第二章 征服開始
第18話 トロン村
オレたちの戦闘を見ていたタルテが我に返り、「これは悪夢ですか?」と呟いたり。
などと色々あったが、今は全員落ち着きを取り戻し、現在はトロン村へと戻ってきたところだ。
一応話し合いも行い、クラスのみんなから征服についての了承は得ている。
決して褒められた方法ではない。
だから、一つの鉄の掟を作った。
できる限り人を殺さないこと。
自分の命が危ない時などのやむを得ない事情ならば仕方ないが、むやみに人は殺さない。
それがオレたちができるこの世界への譲歩だ。
そうなのだが……。
「今からオレらがこの村を征服してやる! 死にたくねぇゴミ共はよぉ」
黒い靄が家々を薙ぎ払い、何もないただの広場を作る。
「ここに集まってオレらの言うことに黙って従えやぁぁぁ!」
黒闇は靄の上で不敵な笑みを浮かべている。
両手から広がる靄が今にも村人を潰してしまいそうだ。
それでも人のいないことを先に確認してから家を薙ぎ払っているので、ちゃんと決めた掟は守っているのがわかる。
傍から見たら完全に殺そうとしているのだが……。
「文句のあるやつぁ、全員かかってきやがれ! 捻り潰してやる!」
「これほどまでに悪役が似合うお方は他にいませんわね」
大海原の意見に、オレたちは一様に頷く。
「……後ろ」
小さな
「てやー」
殻付きピーナッツをぽいっと投げる。
それは弧を描き、一人の魔法使いらしき格好をした男の足元へと落ち、爆発した。
あの小さなピーナッツからは想像もつかないほどの大爆発。
男は爆風を浴びて吹き飛び、家の壁へと激突した。
壁にはヒビが入り、家は崩れ、男を下敷きした。
「これってしゃ、後でゅぇ直すの?」
アフロをふぁっさふぁさと揺らしながら、最盛期は顔を青ざめさせている。
主に原因は黒闇にあるが、家がいつくも壊れているのだから無理もない。
さきほど草原を戻したときに、もう半べそをかいていた。
巻き戻す際に、ずっと目を開けていないといけないらしく、最盛期はいつもドライアイに苦しんでいる。口癖が、「目が剥がれるうううううう」になるくらいに……。
「右から……いっぱいくる……あと三分くらい……」
想樹さんの索敵能力により、オレたちはすぐさま対応することができる。
攻撃される前どころか、相手が見えていない時点で感知できるので、マジでやばい。
「ん……あっちからも……遠距離攻撃……」
本気を出した想樹さんの感知能力ならば、この村全体など完全に把握しているだろう。
どこに誰かがいるのはもちろんのこと、敵対している人物の数や場所。無害な人物の居場所なども完全にわかる。
考えが筒抜けというのはそういうことだ。
だからオレたちは、一方的に攻め入ることができる。
この村を手中に収めるなど、朝飯前だ。
「そう思わないか?」
「え? はああああ!?」
瞬時に移動したオレは、遠距離攻撃を今まさに放とうとしている魔法使いを躊躇なく殴る。
たかが数百メートル。
こんなちっぽけな距離など、オレにしてみれば遠距離でも何でもない。
目の前にいる人物と同じだ。
魔法使いを捕らえ、オレはすぐさま戻る。
瞬時に切り替わる視界。
しかしその視界は数秒前に見ていた視界となんら変わらない。
「相変わらずきもい速さだね~。あはは、ひく~」
さななこさんは笑顔でオレの心にダメージを負わせてくる。
なんでだ。
むしろ褒められるべきことだろう。
「それよりもさ~。その子放してあげたら~? 泣いてるよ~」
「え、泣いてる?」
そう言われて顔を覗いてみると、魔法使いの女の子の目からは涙が流れていた。
容赦なく殴ったのは悪かったと思うが、そもそも攻撃しようとしたのはこの女の子のほうだ。
つまり攻撃手段を持つのだから、女の子だから殴らないなんて綺麗事は、オレたちには通用しない。
なんせこちとら超強い女の子がごろごろといるのだ。
その存在を知ってしまっているのだから、手加減をしようとはなかなか思えない。
「ふぇぇぇぇん! 殴られたよぉぉぉぉ」
「えぇ……」
めっちゃ泣いてるけど、正直ひく。
自分から攻撃しようとして、これはないだろ……。
「うわ~、女の子に手をあげるなんて最低だ~」
これ、オレが悪いのか?
問答無用で殴ったのは、確かに罪悪感はある。だが、魔方陣がギラギラと光っていて今にも魔法を放とうとしていたのだ。それを阻止したに過ぎない。
だからオレはそう主張しようとした。
だが、突き刺さるのは周囲からの女子の視線。
じーっと全員が見ている。
それは異世界人であるタルテもだ。
「…………悪かった……」
オレには頭を下げる以外の選択肢はなかった。
「そんな呑気にしている君たちを、僕が守るよ。レジスト」
やけに格好つけたイケメンボイスが聞こえてきた時には、既に多数の魔法が飛んできていた。
だが、それは透明の何かに阻まれており、こちらに飛んでくる気配は全く持ってない。
やがて数多とあった魔法も勢いがなくなり、消えていく。
「守くん守くん! わたしも守ってくれるの?」
「
「んひぃ、冷たい。冷たいけど……それが……いい……」
奈衣は両手を赤く染まった頬に当てながら、体をくねらせる。それに伴って、茶色のポニーテールが激しく揺れていた。
「奈衣ちゃん。ちょっと気持ち悪いよ?」
守は笑顔を引きつらせながらも、優しい口調ではっきりと忠告するのだが、
「んひぇ。もっと言ってぇ」
奈衣は息を荒くしながら喜ぶだけだ。
本当に、顔だけ見たら可愛いのに、なんでドМなんだろうか……。
そんなことを思っている間に、黒闇が魔法使い軍団を一網打尽にしていた。
靄に包まれ、身動きが取れない様子だ。
そんな中、さきほど助けたばかりのお婆さんが現れていた。お婆さんの腰には、孫娘であるラルが抱き着いている。その表情は非常に不安そうにしていた。
「助けてくれたあなた方が征服とは、どういうことですじゃ」
そう言うお婆さんの声は、震えていた。
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六軌の分析ノート
№25
超能力:ピーナッツ
攻撃力:B
防御力:B
機動力:B
応用力:B
回復力:S
総合戦闘力:B
彼女のピーナッツは脅威でしかない。
なにせあれは爆発する。
そしてどんな傷も一瞬で治すほどの回復力もある。
巨大なピーナッツの殻を掲げれば強靭な盾にもなり、その上に乗るならばそれは高速で移動する乗り物となる。
ピーナッツ万能説。
意味わからない? 大丈夫。書いている僕にもわからない。
ただ一つだけわかることがある。
それは彼女に僕は勝てっこないってことだ。まぁ負けることもないだろうが。
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