第15話  意見の衝突

「征服だぁ!? めんどくせぇこと言い出しやがるな」


「まぁ聞けよ。片っ端から征服していけばさ、おのずとオレたちをここに呼んだやつらにも会えるだろ?」


「んで? 征服した街の維持はどうすんだよ。二十五人しかいねぇんだぞ? 普通に考えて不可能だろうが。まさか雑魚を育てるだとか考えてんのか? どんだけ時間かける気なんだ? てめぇあほか? 一個一個調べて、いなかったら滅ぼしてくのが手っ取り早いだろうが」


 確かに、自分たちだけを優先するのなら、黒闇くろやみの言っている方法が一番だろう。

 しかしそれはあまりにも自分勝手な暴論だ。


「滅ぼすなんて選択肢があってたまるか! この世界の人だってオレたちと同じ人間だろ! だったらなるべく平和に解決するべきだ!」


「てめぇのそういう考えがオレはきれぇなんだよ! どうせクソみたいな人間ばっかだろうがよ! それによ、勝手にオレらを拉致ったのはこの世界のやつらだ! 文句を言われる筋合いはねぇよ!」


「お二人とも熱くなりすぎですわ。一旦落ち着きませんと話し合いになりませんわ」


 大海原おおうなばらがオレと黒闇の間に割って入り、必死に両腕を突き出している。

 表情を見るからに、かなり焦っている様子だ。


 超能力を持つクラスメイト同士が喧嘩しているのだから、当然だと言えば当然だが……。


「元から話し合いなんかになんねぇよ! こんな甘っちょろいやつといくら話し合っても無駄だ! オレはオレのやり方で行く」


 いくら大海原がなだめようと、聞く耳を持たない黒闇には何を言っても無駄だ。

 かと言ってオレが言葉で止められるかと問われれば、不可能だと答えるしかない。


「……それだけは絶対にさせない」


「あ?」


 クソな人間は確かに存在している。

 しかし、タルテのような善良な人だって存在しているのだ。

 それをオレはちゃんと知っている。

 この世界の人だって、むやみに傷つけたくはない。


 だからオレは……。


「黒闇……オレは……力ずくでもお前を止めるぞ」


「何を言い出すかと思えばよぉ。舐めてんのかてめぇは!」


 黒闇の体から、黒い靄が、圧倒的な力が、溢れ出す。


「てめぇのテレポートでオレに勝てるわけねぇだろうが!」


 確かにこの中で圧倒的な戦闘力を誇る黒闇に勝つのは難しいだろう。

 だからといって、簡単に引き下がるわけにはいかない。


 この世界の人のためにも……。


 そして、間違った道を歩もうとしている黒闇自身のためにも……。


 オレは意地でも止める。


「勝つか負けるかは、やってみないとわかんないだろ?」


「そういう余裕な態度がよぉ。いつもいつもむかつくんだよ!」


 大量の闇が、一気に噴出する。

 闇は、黒闇の怒りを含ませ、激しく揺らいだ。


 そして動く靄は黒闇を包み、持ち上げる。


「ぶっ潰してやる! こいや!」


 足元を支える靄は、黒闇を乗せて草原のほうへと素早く向かっていく。

 オレはその靄を追いかけるように、その場で飛びあがった。


「ああもう! なんでこうなるんですの!」


 大海原の声を背に受けながら、オレの視界は一気に切り替わる。


 上空へ。


 そして、次に草原へ。


 しっかりと着地して顔を上げると、遠くに黒い靄が見えた。

 まるで黒い雲のようだが、かなりのスピードでこちらに向かってきている。


 靄の上に立つ人物が見えるような距離になると、他にもちらほらと人物が見えた。

 人を掴んで空を飛ぶ者や、数人が流れる波紋にはじかれていたり、ものすごいスピードで草原を爆走する車椅子に乗る者、それに引きずられる者、その横で並走する液体や、普通に足で走る者、数人を乗せて落花生の殻で草原を滑る者、などなどさまざまな移動手段を用いて、こちらに向かってきている。


「ふぁ~」


 大きな欠伸とともに掴んでいた人物を離すのは、あおたん。

 あだ名のように聞こえるかもしれないが、飛渡とんど青丹あおたんという名前を呼び捨てにしているだけだ。

 そんなあおたんは眠そうな顔で、目には涙を浮かべている。


「ねむ」


「あおたんありがとう」


 守は爽やかなイケメンスマイルをあおたんに向ける。

 その向けられたあおたんはとろんとした目で、「うー」とうなるだけで、草原に寝転がってしまった。

 よっぽど眠いのだろう。


「てめぇ抜いてんじゃねぇよゴラァ!」


 不機嫌な黒闇は、靄で地面をえぐりながらその場に着地する。

 そして、ついでにその鬱憤を晴らすように、靄をオレに向かって噴出した。

 靄は大きな円錐型に変化し、迫る。


 それを見た瞬間、オレはその場から離脱した。


「避けんてんじゃねぇよ!」


「いや、避けるだろ」


 轟音とともに、先ほどオレが立っていた場所に靄が突き刺さる。

 刺さった場所の周囲が激しく盛り上がり、地面を揺らす。


 しかし、いつ見てもこの威力は凄まじい。

 まるで地面が柔らかい砂かと錯覚してしまうほどに。


「ああ、もうこんなことになっていますわ!」


 大海原が地面を見て叫びを上げていた。

 そして続々と集まるクラスメイトたち。

 その中には、一緒に連れて来られたのか、タルテの姿もあった。


「よそ見してんじゃねぇよ!」


 大きく広げられた靄が、ブルドーザーの如く草原をえぐりながら驀進してきている。


 それでも位置が違うため、黒闇の姿はしっかりと視界に捉えられていた。

 オレは移動すると同時に、


「ぐっ」


 黒闇の顔面に蹴りを入れる。


「だらああああ」


 黒闇の体から靄がまだ噴出したが、それが現れたころにはオレの姿は既にそこにはない。


「わかってると思うが、どんなにすごい攻撃だろうと簡単には当たらないぞ?」


「くっっっそがぁ!」


 黒闇の両手から噴出された靄が、黒闇の足元の地面を削った。

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