第40話 潜入道中
壁にかかれた魔方陣はかなり複雑な構造になっており、全く知識のないオレから見てもかなり高度な魔法だということが伺える。
しかし今まで見てきた魔方陣とは違い、壁に描かれたままで発光もしていない。
常設された魔方陣のようだが、きっと今は魔法が発動していないのだろう。
オレの見立てとしては、魔力などを流せば魔法が起動するのではないかと思っている。
そういった理由で、このアホ面の魔法使いをここまで連れてくる必要があったのだろう。
こいつの魔力でこの魔方陣を起動するために。
「それで、どうするんだ?」
「それはね」
RPGはゆっくりとした足取りで、アホ面魔法使いの首根っこを掴み、
「こうだよ!」
と言いながら魔方陣の書かれた壁へとぶん投げた。
さすが高レベルなだけあって、腕力がすごい。
アホ面魔法使いは壁に勢いよく叩きつけられ、そして魔方陣へと張り付いた。彼は魔方陣に引っ付いたまま痙攣している。
魔方陣が禍々しく発光しており、なにやら魔力を強制的に吸っているようだ。
「なんか可哀想になってくるな」
いきなり意識を刈り取られるわ、そのまま地面に顔面から倒れるわ、引きづられるわ、壁にぶん投げられるわ、魔力吸われるわ……。
今日一日が不憫すぎる……。
「だいじょうぶ。怪我だって治してちゃんとあげるし、覚えてもないだろう」
RPGがそう言い終わった頃に、アホ面魔法使いは地面に落っこちた。
それと同時に、さきほどまで存在していた魔方陣の壁は無くなっている。
どうやら壁が消えてしまう魔法だったらしい。
もしアホ面魔法使いがいなかったら、すぐにはその壁の消失に気がつかなかったかもしれない。
なんせそのまま通路が伸びているのではなく人一人がギリギリ通れるかというほど、細い通路だけが伸びている。通路とは言えないような道だ。
しかもすぐに横に曲がっているようで、この道がどのように続いているのか全く見当がつかない。
さっきまで存在していた壁の向こう側に行くだけなら、
しかしオレ以外を一緒に連れて行く余裕なんてものはない。
だからこのアホ面魔法使いをここまで引きずってきたのだろう。
正式に壁を無くしてしまえば、全員で通ることができる。
「さ、お先にどうぞ」
「あらありがとう」
RPGが手を差し出し、それに対し
何かがあるとは思えないが、一応戦力的には音々さんが一番高いので、この判断は正しいだろう。
音々さんが細い通路に入った途端に壁が再び出現した。
「この壁の向こうには一人ずつしか通れないんだ。やれやれだよね」
うんざりとした表情で、RPGはアホ面魔法使いの首根っこを再び掴み、壁に向かって押し付ける。
再び消えた壁の向こう側には、
「うううぅぅぅぅ」
目を潤ませた音々さんの姿があった。
涙を流しそうな表情で、通路から飛び出してくる。
「あ」
RPGの間抜けな声を同時に、通路は壁で再び塞がれてしまった。
「閉じるなんてひどいぃぃ」
音々さんは
どうやらいきなり一人にされて怖かったらしい。あの能力でどうやったらあんなに怖がることができるのか不思議だ……。
「勝手に閉じちゃうんだよ……」
「じゃあそうやって言ってよぉ……心細かったんだからぁ……」
音々さんはべそをかきながら、想樹さんを強く抱きしめている。
想樹さんはなにやら音々さんの手をぺちぺちとタップしていた。顔色が悪い。キマっているようだ。
「放してやったほうがいいぞ」
これ以上は想樹さんの命にかかわるかもしれない。
なにしろ、ただでさえとろんとしているような目から生気が失われつつある。
「ああっ! ごめんなさい!」
オレの忠告を聞くや否や、音々さんは想樹さんを解放し、何度も何度も謝罪を口にしていた。
想樹さんはその謝罪を聞きながら、ケホケホとちいさく咳をしている。どうやら声を出す余裕がないようだ。
「ほんとうにごめんなさい。そんなこと言わないで。許して。やだよぉ。許してよぉぉぉ」
しかししっかりと怒りは伝えているようで、音々さんは子供のように泣き始めている。
一体どんな心を声を伝えているのか非常に気になるところだが、知らないほうが吉だろう。
「ところで、早くしてくれないかな? 最弱モンスターはもう進んでるんだけど」
不機嫌な声を発するRPG。
確かに一度進んだ道を戻ってきた挙句、ギャーギャーと騒いでいるのだから不機嫌になる気持ちはわかる。
しかしその不機嫌なRPGの発言のせいで、不機嫌になる人物がいた。
「うぬぬぬ。最弱モンスターってボクのこと!? もうかなり怒ったの図!」
確かにゲームとかでスライムは最弱キャラで有名だけど、軟子さんからしたら頭にくるだろう。
その証拠に軟子さんは声を荒げている。そして道を引き返したりはしないながらも、自分のほっぺをちぎり、
「でやああああ」
投げ飛ばした。
怒るのはいいとして、なぜ自分のほっぺたを投げるのか。オレの頭では到底理解できそうにない。
なにはともあれ、投げられた水分は真っ直ぐとRPGへと向かって行き、徐々に形を変えていく。小さい軟子さんへと……。
そのミニ軟子さんは怒りをあらわにし、こぶしを振りかぶり、
「くらえええ! スライムパーんべふ」
RPGに
「はぁ……またか……」
RPGは壁を見てため息をついていた。
無理もない。こっちに来なかったとしても、また閉じてしまっているのだから……。
どうやら大きさなど関係なしに、通過したら閉じるらしい。
一悶着二悶着あったが、その後は何事も起きることなく、全員が通過し終えることができた。
そして一人がやっと通れるだけの道を進んで行くが、非常に歩きにくい。本当にギリギリの幅しかなく、肩を何度も擦っている。太っていたら間違いなく通れないだろう。
そんな道での曲がり角を何度か経験し、やがて少し開けた場所へと出ることが出来た。
狭いのは少しの間だったが、この開放感は気持ちがいい。
といってもそこまで広くはなく、狭いには狭いのだがさっきまでの道と比べるとどうしても広く感じてしまう。
並んで立てるって素晴らしい。
オレは固くなった体をほぐすように伸ばしていると、
「あ」
と、RPGがそんな声を漏らした。
「どうした? 階段の下に何かあるのか?」
そう、今まさに目の前にあるのは下り階段。
しかし下った先まではここから見ることが出来ない。RPGにはマップがあるから把握しているだろうし、何かあるならこの階段の先だろう。
オレはそんな考えをしていたのだが、
「そうじゃなくて、回復してあげるの忘れたなって」
全然違った。
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