第20話  追いかけっこ ピーナッツ少女と黒鬼

「豆ゴラァ!」


「まめごらー! ふぅーーーー!」


 高速で動くピーナッツの殻の上で、両手を空に向かって突きあげるせい

 そのふざけた態度に、黒闇くろやみはこめかみをピクつかせながら、その辺にあった家の屋根を靄ではぎ取る。

 中に人がいないことを確認すると、家を靄で掴み上げ、


「っざけやがって! 死ねやああああああ!」


 投げ飛ばした。

 家は勢いよく生に向かって飛んでいく。


「やーーーーーー」


 一粒の殻付きピーナッツが宙を舞い、家にぶつかると同時に爆発。

 家は木っ端微塵に吹き飛んだ。


 いくら家がもろいとはいえ、ごくごく普通サイズの小さな殻付きピーナッツ一粒で粉々。

 恐らく威力はダイナマイトをも凌ぐ。

 そんな爆弾を、


「ぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽい」


 生は投げまくる。

 それを黒闇は地面に叩きつけ、ときに横に薙ぎ払う。

 そのせいで村の地面はもちろんのこと、建っている家々もぶっ壊れまくっている。


 それでも人に被害がないのは、既に逃げたあとだからだ。

 聞こえてくる爆発音と、実際に起きている爆発を目の当たりにしたら、当然一目散に逃げる。


「ちっ、意外とはえぇじゃねぇか」


 ピーナッツ爆弾で妨害されているとはいえ、黒闇が追いつけないとなると、生の移動速度はかなりのものだ。

 黒闇が空中を移動できるから離されずに済んでいるものの、これが地上同士となればどうなるかはわからない。


 しかし、黒闇は追いつけなくとも、攻撃手段がないわけではない。

 黒闇の靄は、質量が少なくなるほど、速度が増すという性質を持つ。

 空気抵抗など初めからもろともしないので、それが関係しているわけではなく、ただ純粋に速度が増すのだ。


 といっても、爆走している生に当てるためには、かなり小さめの攻撃でなければ通用しないだろう。きっと普通のペン程度の大きさになる。

 そのため、威力はガクッと下がる。

 と言っても力自体が弱くなるわけではなく、ただ攻撃範囲が狭いから身体を貫通する程度の攻撃しかできないだけ、というだけだが……。


「死んどけえええええ」


 生の胴体目掛け、黒い棘は一直線に飛んでいく。


「こわーーーーーーーー」


 生はそれを見ることもせず、横にずれて回避する。


「んぁ?」


 黒闇は顔をしかめながらも、再び叫びを上げ、黒棘を撃ち放つ。

 生はそれを難なく回避した。


 少しは確認する動作があってもよさそうなものだが、生はそれをしない。

 しかし振り返ってなどいたら、生の胴体は貫かれていたことだろう。

 だから生の選択は間違っていない。


 色んな方向へと逃げ回る生に、黒闇は何度も黒棘を飛ばす。

 ときには生が回避しようと動くと当たるような位置にも放ったりもした。しかしそうなると生は回避行動を取らないのだ。


 あともう少しで当たりそうなこともあったが、結局は当たることはない。

 まるで、攻撃がどこにくるのかわかっているかのようだ。


 いや、違う。

 生は黒闇が攻撃を放ってから、避けている。

 まるでそれは、背中にも目があって、見て避けているかのよう。


「んなわけねぇしな……」


 生の能力的に、そんなことはありえない。


 黒闇がどういうことなのかと考えながら攻撃を続けるが、生の動きが突然変わった。

 今までは普通に道を爆走していたのに、家に突っ込んだのだ。

 そして、突っ込んだ方向から見て直角に曲がった場所から出てくる。


 黒闇の視界から外れ、さらに見えない急カーブ。


 それによって黒闇の追走は一瞬だけ止まる。その一瞬で、生はかなりの距離を取ることができるのだ。

 距離を離すには有効的だが、もし家の中に人がいたら大惨事になっていたことだろう。


 そして生は怪我をさせたら治せばいい、なんて考えるような人物ではない。


 基本的に何も考えていないが、むやみに他人を傷つけたりはしない。


 だから、中に人がいないことをわかって家に突っ込んでいるはずなのだ。


「てめぇには、感知能力ねぇはずだろうが!」


「えー? ピーナッツに聞けばわかるよー!?」


「なんでもありかぁ!」


 生がさきほど突っ込んだ家を、黒闇は叩き潰す。


「きゃはーーーー! こわーーーーーー」


 それからも生と黒闇の追いかけっこは続く。


 もう少しで黒闇が追いつけるとなり、生は収穫したてのピーナッツを一房出現させた。

 ピーナッツは、土の中に実がなる。まるでじゃがいものように沢山実る。

 そしてとても土がたくさん付着しているのだ。

 だから、


「ぱたぱたぱたぱたぱたぱたぱたぱた」


 と手ではたくと土煙が発生するのは当然の出来事。


「おかしいだろうが!」


 ただ、規模は尋常ではなく、黒闇の前方が全く見えなくなるほど。

 黒闇は大きく広げた靄でその土煙を吹き飛ばす。

 視界が戻ると同時に、黒闇の体には緑色の蔦が無数に絡みついた。


「んだこれ」


 黒闇は自分の体を動かそうとするが、ピクリとも動かせない。

 蔦の力はかなりあるようだ。

 そしてその蔦からは葉がいくつか生えており、さらに黄色の花が咲き乱れる。


「ピーナッツはねー、えーよーがすごいから成長も早いんだよー?」


 そんな生の言葉が言い終わると同時に、咲き乱れていた花が、落ちる。

 成長が早いなどという次元ではない。


「んなわけあるかぁ!」


 黒闇は自分の背にある靄を使い、ピーナッツを上空へと吹き飛ばす。


「あーあ……」


 そんな、生の声が聞こえると同時、黒闇の目の前には大量の落花生が掘り起こされていた。

 そして起きる爆発。

 家を軽く吹き飛ばす、そんな爆発が、無数に起きる。


 怒涛の爆発。


 この光景を見れば、誰もが震えあがるだろう。


 数十秒間続いた爆発も、やがては止み、煙が徐々に晴れていく。


「だいじょぶー?」


 生自身すらも心配になるほどの威力。

 地形が変わり、周囲の家などまるで最初からなかったと思えるほどに、欠片も存在していない。

 それでも黒い靄は、半球状に広げられ、黒闇を守っていた。


「マジよぉ。いってぇなあああああああああああああ!」


 しかし全てを防げたわけではなかったようで、服が燃え、剥き出しになった上半身は火傷でただれていた。


「よかったー」


 巨大ピーナッツの殻に乗った生は、ほんわかとした笑顔で黒闇に近づき、一粒のピーナッツを差し出す。


「ピーナッツたべうー?」


「いんねぇよ!」


 黒闇はイラついていたこともあり、生を靄で薙ぎ払う。

 生は、大量の土とともに、とてつもない速度で吹き飛んでいった。


「やっべぇ……」


 さすがの黒闇もやり過ぎたと、冷や汗を流す。

 なんせ家をいつくも貫通しているほどの威力だったのだ。


 黒闇は焦燥に駆られながら生を追いかけて行き、数百メートル離れたところであるものを見つけた。


 それは巨大なピーナッツの殻だった。


 しかし生の姿は全く見えない。


 ピーナッツの殻は、ピシッと音が鳴り、ひび割れる。


 黒闇の攻撃をまともに受けたのだ、割れて当然。


 しかし……。


「ぱっかーーーーん」


 中から無傷の生が生まれた。


「もうやってられっかああああああああ」


 黒闇の咆哮が半壊した村に響き渡り、追いかけっこは終了した。

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