アンジェリカ

 アンジェリカがこの世界に召喚されてから、七年の月日が流れた。


 当時、九歳だったアンジェリカは地球の日本にいた。


 唯一の家族だった祖父が亡くなった夜、目が眩むほどの強い光が急に現れ、気が付いたらベッドごと異世界に飛ばされた。


 下には魔法陣らしい円陣が描かれ、周りには中年男と白いローブを羽織った数十人の大人たちがアンジェリカを見据えていた。


 周りの大人たちから、冷静、達観している、と評されたアンジェリカもこればかりは状況を把握するのに時間がかかった。


 ただ、一番偉いかと思われる中年男が「聖女だ。召喚に成功した」とやけに喜んでいたが、純粋なものではなく「こいつどう調理しようか」というゲスい顔をしていた事は分かった。


 話が勝手に進む中、唯一まともだった白いローブを被った老人……大神官であったグレハムがアンジェリカに状況を説明してくれた。


 この世界の名は『ヒルセリア』、アンジェリカは『聖女』として召喚されたのだという。


 聖女というのは、別名『神の愛子』と呼ばれ、この世界の神々に愛された子なのだという。聖女がいるだけで、国に平和をもたらすらしい。


 この世界の神よ。何故異世界の住人であるわたしを愛したのか。せめてこの世界の住人にしてほしかった。


 しかも、召喚できても、アンジェリカを元の世界に戻す術はないのだという。召喚術はあっても召還術がないとは、これ如何に。


 勝手に喚び出された挙げ句、帰すことができない。なんという理不尽で無情なこと。だが、帰れないのなら諦めるしかない。


 そして色々な事情により、元の名前すら奪われる形になり、アンジェリカは王に監禁されることになったのだ。


 アンジェリカに与えられた部屋は、広いがベッド以外何もなかった。嗜好品一つもない、窓もない、ただの白い部屋だった。


 異世界に来ても白い部屋に閉じこめられるとは。アンジェリカは辟易したが、物申すのも面倒くさい。あの自己中心的な王は、どうせアンジェリカの言うことを聞いてはくれない。アンジェリカに対して金を使うことを嫌がっていた。


 衣食住を貰えたのだから、これ以上望むのはよそう。面倒くさいだけだ。


 それからのアンジェリカは、世界の事を知らぬまま七年の月日が流れた。

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