第5章 処分
「君らの妹たちは、なかなか面白い情報を持ってきたね」
ランタンの明かり一つの薄暗い部屋の中、興味深い……と、報告してきた白い服の元素騎士に、青年は無邪気に、にっこりと笑う。
「ところで、
「適正値
アイツ、そんなレベルでよく選ばれたな……と、元素騎士の隣で、赤い目と髪の男が、呆れた表情で頭を抱え、ため息を吐いた。
「まー、あらかたどうせ、ウチの
自嘲気味に笑う男に、報告を受ける側の青年が、一緒に笑う。
「エゴ丸出しの人間側が連れてきた操者のあまりの出来の悪さに、精霊機が怒って、自分で操者を選んじゃった……ってトコかな。うーん、他人事じゃないけど、妙に情けない前例作っちゃたなぁ……」
話す内容は年相応だが、言動や仕草が相反して幼い。そんな青年の様子に、大抵の者は、ちぐはぐな印象を抱く。
君も性格悪いから、精霊機に嫌われないようにね……。妙に心配そうな青年の言葉に、ゴホンッ……と、元素騎士は咳払いをした。
「お言葉ながら、リイヤ・プラーナとリイヤ・オブシディアンの報告が正確だとすれば……その
怖い怖い……と茶化すように青年は両手を手をあげる。
相当気分を害したか、いまだに睨みつつも、職務的に「如何なさいますか?」問う元素騎士に、んー……と、青年は腕を組んだ。
しかし、それはポーズだけ。答えは既に決まっているようで、あっさり口にした。
「一応ボク、『陛下』って立場になってるワケだからさ。……やっぱ会ってみたいよね」
青年は朱色の瞳を細め、にっこりと笑う。
「連れてきてよ。その伝説級」
◆◇◆
「と、言うわけだ。連れてこい」
あっさり言ってのける通信相手に、ステラは開いた口がふさがらない。
「陛下といい
「無茶ではないだろう。とにかく、連れて来いというのだから連れてこい。手段は問うな。家族を人質にとるなり殺すなり、町を焼くなり方法は問わん」
それを、無茶と言わず、何を無茶と言うのか……あっけにとられるステラなど、気にした様子もなく、隊長──光の精霊機デウスヘーラーの操者、チェーザレ=オブシディアンは、好き放題、言うだけ言って、ぶっつりと通信を切った。
もちろん、隊長も本気でマルーンを焼き討ちするつもりなんて、さらさら無いのだろうケド、なんてこったい……ステラは頭を抱え、ヘパイストの
「へパのあんちゃん」──と、
そんな存在など、ステラはまったくもって気づきもしなかったが、もし、そんな存在が、本当に存在していたなら……『彼』は一体、どんな顔で、この通信を聞いているのだろう。
「ゴメンね……へパちゃん。とりあえず、私は絶対、そんな酷い手は使わないから!」
──とは、いうものの。
打つ手は今のところ、まったくもってナシ。
「やれやれ……どうやって、「説得」しましょうかねぇ……」
うんうんとうなりながら、ステラは愛機を降りた。
◆◇◆
(どうした、もんかのぅ……)
気まずい沈黙に、モルガは頭を抱える。
チラリと視線をあげると、机を挟み、ギロリと睨む黒い瞳。
再び伏せて、はぁ……と、モルガはため息を吐いた。
『
幼い少女が、モルガに囁く。
モルガは、ため息とともに、小声で答えた。
「ルツか……ちぃと、
地の精霊機ヘルメガータ──に宿る、「精霊」と思わしき、幼い少女。
『ルツ』と、彼女はモルガに名乗った。
彼女は精霊機から離れ、心配そうに、軟禁状態のモルガに付き添っている。
モルガが彼女に手を引かれ、精霊機に乗って。
そこで、彼女から、火山を鎮める「提案」を受けた。
複数の精霊機の協力を得ることで、「そういうこと」ができることも。
ルツを介して、二機の精霊機に宿る精霊に交渉し、協力を得たことも。
モルガは最善を尽くすことができたし、自分の行動は間違ってはいないと、胸を張って言える。
──とは、いうものの。
(ワシもちぃと、言い過ぎたしのぉ)
攻撃を受け、ギードの言葉につい、頭に血が上って、暴言を吐いた自覚はある。
「肝心なときに役に立たん、『
冷静になった今なら言える。先ほどルクレツィアも、ハデスヘルの操者でありながら、「ハデスさん」を「見えない」と、言っていたではないか……。
「耳もかさない」のではなく、彼らはどういうわけか、
はぁぁぁ……。何度目かもわからない、モルガが深いため息を吐いたその時。
「やっだぁー。なんだか辛気臭いわね!」
あっけらかんとした少女の声に、モルガとルクレツィア、双方が顔をあげた。
「ごっめん! ルーちゃん。遅くなって。連絡はすぐ終わったんだけど、その後
「兄う……ラング・オブシディアンからの指示は?」
ルクレツィアの言葉に、ステラは「ちょっと待って」と、ルクレツィアを止め、彼女の隣に座り、モルガに向かい合った。
「……というわけで、まずはそっちの伝説級の新人君の処分から」
「はい?」
「はぁ?」
ナニソレ……といった表情で、ルクレツィアとモルガが同時にステラを見つめた。
「仲、良いじゃない」
「そんなことは無い!」
「そがぁなこたぁない!」
やはり、同時に否定し、ステラはクスクスと笑った。
「あなたたちが気が合うことは、よーく、わかりましたって」
思わず赤面しつつ、モルガとルクレツィアはお互い視線をそらした。
これ以上同じ言葉を重ねたくなかったので、二人とも沈黙。
やっぱり、息ぴったりじゃない……と、ステラは思ったが、話が進まないので、とりあえず、この話は置いておくことにする。
「とりあえず、今回の件は「こちら側の不手際」であることは認めます」
ステラはニッコリと笑った。
「異例の状況ではあるけれど、ラング・ザインは諸々の状況から降格および、『
「はぁ?」
それは困る! と、モルガは立ち上がった。
「え? モル君呼びは嫌?」
「そげな話じゃない! ワシは、VD技師になりたいんじゃ!」
きょとん……と、小さな精霊がモルガを見上げた。
『
「いや。待て。ルツ。お前さんが嫌なワケじゃないんじゃが……」
涙目のルツに、おろおろとモルガは口ごもる。
が、とりあえず「今はこっちじゃ」と、騎士二人に向かい合った。
「さっきもゆーたように、ありゃぁ非常事態っちゅうか、苦肉の策っちゅうか……とにかく、ワシゃー、騎士じゃなくVD技師になりたくて、帝都に行ったんじゃ!」
「あぁ、その件だけど……」
パンパンッ! と、ステラは手を叩いた。
「入ってきて!」
ステラの合図とともに、室内になだれ込んできたのは、モルガの兄弟たちだった。
皆、異様なテンションに、思わずモルガは後ずさり、驚いたルツも、彼の後ろに隠れてしまう。
「モルガ兄ちゃん! 操者に選ばれたんじゃと! おめでとう! ええのぉ精霊機! 男なら憧れるぜッ!」
「兄ちゃん! 助けてくれてありがと! カッコよかったよ!」
お、おう……と、モルガは手を握る弟二人に答える。
しかし、兄と姉の台詞に、モルガは言葉を失った。
「いやぁ……親父の夢じゃった「ヘリオドール」の工房を、まさか自分の代で帝都に構えることができるようになろうとは……モルガのおかげじゃ! 本当に、モルガは親孝行じゃのぉ!」
「ウチも……とうとう脱! 修理士……憧れの専業主婦……場合によっては玉の輿……」
「おい!」
思わずモルガはステラの肩を掴む。
「どういうことじゃ!」
「モル君!
「酷い手は使わない」と言い切った少女が打った手は、「買収」であった。
……確かに、遥かにマシではあるのだが──隣で
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