怪しい情報

 アルファを送り届け、クルトは帰路を歩いていた。

 エマは今日帰ったとのとこなので、堂々と道を歩ける。


 クルトはエマのことは嫌いではないが、苦手なのだ。他の令嬢と比べると付き合いやすいのだが、好意をストレートにぶつけられると、どうすれがいいか分からなくなる。



(俺のことが好きじゃなかったら、異性の友達として付き合えるのにな)



 そこが惜しまれる。自分は、エマに限らず恋愛的な意味での好意を、良い意味で応えることが出来ない。だから、苦手だ。相手を傷付けるしかないから。



(それにしても暗くなったな。早く帰らないと)



 夜が迫っているので、人通りがほとんどない。外灯がないから、夜は出歩かないのが普通だ。



(外灯を付けるべきか……道が明るいと、犯罪率が下がるらしいし)



 この街の治安は良い。だが、犯罪はあるのだ。どれほど努力しても、犯罪はなくならないのは分かっているが、少しでも犯罪を減るように政策を進めるか。



(その前に、誰も住まなくなった上に、老朽化した建物をどうするか検討でもするか? それとも外灯を先にするか)



 考えながら歩いていると、道の脇からひょっこりと人影が現れた。反射的に身構えると、聞き慣れた声が響く。



「クルト様、考えながら歩くのは危険ですよ」



 ヘルツだった。クルトは肩の力を抜く。



「すまない、ヘルツ」


「いえいえ。ですが、いい加減気を付けていただきたいものですな」



 ヘルツはにっこりと笑う。



「気を付ける。それで、なにかめぼしい情報はあったか?」



 クルトは、定期的に街の情報を集めるよう、ヘルツに頼んでいる。本当はクルト自身が行きたい所だが、仕事が大量にあるため、なかなか出掛けられないのだ。ヘルツがどのような方法で情報を探ってくるのか知らないが、彼の情報収集力は馬鹿にならないうえ、正確だ。だからついつい頼ってしまうのも理由の一つでもある。



「最近、怪しい男たちが、街を彷徨いているみたいですな」


「怪しい男、たち?」



 ヘルツが頷く。



「とくに目立った動きはしていない様子。観光目的で来たらしいですが、そのわりには観光スポットには興味を持っていないようだとか」


「買い物は?」


「日用品を買っているようで。お土産を買っていないようでしたので、宿に問い合わせたところ、その怪しい男たちは泊まっていないようでした」


「どこか別の場所に泊まっている、ということか」



 この街には宿は二つしかない。余所からきた者は、そこでしか泊まれない。友達の家に遊びに行って、そこで泊まった、というのは分かるが、複数形なのが気になる。



「空き家に潜伏した気配があるか、調べる必要がありそうだな」


「調べてきます」


「頼む。だが、無理はしないでくれ」


「はい」



 恭しく一礼して、ヘルツが再び影へと消える。

 クルトは深い溜め息を吐いた。



「また街に連れ出してやれるのは、まだ先になりそうだな……」



 窮屈な思いをさせたくはないが、安全が第一だ。本当は連れ出してあげたいのだが、彼女の命が一番大事だ。



(一刻も早く、その男たちのことをどうにかしないとな。屋敷の警備も厳重にしないと。アルファに侵入経路を聞いたから、それを塞がないと)



 アルファは塀に空いた穴から、屋敷の敷地内に侵入したと言っていた。それを早く塞いで、他の者が侵入しないようにしないといけない。



(それから、伝えないといけないな)



 あのことを、彼女に。


 だが、どうにも躊躇ってしまう。話したら、彼女がどのような反応をするのか。想像するだけで、立ち直れなくなりそうだ。


 だが、伝えない、という選択肢はない。近日中に伝えよう、絶対に。


 そう固く決意し、クルトは急ぎ足で屋敷に向かった。

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