第41話 潜入終了
先ほど放置されたアホ面魔法使いが冷たい地面に転がっているかと思うと、非常に申し訳ない気持ちが出てくる。
もし目を覚ましたら何がなんだかわからないだろう。
だからといって今から戻ってまた壁に押し付けるのも違う気がする。
だから帰りになんとかするとして、オレも忘れないよう気を付けなければ……。
そんなことを考えていると、RPGは先頭を切って階段を下り始めた。
その後ろをぞろぞろとオレたちはついて行く。
一段一段下りるにつれ、気温はどんどん下がっていき、湿度も増している。非常にひんやりとする空気が充満し、若干肌寒い。
地下ということを肌で感じながら、オレたちはほとんど会話することなく進んでいった。
ここを下りきると、きっとさななこさんが捕らえられている。
そのことを全員わかっているのか、徐々に表情は強張っていった。
たとえオレたちが強力な能力を有していようとも、心配なものは心配だからだ。
捕まってからそれほど時間は経過していないとはいえ、この気温の中にいるのだとしたら、寒さで体力は奪われる。
今ごろ衰弱して、気を失っていたりする可能性だったありうるのだ。
なんだか心配しすぎな気もするが、こればかりは仕方のないことだろう。
なんせオレはさななこさんの能力を詳しく把握していない。
サーチで周囲を読み取ったりなど、索敵能力が優れている。ということは知っているが、それ以外はあまり知らない。
温度や湿度も測れるなんてことも聞いたこともあるが、だからといってなんだという話になってしまうほど、ショボい。
すごい力があると思えば、ヘンテコな力もある。それがさななこさん。
彼女の能力を評価するのは非常に難しい。
そして性格が変だ。
だからこそ、色々と心配な気持ちが出てきてしまう。
彼女は今ごろ何をしていて、何を感じているのだろう。
今オレたちが向かっているのはわかっているのだろうか?
もしわかっていないとしたら、今も不安に押し潰されそうになっているかもしれない。
ならばもうだいじょうぶだと、伝えてあげたい。
まぁオレがそんなことを考える前に、とっくに
ちらりと想樹さんを見てみると、想樹さんはオレと全く顔を合わせようとはしなかった。
壁のほうをじっと見ている。そこに存在しているものといったら、壁に生えている苔くらいで、観察するようなものじゃない。
そもそも想樹さんが拒否しない限り、オレの心の声が勝手に聞こえているはずなので、オレを視線を自分の意思によって避けているのは明白だ。
嫌な予感しかしない。
さななこさんに何かあったのだろうか……。
とにかく、このまま進めばその答えもすぐにわかるだろう。
オレは焦る気持ちを必死に抑える。
しかし、周りの心境はオレとは違うようだった。
想樹さんは相変わらず壁にご執心で、RPGは後頭部しか見えないので判断はつかないが、他の三名のようすがおかしい。
しかし
そして一番おかしいのは
なんだか呆れて苦笑いしているような感じだった。
この顔は誰にたいしての感情で作られた表情なのだろうか。
今はほとんど会話をしていないので、話し相手ではない。ありえるとしたら心の声で想樹さんと会話している可能性だが、それはあまり考えにくい。なんせ想樹さんは今もなお、壁の観察で忙しいようすだからだ。
ではいったいなぜその表情をしているのかという疑問が残る。
陽色ちゃんに限って一人でそんな顔をしているようなことはないだろう。この中ではおそらく一番まともな人物なのだ。一人でなんの意味もなく苦笑いを振り撒くような変人ではない。
だから考えれば考えるほど、さななこさんに対してその表情を作ったとしか思えないのだ。
違う意味で嫌な予感がわき出てくる。
そしてその原因である彼女の姿も、もう少しで見えてくるだろう。
すでに階段の終わりが見えており、もうわずかしか段数はない。
階段を下りきったあとも、少しの廊下が続いているだけで、その先にはなにやら広い場所になっているようだ。
見張りもいるのだが、すでに気絶している。
オレ以外の誰かがやったのだろう。
なんにせよ、障害はすべて排除済みになっているはずだ。
あとはさななこさんのいる場所に行くだけ。
そして、檻のような場所に捉えられているさななこさんと対面した。
「なにしてんの?」
ごくごく自然とそんな言葉が出てきてしまった。
寒かったのだろう、黄色い毛布を下半身に巻いている。
そこまではいい、問題は体勢にある。
地べたにうつ伏せに寝そべった状態で、下半身を仰け反らせて頭上まで持ってきている。腰の柔らかさが半端ない。
「ほえ? 見てわからないのぉー?」
「全くわからない。もう一回聞くけど、なにしてんの?」
「しゃちほこぉー!」
うん。嫌な予感的中した。わけわからん。
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