第12話  巻き戻し

 RPGはオレたちから視線を外し、ある方向へと顔を向ける。

 その視線の先には、しわしわのお腹を見せるお婆さんと、涙を流す少女の二人が抱き合っている姿が見えた。

 その二人の隣には、黄色のツインテールを揺らすせいが満面の笑みで、


「ぶい」


 とピースを向けていた。

 お婆さんの火傷も怪我も嘘だったかのように完全に治っている。

 しかし残っている血の跡が、先ほどの出来事が嘘ではないということを物語っていた。


「生ちゃんありがとう」


 顔を若干赤らめたRPGは生から少しだけ視線を外し、微笑んだ。


「どーたまして!」


 生は前かがみになり、笑顔を振りまいた。


「あの、黄色の小さな女の子は一体何をしたのですか?」

「ピーナッツを食べさせたんだろ」

「ピーナッツを!?」

「そうピーナッツ」

「ピーナッツ……」


 名前は落花らっかせい

 能力、ピーナッツ。

 そんな彼女は、オレたちの会話を聞いていたのか、


「ピーナッツはえいよーがたくさんあるんだよ! ピーナッツたべうー?」


 ピーナッツを指で摘んで見せてくる。

 彼女は背がとても小さく顔もかなり幼い。

 そのため子供がはしゃいでいるようにしか見えず、これで同い年だというのだから人とは奥深い生き物だ。


 そんな子供な彼女の持論では、ピーナッツは栄養がたくさんあるから食べたら怪我が治る。というもの。

 正直オレもよくわからない。

 ようはドラゴン的な玉が出てくる物語の豆みたいなもんだろう。

 まぁ、こっちのピーナッツは爆発したりもするが……。


「頂きありがとうございますじゃ。まさに神のお力……」

「お婆ちゃんを助けてくれてありがとー!」

「いーよー! ぶいぶい」


 しかし傍から見ると、お婆さんとその孫二人にしか見えない。

 なんにせよ、残るの問題は今もなお炎に包まれている家と畑だ。

 元気になったところで、この後に路頭に迷うことになるのなら意味はない。


 だが、その問題もこのクラスにかかれば、簡単に解決する。クラスの副委員長でもある彼、その名も最盛期さいせいき六軌ろっきが動いたのだから。


「巻き戻し」


 発するのはたった一言。

 その言葉に反応し、燃えていた家が、畑が、巻き戻っていく。

 煙が下降し、広がりを見せる炎もどんどん範囲を狭めていった。

 やがて、全ては元通りの姿へと戻る。


「これでよじゅ……これでよかったかじょ……こでゅ……こぢゅでよびゃったかにょ?」

「結果的に全部噛んでんぞ」

「ごほん。あー、あー、これで、よかった、かな?」

「そのセリフをそこまで慎重に言わないと噛むんだ?」

「うるじゃむ」


 噛んでばかりの彼は、アフロをふよふよと揺らしながら目を吊り上げていた。


「もう書きくびゃえてみゃる」


 そういって最盛期は背負っていたリュックを下し、ガサゴソと中を漁り始めた。

 そして出てきたのは一冊のノート。


 表紙に書かれているのは、『六軌の分析ノート』という文字。

 それがでかでかと主張していた。

 そんなノートをペラペラ捲り、何やら鉛筆で書き加えている。

 そして書き終わると同時に、


「どうでゃ!」


 最盛期は開いたページを見せつけてくる。




 №16  刹那せつな 天威てんい

 超能力:テレポート


 攻撃力:D

 防御力:D

 機動力:SS

 応用力:D


 総合戦闘力:C


 視界に入っている場所ならばどこにでも瞬時に移動することができるらしい。

 本人からの言質はなし。

 発動条件は空中であること?

 人や物も触れていたら? 一緒に移動できる。

 移動した際、慣性の法則は無視され、止まった状態へとリセットされる。

 実際に戦うとしたら、非常に厄介な相手。こちらの攻撃が全て当たらず、一方的に攻撃される可能性がある。ただその攻撃は身体能力に依存するため、強くはない。ハッキリ言って弱い。

 そのため、勝てる気はしないが負ける気もしない。


 口が悪い。性格がひどい。




 恐らく最後の部分を書き加え、それを見せているのだろうが、それよりも気になる部分がある。


「ハッキリ言って弱い……か。へこむわ……」

「そこじゃみゃい!」


 たしか、SS、S、A、B、C、Dの順でランクを決めていて、SSが一番高評価で、Dが一番低評価だったはず。

 軒並みD評価。

 こうして書かれると自分の能力がいかに尖った能力なのかがよくわかる。

 まぁ色々と間違っている部分もあるが、けっこう分析されているほうだろう……。


「これって全員分書いてるんだよな?」

「もちりょん」

「暇人だなお前」

「……………………」

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