甘味処「ハラレア」①
甘味処「ハラレア」は、そこから細い道を行った所にあった。
店内に食べる所はないようで、こじんまりしている。だが、テラス席があり、眼下に広がるエバン畑が一望できる店だった。
受け取り口らしき所に行くと、貫禄のある女性が立っていた。クルトの姿を見ると、表情を緩めた。
「おや、クルト様じゃないですか! その人は?」
女性がアンジェリカを見て、首を傾げる。
「俺の婚約者だ」
「おやおや! この人が、噂の婚約者かい! なんとまぁ、可愛らしい人じゃないですか!」
女性がアンジェリカを見て、興奮気味に褒める。どこか、見覚えのある面影があるような気がしながら、アンジェリカは軽く会釈した。
「この人は、アルファの母親で、この店の店主だ」
「そうなんですか。わたしは、アンジェリカといいます」
どうりで、輝く顔がそっくりなわけだ、と心の中で納得する。
「あ、紹介が遅れてごめんなさいねぇ。アタシは、ジェリーです。それはそうと、アンジェリカ様。うちの馬鹿息子に会ったんですか?」
「はい。お元気そうなお子さんでしたね」
「元気すぎて、声が潰れてしまいそうですよ! あの子、生意気なこと言っていませんでした?」
「言っていた上に、なにか悪さやっていたようだぞ」
「たく、あの子は! 帰ってきたら、拳骨と説教だね!」
「店主さん」
アンジェリカが話しかけると、ジェリーはハッとなった後、申し訳なさそうな顔をする。
「あ、ごめんなさいねぇ。つい、熱くなっちゃって」
「いえ。お気になさらず。あと、拳骨じゃなくて、お尻ぺんぺんのほうがよろしいかと」
「採用」
ジェリーがぐっと親指を立てる。クルトが半眼になって、アンジェリカを見据えた。
「アンタ……本当は怒っていたのか?」
「いいえ?」
怒ってはいない。ただ、そこまでの慈悲はないだけである。
「そういえば、アルファ君が新作が出来たと言っていたのですが、新作とはなんでしょうか?」
「エバンの花を使った、お菓子と飲み物です。名付けて、エバンの贈り物と、エバンレモネード!」
「レモネード、ですか?」
元いた世界でも、同じ名前の飲み物があったのを思い出す。
「そうです! エバンの花の蜜をたっぷり入れた、自慢のレモネードです。爽やかで甘酸っぱいレモンの香りと、濃厚なのに上品な甘さがあるエバンの花の蜜が程よく混ざり合って、さっぱりとした口当たりになります。お砂糖がなくとも、エバンの花の蜜が、砂糖代わりになっているので、甘さ控えめで、甘いのが苦手な方にもお勧めできる飲み物ですよ!」
「エバンの贈り物、というのは?」
「エバンの花の花茶の素を練り込んだクッキー生地の上に、エバンの花の蜜入りのムッソを固めたクリームが乗ったお菓子です。これもさっぱりとした感じに仕上がっていますよ」
ムッソは屋敷のデザートとして、出されたことがある。ヨーグルトのような味の発酵物だ。つまり、ヨーグルトムースのタルト、のようなものだろうか。タルトは食べたことがないが、気になっていた食べ物だ。
「どちらも美味しそうですね」
「両方とも貰おうか」
「エバンの贈り物、エバンレモネードを二つずつですね! まいどどうもぉ! あちらのテラス席でお待ちくださいねぇ!」
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