第11話  RPGの怒り

 男に、祝福の炎が寄り添う。

 それは暖かみのある炎で、心に安らぎを覚えていることだろう。


 本来ならば、自分や味方にかけるべきスキル。


「一回目」


 ガスが燃えるような音とともに、勢いよく青白い炎の槍が男へと一直線に向かっていき、着弾。

 槍はその場で留まるように爆発し、熱量をぐるぐると循環させている。

 これが普通に爆発していたなら、この村が消し飛んでいただろう。

 それほどの威力がある魔法だった。


 しかしそれはRPGの魔法コントロールによって、その場に押し留められていた。

 その結果、男の姿形が綺麗さっぱり無くなっている。

 地面すらも円状にえぐられ、全てが燃え尽き、なくなっていた。


 そして、祝福の光とともに、一枚の赤い羽根がゆっくりと地に落ちる。


 塵もなく消え去っていた男が生き返り、その場で目を見開いていた。

 先ほど死んだ恐怖がまだあるのだろう。


 しかし、地獄はこれからだ。


 オートフェニックス。それは死んだら即座に生き返らせるスキル。

 それがかけられているのだから、何度死のうとも、苦しみは続く。RPGの気が済むまで。


「さっきは威力が強すぎてあまり実感がないかな。でもだいじょうぶ、今度は弱くやるから安心して苦しめ。ファイア」

「いやだ、死にたくない!」


 四つん這いで逃げ出す男の背中に、バスケットボール程度の火がぶち当たる。


「がっ、あああああああああああああああああ」


 バスケットボール程度と言っても、威力は見た目を軽く凌駕する。

 たった一撃の炎。

 ただそれだけで男はのた打ち回り、ピクピクと痙攣し、やがて死に至った。


 そして、再び羽が舞い落ち、男を生き返らせる。


「もう二回目……。こんな弱魔法で死ぬなんて、根性が足りないね」

「いやだ、もうやめてくでゃあああああああああああああああああ」


 命乞いする男にの右腕を、弱魔法の炎が燃やし尽くす。


「うっ……あ……腕がああああ」

「うるさいな。三回目。ファイア」


 そして、次は頭を灰に変え、即座に生き返る。


「もう嫌だ……こんなの耐えられない」


 涙を流しながら、全力で走る男。

 そんな男にRPGは手をかざす。


「バキューム」


 RPGの手の前に謎の吸引力が発生し、男を吸い寄せる。叫びながら腕や足をむちゃくちゃに動かすが、抵抗など出来ず、吸われるがままだ。


「おかえり。焼かれるのも飽きたかな? 趣向を変えようか、今までどんなことをしてきたんだ? それを僕が再現してあげよう」

「ごめんなさい許してください。反省しています。もう二度と、二度と致しません。だからもうやめてください」


 額を地面のこすりつけ、滂沱の涙を流す男。

 見た目では本当に反省しているように見える。そのため、同情という気持ちが沸き上がってこないこともない。

 しかし……。


「ん……まだ……反省してない。援軍……連れてくるって」


 その声を聞いて、青ざめる男は、


「本当に反省しています。本当です! もう二度と、この村にも近づきません!」


 何度も、何度も頭を下げる。

 しかしそんな形だけの謝罪は、想樹そうじゅさんには通用しない。


「嘘」

「本当に、なかなか汚い根性しているね。やれやれ、まだお仕置きが足りないらしい」


 そこからのお仕置きは見るに堪えないものだった。

 溺死、毒殺、絞殺、撲殺などなど本当にバリエーション豊かな死に方を体験していた。

 何度も、何度も苦しみもだえ、死に至る。そうまでしてからやっと、心の底から悪いことをしたと認めたのだ。


 もっと早く反省していれば、こんなにも苦痛を味わう必要はなかった。

 どうやったらここまで捻じ曲がるのか。


「さて、もう行っていいよ」


 RPGがそう言うと、男の周囲に漂っていた、暖かいだけの火が消え去る。

 オートフェニックスが解除され、男は死の恐怖から解放された。

 しかし逃げる気力ももうないのか、呆然自失としている。


「不愉快だから、早く消えてくれるかな?」

「はひ!」


 しかしRPGの未だ怒りを含んだ言葉に、男は声を裏返し、駈けだした。


「そうそう。今あったことだけど」

「もちろん王国には一切報告いたしません」

「いや、報告していいから、むしろしろ」

「り、了解いたしました」

「じゃあもう行け!」

「は、はひ!」


 男はへっぴり腰で、逃げるように去って行った。

 そして姿が見えなくなると、RPGは一人呟く。


「王国もぶっ潰してやる」


 そんな怒りを見せるRPGは振り向き、


「あー、勝手なことしてごめん。でも僕が一人でなんとかするからさ……」


 申し訳なさそうに笑った。

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