第7話 魔法少女と裏方たち 3
服を作るのは俺の趣味であって、別にお前のために作ってるわけじゃ無いんだからな!
……などというツンデレな発言をする気は毛頭ない。せっかく茉理が服を褒めてくれたんだ。ここは甘んじてそれを受けるとしよう。
「浩平君の作る衣装は可愛くて魔法少女にピッタリだニャ。数少ない魔法少女っぽいところニャ」
嬉しい事に、俺の作る衣装はバニラもお気に入りだ。魔法少女というイメージに合うよう、どれも可愛らしい作りになっているところが良いらしい。
「まあいくらそれっぽい衣装を着ても世間からは、アマゾネスって呼ばれてるけどな」
「うっ…ボクの目指す魔法少女への道のりはまだまだ遠いニャ」
うん、バニラが肩を落とす気持ちはわかる。俺は魔法少女に拘りがあるわけじゃないが、それでもアマゾネスなどと言われるとさすがに少々複雑だ。
だが当の本人は別段気にした様子は無い。
「いいじゃない。正体が私だってのを隠すのには十分役に立ってるんだからから。なにせ普段着がこれだからね。可愛い服なんて着てたら誰も気づかないよ」
茉理はそう言って、俺の作った衣装と今着ている服を見比べる。つられて俺も眺める。茉理の着ている、何と言うかアレな格好を。
今彼女が来ているのは、くたびれてヨレヨレになったジャージ。ハッキリ言ってとてもダサい。確かにこれでは、さっきまでの姿とはすぐには結び付かないだろう。これが茉理の普段着だ。
「こんなの作れるなんて、浩平は凄いよね」
「まあ、元々趣味みたいなものだったからな」
親の仕事の影響からか昔から服作りに興味を持っていたが、まさかこんな形で役に立つとは思わなかった。
「私も浩平の作る服、可愛くて良いと思うよ」
「そうか?可愛いと思うか?」
服作りには力と拘りを注いでいるので、こんな風に褒められると素直に嬉しい。しかし、俺はそれから少し間を置くと、改めて現在の茉理の格好を見て言った。
「なあ、前から思ってたけど、茉理の普段着っていつもそんな感じだよな?」
「そんなって、このジャージのこと?うん、大体いつもこんなだよ」
確認した通り、茉理の普段着はほとんどがジャージか、そうで無くても飾り気がなくオシャレからは程遠いものばかりだった。しかも俺の記憶では、その多くが使い古されてヨレヨレになっている。
「茉理さえ良かったら、魔法少女の衣装だけじゃなく普段の服だって作っていいんだぞ。カジュアルな服だって作ってみたいし、それにその、茉理はせっかく…可愛いんだし」
可愛い。その言葉を発するのには少々緊張があった。服や小物などの装飾品に対して可愛いと言ったことは数あれど、人に対して使うのは何となく恥ずかしいと感じてしまう。だが茉理が可愛いのは紛れもない事実だ。だからこそ俺は、もっと茉理の服を作ってみたかった。
しかしそれを聞いた茉理はアッサリと言った。
「別にいらないかな」
いらない。それを聞いて俺はガックリと項垂れる。しかしある程度想定していた答えでもあった。
「別に浩平の服が悪いって言ってるんじゃないよ。ただ私の場合、可愛いとかファッションとかにはそもそも興味が無いって言うか……」
俺が目に見えて沈んだのを見て、茉理もさすがに悪いと思ったのだろう。慌てて言葉を繋ぐ。
それを見て俺は苦笑するが、文句を言う気は無かった。
「分かってるよ。茉理がそういうのに無関心なのはいつもの事だからな」
「うん。見た目よりも楽にできる格好の方が良いって思っちゃうんだよね」
茉理に何の悪意も無いという事は、長い付き合いからよく分かっている。ただ純粋に興味が無いだけなんだ。それはそれで悲しい事だが。
するとバニラが、改めて今の茉理の格好を見て言う。
「その結果が、ダサくて女子力のかけらも感じられないその姿ニャ」
「酷いよバニラ。いいでしょ、着飾っても見せたい人なんていないんだから」
さすがにその言い方は嫌だったようだが、事実なので反論する事も出来ずむくれる茉理。その後、再び俺に向かって言った。
「でも浩平、私は服に興味ないけど、浩平の服作りの夢は応援してるんだよ。作った服を試着してほしいって言うなら協力してもいいけど?」
茉理も興味が無いだけで、何もオシャレが嫌い言うわけでは無い。もし俺がここで頼めば、きっと快く着てくれるだろう。だが俺はその提案に首を振った。
「いや、いいよ。俺は、服は本人が着たいと思って着なきゃ意味が無いって思ってる。だから今みたいにハッキリ興味ないって言ってくれた方がありがたい」
「そうなの?」
「ああ。ある意味その方がやる気出るんだよ。いつか絶対、茉理から着たいって言わせて見せるってな」
それは俺の一種の目標でもあった。どうしようもなくオシャレに無関心な茉理の心を動かすような服を、いつか作ってみたいと思っている。
宣言するように告げられたそれを、茉理は小さく笑いながら聞いている。
「私が服を見てときめいたり、キャー可愛いなんて言ったりする姿なんて想像つかないんだけど」
「だろうな。けど、だからこそ見てみたい」
「そんな日来るのかな?」
茉理は首をかしげながら、もう一度クスリと笑った。
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