒くっていた。が弾は黒装束の人をすり抜ける様にして当たらず、すり抜けた弾丸が自分に向かって飛んで来たが、弾はおよそ自分の20㎝手前の何かに弾かれた。
摩訶不思議なその様を見て、藍梨はこれは幻なのではと思い、手の甲を抓った。もちろん痛かった。
(痛い…って事は…現実‥なの?)
現実とは思えない現状だったが、男が撃つ拳銃の発砲音が耳に届きそれは紛れもない現実だと教えてくれていた。そして全ての弾を討ち尽くした銃は沈黙し、ただの金属が擦り合うカチッカチッと音が二度響いた。そして男は弾を入れ換える為に一瞬視線を外した、その瞬間、藍梨の前に居た黒装束の男はその場から消え去った。いや正確に言えば藍梨の眼には消え去った様に見えたのだった。
(えっ!)
驚き、藍梨は急いで周囲を見る。それほど狭い路地ではないので見失う事の方が難しいのだが、
すぐに見つけることができない。
藍梨は特に武術等に詳しくは無いが、一時期やっていた足技主体の武術でそこそこ腕を持っていたが、黒装束の男の動きは全く見えなかった。周りを見ていると男の苦しそうな声が聞こえ、前を見ると先ほどの黒装束を纏った人が立っていて、男は顔に脂汗を浮かべ腹部を押さえているのが見えた。
「いったい・・いつの間に・・な・ん・なん・・・だ…お‥まえは…」
「何、しがないただの忍びさ」
藍梨は聞き取れずに良く分からなかったが、男の言葉に黒ずくめの人が何か言ったという事は理解できたが内容を聞くことは出来なかった。
そして藍梨はどうやら黒装束の人は姿を消したと思わせるほどの速さで男に接近し、腹に拳を打ち込んだと云う事が辛うじて理解できた。そしてその間ヤ〇ザの男はピクリとも動かなかった。
死んだのかと思った藍梨は一瞬、倒れた男を見るために黒装束から目を離した。すると黒装束の人が自分の近くに音もなく移動してきている事に藍梨は驚きのあまり声を出せなかった。よしんば声が出せても悲鳴だっただろうが。
藍梨は知らないが
藍梨は本来ならいくらヤ〇ザを倒して、危機から救ってくれた人とは言え、相手を警戒をするのが正しい反応だっただろう。何せ全身黒ずくめで顔さえ分からないのだから。
しかし藍梨は驚いたが、よくは分からないが、この黒装束の人に対しては不思議と恐怖心は抱かなかった。
寧ろ胸の奥と体が突然熱くなった事に藍梨はどうしてなのかと内心で不思議に思ったのだが結局、藍梨はその答えを今見出す事は出来なかった。
「大丈夫か?」
不思議そうに見ていた藍梨に黒装束の人は優し気に声をかけてきた。その声は、藍梨の知っている男子の同級生の声に比べて少し年上を思わせる落ち着いた声だった。そこで藍梨はようやくこの人が男だと知ったのだった。
そして藍梨が気を抜けたのは男の眼には不快な色は無く、寧ろ自分を心配する色を感じたのだった。それもあってか藍梨は目元に熱いものが浮かび上がってくるのを堪え切れなくなり、泣き始めてしまった。
「うっ‥‥ヒック‥‥うう」
声を上げなかったのは藍梨のなけなしの意地だった。
それから少しの間藍梨は泣き続け、男は何も言わずただそこに立っているのだった。
「うう、お恥ずかしい所を、お見せしました…」
「いや、気にしないでくれ」
泣いたおかげも手伝ってか目元や頬がやや赤いが、どうにか普段通りの感じを取り戻した藍梨相手が気を使ってくれている事に感謝しつつ自分を助けてくれた男に声を掛けた。
「え、えっと、それで、その…助けてくれてありがとうございます。‥‥すみませんけど‥‥あなたは一体何者なのですか?」
助けてくれた相手に不躾いな質問をしていると自覚が藍梨はあったので、これは別に答えてくれる事を期待していた訳ではなかった。だが藍梨その予想はいい意味で裏切られた。
「それは秘密だ。それにしてもこんな事に君は見舞われたのにそれを聞いて来ることは君は思いの外冷静で、胆が据わっているんだな。まあそれは良いとして…君がいつまでここにいるのは色々と危ないと思うから俺が人通りがあるところまで案内するが…歩けるか?」
黒装束の男からで立てるかを尋ねられ、藍梨は自力で立とうしたが安心した事で腰が抜けたのか全く立てなかった。恐らく極度の緊張状態が解けたせいだろう。
藍梨の僅かな仕草で男は藍梨が腰が抜けて立てないというのを理解したようで、男は藍梨のすぐそばに屈み込んで来た。
「仕方がないか‥‥ちょっと失礼するよ」
「え?きゃあっ!」
男が一言何か断りを言った後いきなり背中に手を回して肩を持ち、両足の下に手を入れると藍梨を抱えて、それに驚いた藍梨は驚きの声を上げるが男は気にせず一息に立ち上がった。そして藍梨がされているそれは世間の女性が一度はされたいと言い憧れるお姫様抱っこだった。
藍梨は自分が今、お姫様抱っこをされていることが分かると同時に胸も何故か熱くなり、その熱が顔に行き急激に熱くなるのを感じた。そして顔が赤くなっているとなんとなく分かった。だから藍梨せめて赤くなった顔を見られないように顔を下に向ける。
「?」
男の目元は良く見えないが、なんとなく不思議そうな顔をしていると言うのが分かったが、藍梨は下を向いていたので男は深くは気にしなかったのかそのまま視線を藍梨から外した。
「よし、飛ぶぞ」
藍梨が視線が外れたのを感じると同時に男が何かを言い、内容が理解できなかった藍梨だったが次に感じたのは普段普通であれば感じる事が無い重力と無重力感を僅な時間でほぼ同時に藍梨は感じた。最初の重力に思わず目を閉じてしまい、男の首に手を回し抱きつく。そして体に掛かっていた重力が感じなくなり、藍梨は恐る恐る眼を開けると視界には夕日に照らされた町が見渡せた。そして気がつく。
自分は今空に居る、いや飛んでいると。
「行くよ」
「え、ここって一体、きゃあああああぁぁぁぁぁ!」
話している途中から藍梨は悲鳴を上げた。勢いをなくして落下が始まり、そのまま男は藍梨を抱えたまま、屋根の上に音も藍梨への衝撃も無く降り立つと、次の瞬間、男が一瞬にして乗用車の制限速度並みの速さで走りだした事に対してだった。しかし黒装束の男は藍梨の悲鳴をを気にすることなく走り続ける。車の一般道の法定速度を軽く凌ぐ速さで屋根を走る黒装束の男と藍梨。
そして最初こそ悲鳴を上げた藍梨だったが不思議とその様子に慣れ、その後ただ黒装束の男に抱き付いていた。そして藍梨は気が付いた。これ程の速さで走って居るのに風圧を少しも感じなかった事に。もちろん全く感じないわけではないが、肌を撫でる風の勢いはそよ風のように弱かったのだ。
藍梨が知る由もないが、なぜ藍梨に風圧が一切当たらなかったのか、それは藍梨の体から数ミリの範囲にだけに展開した風の忍術【
そして黒装束の男は屋根の上を身軽にながら別の、別の屋根へと速さも維持したまま飛び移り、藍梨を抱えたまま速度を落とす事無くは走った。
そしてどれくらいの時間が経ったのか十秒か、それとも数分か分からないが走り、男が藍梨を連れてきたのは町の住人なら誰でも一度は訪れた事がある公園だった。
「あ、ありがとうございます。助けていただいて、あ、あの私は
お礼を言おうとした藍梨に黒装束の男は突然手を出して藍梨言葉を遮って止めた。
「名前を見ず知らずの、例え助けてくれた人であっても簡単に名前は言うもんじゃないと思うぞ。さて、一つ君に良い事を教えておこう。君と君の家が抱えている問題は、恐らく今日の夜の内に解決するだろう。だから安心して過ごしてくれ。」
予言めいた事を言ってそれじゃ、と黒装束の男は地面を蹴り、近くにあったそれでも3、4メートル程の高さの家屋の屋根に飛び移った。
「あっ」
ロクにお礼を言わせてもらえず、そのまま去ろうとするその姿を見ては藍梨はお礼くらいは言いたいと思ったが、藍梨の喉は願う通りに動いてくれずすぐに声を出すことは出来なかった。
だが男が背を向けた瞬間、どうにか呼吸を整えて息を吸い込む。少しでも男の人に聞こえるように。声を出した。
「あの‥‥ありがとうございましたッ!」
吸い込んだ息を全て吐き出すかのように言葉に全ての息を使ったお礼を背に受けた男は受け取ったとばかりに軽く手を振るとそのまま建物の影に入ってしまい、藍梨からはその姿はすぐに見えなくなった。
「本当に‥‥」
藍梨は胸の前で無意識に手を組んだ。まるで胸の奥の淡い感情をまるで忘れない様にするかの様に……
そして藍梨は公園を出て自宅へと向かったのだった。そしてその足取りは何処か軽いモノだった。
side 影無 颯天
助けたクラスメイト、香椎藍梨を人気のない公園には降ろすと颯天は近くの建物の影から藍梨から見えない影に入りるとそのまま建物の屋上から藍梨を見ていた。お礼の言葉を受けて公園にいる藍梨が颯天が去った方角に頭をもう一度、丁寧に下げるとそのまま公園を出た。恐らく家へ帰るのだろう。
「‥‥念の為、分身を付けとくか」
藍梨の感謝の言葉を受けた颯天は一瞬、家へと向かっている藍梨に視線を送ると、魔力を全身に流しながら手印を結ぶ。すると颯天の体がブレたかと思うと、その隣に黒装束を纏った颯天そっくりの分身がいた。
「じゃあ、
「分かった。こっちは任せろ」
颯天が分身にそう言うと分身は藍梨の警護を始めた。
そしてそれに気が付くことなく家に帰って行く藍梨を颯天は少しの間見ると、颯天はある事を思い出した。
「‥‥一仕事前に、鞄を持ってこないとな・・・」
そう、藍梨をこの公園に連れて来るためと、同じ学校の生徒だとバレない様に鞄を先ほどのヤ〇ザを倒した裏路地に取りに戻らないといけない事を颯天は今思い出したのだった。
「仕方がないか。まあ同級の女子を抱っこ出来ただけでも役得とするか…」
夕日に全身を赤く染めながら颯天はそう独り言ち、その場から消えたと錯覚するほどの速さで先ほど鞄を置いてきた裏路地へと向かった。そして鞄を回収したその後、家へと仕事服のまま家に帰宅し、休むことなく家を出るとそのまま今日中に解決すると言った香椎家の家の問題の解決に動き出すのだった。
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