第9話 異世界来てから初めて訪れた村
木で作られた柵が囲う村。
魔獣対策なのだろうが、頑丈そうには見えず、村を守れるとは思えなかった。
そんな頼りない柵の中には、粘土の壁と
畑の大きさはそれほどでもなく、五十メートル四方ほど。
実に
しかし牛などの家畜の存在は、ぱっと見た限りでは見当たらず、この村には農業の他に産物になりそうなものはなさそうだった。
農業が主軸の村なのだろうが、それだけでは生活できるかといえば頭を捻らざるを得ない。
周辺の街に売るにしては、この畑は規模が小さすぎる。完全に自給自足なのだろうか?
「こんにちはです。みなさまここがトロン村です!」
タルテは村へと続く柵の傍にいた兵士のような恰好をした男に挨拶したのち、右手を村に向かって広げている。
どうやら村などの規模を言い分ける概念はあるらしい。
「きったねぇ村だな」
「わかるわぁ~、泊まりたいとは思われへんよね~」
「あなたたち失礼ですわよ」
そう小声で注意している
確か大海原はお金持ちのお嬢様だったはずなので、この村の環境を受け入れられないのだろう。
それでも決して口には出さないのは、素直に感心する。
なんせ粘土質の壁を見て、引きつった笑みでこめかみをピクピクとさせているのだ。いつ倒れてもおかしくはない。このやせ我慢がいつまで続けられるのか実に見ものだ。
「お久しぶりですタルテさん。この方たちは?」
「お久しぶりですね。ええっとこの方たちはですね……」
タルテは言い淀みながら、こちらに視線を向ける。
異世界から来たと正直に話していいのかわからないのだろう。
というか、その辺の確認もしっかりとしておくべきだった。
今更もう遅いが……。
「色んな街を旅してる者ですよ。今日はこの村に泊まらせていただこうかと……」
オレは取りあえず無難な答えを発したのだが、
「え、ちょおほんまに!? こんなむぐっみもまむむ、もまめまー」
あめりんが余計なことを言い出す気配があったので、口を押えつつ、羽交い締めにする。
「あはははは、このアホは気にしないでください」
ジタバタともがくあめりんをクラスの後方へと引きずりながら、愛想笑いを返すことしかオレにはできなかった。
「大海原、後は頼む」
「わたくしもこの村には泊まりたくは……」
そういう大海原は今にも目から涙が零れそうになっている。顔色もかなり悪い。
「そうじゃなく、この村にすんなりと入れるように……」
「できればわたくし入りたくはないのですが……」
駄目だこれ。
「普通に入りゃいいだろうがよ」
がつがつと歩みを進める
その時、轟音が村全体に響き渡った。
音源があったと思われる方向に顔を向けると、真っ黒い煙と燃え盛る炎が見えていた。
「いやあああああああああああああ」
聞こえてくるのは悲鳴。
それは非常に幼い女の子のような声だった。
「いきますわよ」
そんな声にいち早く反応したのは大海原。
彼女が歩みを進めると同時、
「通行は許可できません!」
と兵士が前へと立ちふさがった。
本来ならば聞こえた悲鳴に、真っ先に向かわなければならないはずの存在が、オレたちの歩みを止める。
タルテを見てみると、青い顔で地面を見つめるばかり。
誰もが何かあると、それも良くないことがあると、察することができる。
「ほいじゃまー」
るうが悲鳴のあった方向とは見当違いの、オレたちから見て右のほうへと手をふる。
すると兵士は動く度に、右へと動いていく。
「な、なんだ!?」
足を前に出そうとすれば、足を右に出し。
手を前に出そうとすれば、右に出す。
そして戻ろうと動けば動くほど、右のほうへと進んで行く。
「ばいばーい」
「言ってる場合か」
「早く行きますわよ」
「あの動きシュールでおもろいなぁ」
右にひたすら進む兵士を放置し、オレたちは悲鳴のあった方向へと走り出す。
再び、鳴り響く轟音と、
「もうやめてえええええええええええ」
悲痛な声。
***********
本編とはあまり? たぶん? 関係ありません。
読み飛ばしてもらっても支障ありません。
シリアス感を残したいのならむしろ読まないでください。
もう手遅れな気もしますが……。
【もしも、あめりんを止めなかったら……】
「え、ちょおほんまに!? こんなただの土に寝泊まりするん!? 原始人やでこんなん! え? ちょっと臭ない? こんな家に住んでるのって動物くらいちゃう?」
「
「ほな、こなみんは住めんの? ここに住めんの?」
「そ、それとこれとは……」
「正直な答えどうぞここちん」
「ん。ここ住んだら……腐る……」
「お前ら住んでる人に謝れ」
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