第9話 009 武器と防具はなんでもお任せ

 窓から差し込む光は眩して、少し寝すぎただろうか。

 自分で思っている以上に、実は疲れが溜まっていたのか。

 それとも昨日の寝る前の喧騒のせいで寝つくのがだいぶ遅れてしまったせいだろうか。

 ただ、よく眠れたことだけは確かで、体の調子は良いようだ。 

 ふぅ。

 一息つくと、ふと、昨日の寝る前の騒動が思い浮かんだ。

 

 シゲさんのいびきがうるさくって寝つけなくって。

 俺は、今でもそのときのことをすぐに思い起こすことができる。

 そう、緑葉亭の扉が少し乱暴に開かれたところから始まった一幕を。



 バタバタ、ガラン

 誰かが急いで駆けつけてきて、扉は少し乱暴に開かれたんだ。


「お父さん! お父さん大丈夫? 風邪ひいちゃうからね、いっしょに帰りましょう、ね? 」

「フンゴオオオ。ンゴンコボ。ゴホゴホ、フヴォアア」

 

 澄んだ水を思い起こさせるような、透明な声がおそらくはフローラさんなんだろうか。


「フローラちゃん、あんたも甘やかしたらいけないよ! 」

「でも……。私を育ててくれた、たった1人のお父さんだから……」

「いつも、1人でいた私をかまってくれて。お誕生日にだっていっつもプレゼントも買ってくれて……」


 聞こえてくる限りではシゲさん良いパパさんみたいだね。


「フローラちゃん。気持ちはわかるけど、今のシゲさんは単なる酔っ払いなんだよ! 」

「フローラお姉ちゃんが、シゲさんのこと大好きなのもわかるけどさー。でもさーシゲさん良くないよ! 」

「こらっ! ソニアも言いすぎだよ! 」

「だって、シゲさんいっつもこうなんだもーん」

 

 シゲさんも飲みすぎてさえいなければね。


「お父さん! 本当に起きてっ。風邪引いちゃうよっ! 」

「フゴッツ。んー、この感触は……。アリシアちゃんかなーでへへへ」

「キャッ」

「こんのバカたれがー! 」

 

 バシーン

 アリシアちゃん?

 シゲさん叩かれたの? あんた一体自分の娘さんになにをしたんだ?


「んー? 気のせ……ッツフゴウゴアングガアアア」

「ソニアっ、そこの木桶にお水をいっぱいにして、ここに持ってきとくれ! 」

「はーい」


 バシャーン

 木桶からの水がぶちまけられる音。

 シゲさんもさすがに起きるかな?


「……うん? ここは? 」

「あんたって人は……。見てごらん。フローラちゃんが泣いてるよ! 」

「……大丈夫だから、お父さんはなんにも心配しないで」

「フローラっ! 誰だ! フローラを泣かせたのは誰だっ! 」

「お前さんだよっ! 」


 ひどいボケとツッコミだな。


「シゲさん、あんたねぇ。昔を思い出してごらんよ。この街1番の聖騎士だったころの自分をさ。それがちょっと怪我したからってその体たらくで……」

「あんたもうちのお客さんだからねぇ。あたしだってこんなこと言いたかないけど、昔からの付き合いだから言わせてもらってるんだよ! 」

「もっとしっかり働いて、それでフローラちゃんを笑わせてやんなっ! 」

「もうやめてっ! お父さんは、私にとっては今だって現役の聖騎士なんです、ぐすっ。こんか怪我さえ、こんな怪我さえなければっ! 」


 バチーン

 誰かが叩かれる音がまた聴こえてくる。

 シゲさんの怪我を叩いたふうにも思える。

 フローラさんも意外に容赦ないのか? それとも天然かな。


「……っつ。フローラや、ちょっと痛いよ」


 まぁ、なんといったらよいものか、これは……。このひどい茶番は……。

 俺はいつのまにか寝ていた。



 そんな一幕を思い出しながらも、お日様の光で照らされる部屋の中で、俺の意識は少しずつ覚醒してはっきりと目覚めていく。

 俺はベッドから起き上がると、ポシェットを手にとって階段を降りる。

 昨日より少し遅い時間だろうか。

 急ぎ足で食堂に向かった俺の前のテーブルには、朝食を食べ終わったあとの食器が乱雑に並べられている。


「おはようございます」

「おはよう。悪いけど、朝飯はお弁当にしといたからね」

「はい。ありがとうございます」 


 やはり、朝食の時間はもう過ぎているようだ。

 ただ、お弁当にしてもらえるのは正直ありがたいサービスだよな。

 

「あー、それとね。今朝マリーがあんたに会いにきたんだよ。まぁ、あんたも寝てたからね。起こすわけにもいかないしねぇ」

「そうそう、それで言伝なんだけどね。 『無事に魔法薬ができました。昨日はありがとうございました! 』 だってさ」

「そうですか、言伝お伝えいただいてありがとうございます。俺もせっかくなので、マリーナさんの魔法薬草店にはこのあとお邪魔しようかなって思ってます」


 おかみさんは、片づけていた食器類をテーブルの上に置きなおすと、初めて俺の方を見た。


「マリーは、なんでもお友だちを助けに行くとかって話でね、もう今朝ずいぶんと早くに街を出てったはずだよ」

「そうでしたか……」

「まぁ、そんだけよく寝てればねぇ」


 おかみさんも少し呆れたふうで。

 いえいえ、寝れなかっただけなんですよ! と俺は正直なところ叫びたくなった。

 シゲさん……。


 おかみさんは忙しそうに食器類の片づけに戻っている。

 ソニアちゃんが奥の厨房からバスケットにつまったお弁当を両手いっぱいにかかえて持ってきてくれた。


「はい。おにーちゃん! 」

「ありがとう! 」


 俺はソニアちゃんに俺を言うと、バスケットを手にとった。


「おにーちゃん、今日はどうするの? 」


 ソニアちゃんは小首を傾げる。


「今日もお泊りしたいかな? それと、宿代なんだけど……」

「私に渡してくれて、大丈夫だよ! 」


 そっか。さすが異世界。それにしてもしっかりした子だなぁ。

 俺はそんなことを思いながら、手持ちから1銀貨を手渡す。


「はい、お釣りは4大銅貨だね」


 ソニアちゃんは、子どもなのに引き算をサッとこなしてしまった。すごい子だな。


「今日も、待ってるね。おにーちゃん、いってらっしゃい! 」

「よろしくね! 」


 俺はソニアちゃんにそう言うと、おかみさんに軽く会釈をして、『緑葉亭』をあとにする。

 すぐそこに建つ『マリーナさんの魔法薬草店』のお店の入り口の扉には確かに『休業中』のプレートが掲げられていて、しばらく留守にすることが伺える。

 俺はマリーナさんのお友だちの無事を心の中で祈ると、冒険者ギルドに向かうことにした。

 

 お昼近くの冒険者ギルドは、朝よりもはるかに人が少なかった。

 この時間は、だいたいの冒険者はクエスト任務中なんだろうね。

 そうそう、冒険者ギルドにまっさきにきた理由が昨日の薬草の納品だ。

 俺がさっそくにギルドの納品窓口の前に立つと、一昨日のいかついおっさんが変わらずに対応してくれた。


「こんにちは。納品に来ました」

「お、兄ちゃん、今日は早いな」

「今日も薬草の納品なんですけど」

「そうか。ここに入れてもらっていいか? 」

「はい」


 結構大きめなバスケットが置かれている。

 一昨日と同じ要領で、俺はバスケットに薬草を積んでいく。

 マーネ草を12本と。

 それに、ガロン草が6本だ。

 不思議と見るからに薬草の状態は良くって、まるで採取したばかりのようなんだけど。

 気のせいだろうか?

 

「おっと。すごいな。

 兄ちゃん、ガロン草は今回もうちの引き取りでいいのかい? 」


 おっさんの表情が心持ち真剣だ。

 

「はい。お願いします」

「助かるよ、ありがとう」


 おっさんはしごく真剣なおももちで薬草の状態を確認している。


「うん。昨日に続いて、今日の薬草も状態が良いな。

 これなら、マーネ草は1本5大銅貨。ガロン草は1本3銀貨だな。

 それでいいかい? 」

「はい。お願いします」

「あいよ。そんじゃあ今精算してくるから、ちょっと待っててな」

「はい」 


 おっさんはそう言って奥の部屋に消えていった。

 しかし、疑問なのが薬草の状態が良いことなんだよね。

 昨日採取してからずっとポシェットに入れたまんまにしていたし。

 疑問に思った俺は、鑑定を自分にかけてみる。

 

  北条真斗

  説明

  人族の青年。22歳。朝起きてからずっとシゲさんシゲさんって……。

  困ったものなのじゃ。

  特殊

   願力

    発現

    パッシブスキル

    翻訳、未来視、探し物探知

    

    アクティブスキル

    鑑定、大聴力、疾風、怪力、生活魔法、火魔法、アイテムボックス化

 

 困っているのは俺なわけで……鑑定の説明に少しだけイラっとしてしまう自分が情けない。

 それにしても、うん、気になる能力が発現している。

 俺はそのままポシェットに鑑定をかけてみる。

  

  アイテムポシェット

  説明

  なんでも入る便利なレアポシェット。入れたものの時間も停まっちゃう?


 時間も停まっちゃう? とか明らかに停まってるでしょ、これ。

 とんでもないものが出来上がっていたもんだな。

 スキルも確認しておこうか。

 

  アイテムボックス化

  説明

  なんでもアイテムボックスに変えちゃうよ。これであなたも収納名人。   

 

 これはやばいわ。

 こんな能力がバレてしまったらいろいろと面倒なことに巻き込まれてしまいそうだ。

 うん、秘密にしておこう。

 

 そうこうしているうちにおっさんが戻ってきた。


「にいちゃん、待たせたな」


 そうして会計用のトレイに置かれた金額は、全部で24銀貨にもなった。

 正直なところ、これはありがたい。

 俺は、おっさんに挨拶して別れると、銀貨はポシェットにしまい込んで、さっそく次のクエストを探すためにクエストボードに方に向かった。

 

 薬草採取は、定期収入になってくれそうなんだけど。

 ただ、それだけだと、冒険者の浪漫がないとも思える。

 せっかくの異世界、ガンガン行きたいものだしね!

 

 俺は討伐系のクエストで良いものがないかを探してみることにした。

 Fランクとなると、うん。

 スライム退治とか、ゴブリン退治だろうか。

 Eランクになると、ゴブリンファイター退治や、大猪退治なんてのも出てくるみたいだけど。

 ふと覗いてみたBランクのクエストボードには、オーク退治とか、オーガ退治なんて、ちょっとレベルの違いそうなクエストなんかも顔を出していて少し怖い。

 

 まぁ、そうはいってもまず遭遇することはないだろうし。

 それにそもそも俺には武器と防具がないんだよね。

 俺はとりあえずゴブリン退治のクエストを確認してみることにした。


 『ゴブリン調査、場合により退治。ボルン森林でゴブリン発生中!? 

 ※ゴブリンを確認した場合は冒険者ギルドまで報告すること。複数匹のゴブリンを確認した場合は即座に退散するように!

 ※倒した場合には、証拠にゴブリンの右耳を納品すること! 』


 うん、これだね。

 Fランクだけあってゴブリン退治は強制ではない。

 いきなり戦うのも勇気がいる話だし、まずは調査か退治かと取捨選択できるこのクエストは結構良いのではないだろうか。

 ギルドの資料室の地図で確認してみる。

 昨日まで俺が採取していたシュレイン街道沿いの野原を東に向って進んでいけば着く感じだろうか。

 そんなに遠くはなさそうだし、まずは一度討伐系のクエストにも挑戦してみたいよね!

 

 それとゴブリンの特性についての記載もあって。

 それによると、まぁ、イメージ通りではあったんだけど、ゴブリンは基本的には緑色の皮膚をしていて、だいたいのゴブリンが武器を持って襲ってくる。

 ゴブリンは夜目が利くので、暗いところでの戦闘は命取りになる。

 また、女性は特に気をつけなくてならないそうで、複数名のゴブリンに囲まれた場合は戦うよりも前に逃げることを優先すること。

 言葉は基本的には話すことができず、また知能もあまり良くはないが、集団で襲ってくる場合は脅威となるので、注意すること!

 まぁ、そんなところがモンスター図鑑から把握できるゴブリンの特性だろうか。


 うん、ゴブリンって何気に怖いんじゃないかな。Fランクの調査クエストとはいっても油断をしたら命取りだろうね。

 そして、このゴブリンと戦うための武器と防具をどうするかなんだけど。

 まずは、お店を探さないといけないし、ギルドの受付嬢さんに聞いてみようかな。


「あの、すいません」

「はい、どうされましたか? 」

「こんなことをお聞きして良いかわからないんですが、その冒険に必要となる武器防具を取り扱っているお店って、どのあたりにあるんでしょうか? 」


 受付嬢さんはうしろの棚からシュレイン街の地図を取り出すと、テーブルの上にひろげてみせた。


「えーと、そうですね。今がこの場所で……武器防具はこのあたり一帯のお店が取り扱っているんですよ」


 受付嬢さんの説明は地図を利用して場所を指差しながら道順をなぞってくれる丁寧な説明で、すごくわかりやすかった。


「ありがとうございます。さっそく、行ってみますね」


 受付嬢さんに教えてもらった通りに道を進むんでいく。

 迷うことなく道を進めたおかげか、そんなにかからずに遠くから金床を槌で叩く音が聴こえてきた。

 音のする方まで進んでいくと、やがて左右に大きく開かれた広場に面して、何軒もの武器防具屋が軒を連ねていることが確認できる。

 お店は男女問わずに、冒険者たちで賑わっていて、中には騎士ふうの鎧に身を固めた者から深くかぶったフードからその表情を伺うことのできない盗賊ふうの男までさまざまだ。

 

 ちなみに、軒を連ねるお店の店主はみんな背は低かったが筋肉質な体つきと、もっと印象的なのがもさもさと生えている髭で。

 もしかしなくても、ドワーフだった。

 こうしたふとした瞬間に、自分が今立っている場所が異世界であることを感じることになるんだけど、その感じ方はすごくワクワクするものなんだよね。

 

 っと武器防具だ。俺は広場を回りながら、展示されている武器と防具の値札を見て回る。

 うん、さすがに高いな!

 60銀貨と値札の貼られた鉄の剣が普通に並べられてるけど、それなんてまだ安い方だ。

 鎧になるともっと高くって150銀貨なんてのもざらにある感じだ。

 試しに適当に選んで鉄の剣を鑑定してみる。

 

  鉄の剣

  説明

  ふつうの鉄の剣。剣と魔法の世界の定番だね!

 

 うん、普通の剣だってことはわかった。

 可もなく不可もない。

 

 俺の手持ちは33銀貨ちょっとだ。

 宿代のことだって考えると……。安心して使えるのは、どう考えても30銀貨を切ってしまっているわけで……。

 そんなの普通の剣も買えないよ!


 うーん、時期尚早だっただろうか。

 まぁ、でも剣と鎧の相場がわかったことはありがたい。

 今日のところは、とりあえず薬草採取にでも行こうかな?

 俺はきびすを返すと、いつもの野原に向かうため、街の出入り口まで足を向けようとして。


「お兄さーん。安くして行くから見ていかない!? 」

「ねぇねぇ! どうなんだい? もちろん来てくれるんだろ!? 」


 すごく威勢のいいロリ声だった。

 振り向くと、そこにはピンク色の髪をした10歳くらいの女の子が、必死な様子で俺を勧誘している姿が見える。

 その健気な様子が妙に微笑ましくって、俺も薬草採取をしにいく前に、店内をのぞいて見ることことも悪くないかな? 

 そんなふうに思えてついていくことにしたんだ。


「お兄さん、こっちだよ! 」


 威勢のいいロリ声に引っ張られるように、俺はロリッ娘について歩く。

 大広場を外れ、小さい路地を進むんでいくと日の当たらない場所にひっそりとお店が建っていた。

 お店の看板もずいぶん年季が入っていて、かろうじて名前が確認できたほどだ。


『武器と防具ならなんでもお任せ 万屋万兵衛』


 古風な名前だった。

 戸口をくぐって中に入ると、店内はずいぶんと乱雑で、ところ狭しと剣が立てかけられている。

 逆に鎧や兜は、棚に丁寧に置かれているのが不思議だ。

 

「お兄さん、見てってよ! 」


 ロリッ娘も元気がいい。


 俺は素人だから、剣の良し悪しを見る目が残念なことにない。

 ただ鑑定があるので、とりあえず見てみることにする。

 俺は適当に置かれていた剣を1本見繕うと鑑定をかける。

 鑑定!


  鉄の剣

  説明

  よくできた鉄の剣。鍛治師の腕が良いんだろうね。初心者にもオススメするよ!

 

 おぉ。よくできた剣だって!

 気になるお値段はっと。

 15銀貨だ。これは買いだろう。

 ってか、このお店大丈夫なんだろうか。

 いくらなんでも安すぎで経営状態がちょっと心配になってくる。


 あとは、鎧なんだけど。

 うん、もう聞いちゃおうかな。


「すいません。予算30銀貨しかないんですけど、おすすめってありますか? 」


 俺はロリッ娘に武器と防具を買うには圧倒的に足りていないだろう所持金を暴露することにした。


「うーん。30銀貨なら、剣はそこのものなら15銀貨で大丈夫だよ。

 鎧は正直30銀貨だと厳しいねぇ。うーん」


 ロリッ娘はちょっと悩ましげにそう言った。

 お金はそんな持っていない俺なんだけど。

 いっしょになって、あれかなこれかなと真剣に探してくれるロリッ娘。

 俺は心の中で、ロリッ娘なんて思っていたことを心中申し訳なく思ったよ。


 俺は教えてもらった場所からあらためて剣を手にとると順番に鑑定をかけていく。

 そして、もっと良い剣を1本見つけたんだ。

 

  鉄の剣

  説明

  すごくよくできた鉄の剣。ロリッ娘会心の作!


 うん。これだろう。なにより説明が気に入ったし。

 しかし、まさか鑑定までロリッ娘呼びをしてくるとは、一体全体この鑑定はそもそも大丈夫なんだろうか?

 それと、ロリッ娘作って、この子が作ったのかな?

 謎は深まるばかりだけど、すごく品質が良いのは確かなんだよね。

 

 そうそう、あとは鎧もできれば見繕いたいんだけど。

 そう考えて俺は尋ねることにした。


「あの、すみません。剣はこれにします。とても気に入りました! 」

「それでその……鎧や盾も見てみたいんですが……」


 ロリッ娘は俺が買うのを決めた剣を見て、ちょっとうれしそうだ。

 やっぱり自信作だからだろうか?

 なんてことを思っていると、ロリッ娘は店の奥からをガチャガチャといろいろ引っ張り出してきた。


「このあたりは正直売るつもりもなかったんだけどね。なんにもなしじゃあ危ないからね」

「セットで15銀貨にまけとくよ! 」


 うん、まずは鑑定だ。

 

  皮の盾

  説明

  よくできた皮の盾。ロリッ娘作。だけど、ずっと倉庫に眠ったまんまだ。


  皮の籠手

  説明

  よくできた皮の籠手。ロリッ娘作。だけど、ずっと以下略

 

 略すな鑑定!

 それにしても、よくできてるってすごいよね。

 俺は即決でこの2つも買うことにする。


「この2つも買います」


 俺のためらいのない即決にロリッ娘は気を良くしたのか、さらに笑みを深める。


「あいよ。剣と盾、籠手で合計30銀貨ちょうどだよ! 」

「はい」


 俺は30銀貨ちょうどを手渡す。


「確かにちょうどだね。まいどっ! 」

「ところで、お兄さんはその服と靴で狩に行くのかい? 燕尾服なのかね? 立派な服じゃないか。もったいないよ」


 確かに、いつまでも背広じゃね。

 だけどもうお金がないんだよね……。


「福は上下セットで1銀貨で適当に見繕おうか? 靴は5大銅貨でよければ、革靴を用意できるよ! 」


 うん。1銀貨と5大銅貨なら、ギリギリ手持ちに1銀貨とちょっと残るよね。

 かなりギリギリではあるんだけど……。

 ここは必要経費と割り切るべきだろうか。


「はい。ぜひともお願いします」


 俺がそう言うと、ロリッ娘はお店の冒険者ふうな服が置いてある場所まで案内してくれた。


「このあたりから選ぶといいよ! サイズが合うかどうかは適当に着てみるといいからね! 」

 

 俺はサイズの合った黒色の上の長袖に黒色のズボンの上下を選んだ。

 汚れが目立たないしね!


「この2つでお願いします」

「あいよ! 」


 俺はロリッ娘に1銀貨を手渡して精算する。


「ありがとね、おにーちゃん! 」


 ロリッ娘は笑顔でそんなことを言ってくれる。

 いや、本当にさ。お礼を言いたいのは俺の方だよ。

 鑑定しているからこそわかる物の価値。

 どれも本当に良い武器と防具だ。

 

 今後とも良いお付き合いをしたいものだな、ほんと。

 俺はさっきの鑑定結果からの疑問をロリッ娘にぶつけてみたいんだけど。

 

「あの、また買いにきますね! それと、この剣や盾に籠手、どれも良い品物ですね! 本当に助かりました! 」


 まずは正直に感謝の気持ちを伝えると、ロリッ娘は満面の笑顔でうれしそうだ。


「お兄ちゃん、うれしいこと言ってくれるね。それはあたいが作ってんだよ。あと、そうだね、あたいの名前はメイアってんだ。そう呼んどくれよ! 」


 おう。やっぱりロリッ娘作だったんだな。

 って、メイアさんっていうのか。そう呼ばないと失礼だよね。


「ありがとうございます。俺のことは真斗って呼んでください」

「そうかい。真斗、よろしくな! 」


 軽快に名前呼びをしてくれる。姉御みたいなノリだ。 

 でも、正直子どもなんじゃないのか?

 外見は、大人に負けたくないって突っ張ってるような子どもにしか見えないんだけど……。

 俺は仕方なく鑑定をかけてみることにした。

 鑑定!

 

  メイア・スチュアート

  説明

  ドワーフの合法ロリッ娘。29歳。伝説の鍛治師バグスル・スチュアートの正統後継者。


 えぇぇぇぇ。

 メイアさんはまさかの29歳で。

 それに俺より年上だったとは! ドワーフだからかな。さすがの異世界だ。

 それにしても鑑定さんや。お願いだから合法とかそうゆう表現を控えようか?


「メイアさん、また来ますね! 」

「待ってるよ! 」


 俺は、メイアさんに一声かけると、さっそく街を出るために門に向かうことにする。

 万屋万兵衛のすぐ外は少ししか日が差さないけれど、建物の隙間からわずかに漏れさした陽光を受けると、鉄の剣がキラリと光る。

 よし、試し斬りも兼ねてゴブリン退治だ!


 危ない人じゃないからね!

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