第6話 魔法少女と裏方たち 2

 自分は役立たずだと言い、しょんぼりと落ち込むバニラ。だがそんなバニラに茉理が声をかけた。


「ねえバニラ。私はバニラが役立たずなんて思ってこと一度も無いよ。もしバニラが協力してなかったら、きっと私は魔法少女なんてやってなかったと思う」

「……ホントかニャ?」


 その言葉に、バニラは項垂れていた顔を上げる。


「本当だよ。これを見て」


 茉理が指差した先にあったのは、さっきと同じように魔獣騒ぎの報道を続けるテレビだった。

 画面の中でリポーターが語る。


『アマゾネスの少女が出現すると同時に、周囲ではカメラを始めとするあらゆる記録媒体が使用不能になるという謎の現象が起きています。そのため彼女の姿を記録した映像は現在どこにもなく、姿を確認するには直接目にする以外ありません。その事が、謎に包まれたアマゾネスの正体を特定する事をさらに困難にしています』


「あっ、ボクの魔法のこと言ってるニャ」


 テレビが伝えている通り、魔獣と戦う茉理の姿はどんな記録にも残っていなかった。それは、茉理が戦う際にバニラがそういう魔法を使っているからだ。おかげでネットにも茉理の画像は一枚だって出回っていない。


「バニラがこうしてくれなかったら、今頃私の正体も世間にバレてたかもしれない」


 魔法少女、もといアマゾネスが何者なのかは、今世間が最も関心を寄せている事だった。2チャンネルでは正体予想のスレッドが立ち上げられ、様々な議論が行われているが、その正体は不明のままだ。

 さらに言うと、正体を追っているのは世間やマスコミだけではない。


「確か前に見たニュースでは、警察や政府も正体を追ってるって言ってたな。魔獣に対抗する唯一の手段ってことで、何としても捕まえたいんだろうな」


 こんな状況でテレビやネットに映像が出回れば、正体が茉理だとバレるのも時間の問題だ。そうなるのを避けるため、バニラは戦いに向かう際茉理の姿が記録されないようにしていた。


「ボクは直接戦うことは出来ないけどこういうのは得意だニャ。ボクにかかれば人間の作った技術を無効化するなんて簡単だニャ」


 バニラはさっきまでの落ち込み用から一転して、ドヤ顔で胸を張る。茉理はそんなバニラの頭を優しく撫でた。


「ありがとうバニラ。魔獣と戦うのは良いけど、それが私だってバレるのは嫌だからすごく助かるよ」


 人に正体を知られたくない。それは茉理が魔法少女になる際に言ったことだった。唯一の条件と言っていい。


「私があんなことしてるって知ったら、周りの子の見る目が変わっちゃうからね。それだけは嫌だったんだ」

「大丈夫。ボクがいれば何とかなるニャ。安心してまかせるニャ」

「頼りにしてるよ。偉い偉い」

「わーい。もっと言ってニャ」


 褒められたことで、バニラの機嫌もすっかり良くなったようだ。それから茉理は俺に向かっても言った。


「それと、浩平もありがとね」

「俺?」


 なぜこのタイミングでお礼を言われたのだろう?俺は首をかしげるが、茉理はバニラに言ったのと同じように、浩平にも感謝の言葉を送った。


「この服、いつも作ってくれてるでしょ」

「まあな」


 ああ、そういうことか。

 茉理はさっきまで来ていた服を指す。今は血で汚れているが、そうで無ければオシャレで可愛らしい印象を与える。というのを目指して作った。

 この服は、茉理が魔法少女として戦う際の衣装として俺が作ったものだった。


 魔獣と戦うのはいいが、正体がバレるのは嫌だ。そんな茉理の希望を叶えるため、俺とバニラとはそれぞれ案を出した。

 そのうち一つが先に挙げたように、バニラの魔法を使ってあらゆる記憶媒体を封じることだ。これにより茉理の姿が記録に残ることは無くなった。


 しかし例え記録には残らなくても、直接目にした人の記憶には残る。もし顔を覚えられでもしたら、そこから正体がバレないとも限らない。

 そこで、何とかして顔を隠せないかという話になったのだ。


「私は服面でもかぶろうかって言ったけど、バニラが反対したんだよね」

「当り前ニャ。覆面を被って攻撃方法は殴る蹴る、これじゃまるでプロレスラーだニャ。そこで、浩平君がヴェールで顔を覆うことを提案してくれたニャ」


 そう、茉理が戦いの間つけているヴェールは俺のアイディアだ。それだけでなく、それに合わせた衣装も作成した。

 以前に言った通り、俺の父親の職業はファッションデザイナーだ。その姿を幼いころから見てきたせいだろうか、俺自身も服のデザイン、さらには作り方に興味を持ち、元々趣味で服作りをやっていた。

 変わった趣味だって?ほっとけ。


「私は顔さえ隠せたらそれでいいって言ったんだけどね。作るって言ったって簡単じゃないでしょ。それも何着も」


 俺が茉理のためにと作った服は一着では無い。そのどれもが異なるデザインとなっていて、作るとなるとそれなりに手間も製作費もかかる。

 だがそれを嫌だと思ったことは一度も無い。


「元々趣味でやっていたことの延長だから気にするな。これでもデザイナー志望だから、その練習みたいなもんだ。製作費だって、服を作りたいって言ったら父さんからたっぷり仕送りもらった」

「さすが、リッチな家だね」


 これが放任か、それとも俺が信頼されてるのかは分からないが、都合がいいのは確かだった。


「それに服の作成は正体を隠す意味でもちゃんとメリットがある。着ている服が変わると受ける印象も変わるんだ。単に顔を隠すだけよりバレにくくなると思うぞ」



 そう言うわけで、茉理が魔獣と戦う時には常に俺の作った衣装を着ていた。

「ありがとね、浩平」

「お…おう」


 茉理が改めてお礼を言う。にっこりと笑うその姿はとても可愛くて、俺は思わず照れながら顔を逸らした。

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